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95.名前を考えてあげてね

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 抱えた袋をリリアナに手渡した。馬車に乗るまで侍女が預かってくれたけれど、乗り込んだ際に受け取ったの。お人形はもちろん、着せ替えの服や小物も全部入れたわ。手提げ袋にリボンを巻いたプレゼント。

 トランク型の方がたくさん入るのだけど、普段持ち歩くなら手提げ袋の方が柔らかくて安心だった。リリアナは花柄の手提げ袋を抱き締め、嬉しそうにお礼を言う。それから外に巻いたリボンを解いた。

「すごく嬉しいです」

 満面の笑みで袋を開く。目を見開き、袋をベンチタイプの椅子に置いた。両手を入れて、人形の脇を抱えて引っ張り出す。銀糸の髪がさらりと流れる琥珀の瞳のお人形は、くたりと柔らかい。自力で座れるよう、腰から下は蕎麦殻を入れた。ざらざらと音がするのはそのせい。

 リリアナは「可愛い」と呟いた後、膝の上に座らせた。横向きに抱っこして、銀の髪を撫でる。

「私と同じ色だわ」

「ええ、リリアナの妹ね」

 喜んでくれてよかった。オレンジ色のドレスを纏うお人形に、リリアナは頬を寄せた。肌触りを考えて絹にしようとしたら、綿の方がいいと教えてもらった。何度も洗って柔らかくした綿の生地はふわふわと心地よい。

「気持ちいい。ありがとうございます、本当に嬉しい」

「その子には名前がないの。リリアナが付けてあげるといいわ」

 お母様が微笑んでそう告げる。エルという孫が出来た直後、今度は可愛い孫娘も増えた。一緒にドレスや小物を用意してくれた母の提案に、リリアナは考え込む。

「すぐじゃなくてもいいのよ」

 助け船を出すつもりで話しかけると、彼女は頷いた。アルムニア公国に到着したら披露する約束をして、馬車の中でいろんな話をする。帝都で知り合ったお友達のこと、学院へ通うためのお勉強のこと。話したいことが溢れるリリアナは止まらなかった。

 お母様と私は、相槌を打ちながら聞く。母親がいなかった寂しさを埋めるように、リリアナは様々なことを話した。やがて疲れて眠ってしまうまで。

 揺れる馬車の中で、ぐらりとリリアナが傾く。話が途切れた時から危ないと思っていたので、私は受け止めて横たえた。ベンチになっている椅子で、膝枕をする。さらりと流れる銀髪を整え、離さないお人形の腕を引き寄せた。

「お母様、私……お腹を痛めて産んだエルが可愛いです。でも同じくらい、リリアナが愛おしいの」

「当然です。あなたはリリアナの母で、私は祖母なのだから。エルに素敵な姉が出来てよかったわ」

 断言するお母様に頷く。皇族の特徴を色濃く受け継ぐ可愛いリリアナ、いずれアルムニア女大公となり、帝国の要になる娘。大切に慈しみ、きちんと教育を施し、まっすぐに育ててあげたい。些細なことも口に出来る母娘になりたいわ。

 馬車は順調に街道を進む。以前逃げるように辿った街道を、逆方向へ走っていた。この先は私を虐げたモンテシーノス王国ではなく、愛しい人が待つアルムニア公国。これからの幸せを思い、胸が高鳴った。
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