95 / 122
95.名前を考えてあげてね
しおりを挟む
抱えた袋をリリアナに手渡した。馬車に乗るまで侍女が預かってくれたけれど、乗り込んだ際に受け取ったの。お人形はもちろん、着せ替えの服や小物も全部入れたわ。手提げ袋にリボンを巻いたプレゼント。
トランク型の方がたくさん入るのだけど、普段持ち歩くなら手提げ袋の方が柔らかくて安心だった。リリアナは花柄の手提げ袋を抱き締め、嬉しそうにお礼を言う。それから外に巻いたリボンを解いた。
「すごく嬉しいです」
満面の笑みで袋を開く。目を見開き、袋をベンチタイプの椅子に置いた。両手を入れて、人形の脇を抱えて引っ張り出す。銀糸の髪がさらりと流れる琥珀の瞳のお人形は、くたりと柔らかい。自力で座れるよう、腰から下は蕎麦殻を入れた。ざらざらと音がするのはそのせい。
リリアナは「可愛い」と呟いた後、膝の上に座らせた。横向きに抱っこして、銀の髪を撫でる。
「私と同じ色だわ」
「ええ、リリアナの妹ね」
喜んでくれてよかった。オレンジ色のドレスを纏うお人形に、リリアナは頬を寄せた。肌触りを考えて絹にしようとしたら、綿の方がいいと教えてもらった。何度も洗って柔らかくした綿の生地はふわふわと心地よい。
「気持ちいい。ありがとうございます、本当に嬉しい」
「その子には名前がないの。リリアナが付けてあげるといいわ」
お母様が微笑んでそう告げる。エルという孫が出来た直後、今度は可愛い孫娘も増えた。一緒にドレスや小物を用意してくれた母の提案に、リリアナは考え込む。
「すぐじゃなくてもいいのよ」
助け船を出すつもりで話しかけると、彼女は頷いた。アルムニア公国に到着したら披露する約束をして、馬車の中でいろんな話をする。帝都で知り合ったお友達のこと、学院へ通うためのお勉強のこと。話したいことが溢れるリリアナは止まらなかった。
お母様と私は、相槌を打ちながら聞く。母親がいなかった寂しさを埋めるように、リリアナは様々なことを話した。やがて疲れて眠ってしまうまで。
揺れる馬車の中で、ぐらりとリリアナが傾く。話が途切れた時から危ないと思っていたので、私は受け止めて横たえた。ベンチになっている椅子で、膝枕をする。さらりと流れる銀髪を整え、離さないお人形の腕を引き寄せた。
「お母様、私……お腹を痛めて産んだエルが可愛いです。でも同じくらい、リリアナが愛おしいの」
「当然です。あなたはリリアナの母で、私は祖母なのだから。エルに素敵な姉が出来てよかったわ」
断言するお母様に頷く。皇族の特徴を色濃く受け継ぐ可愛いリリアナ、いずれアルムニア女大公となり、帝国の要になる娘。大切に慈しみ、きちんと教育を施し、まっすぐに育ててあげたい。些細なことも口に出来る母娘になりたいわ。
馬車は順調に街道を進む。以前逃げるように辿った街道を、逆方向へ走っていた。この先は私を虐げたモンテシーノス王国ではなく、愛しい人が待つアルムニア公国。これからの幸せを思い、胸が高鳴った。
トランク型の方がたくさん入るのだけど、普段持ち歩くなら手提げ袋の方が柔らかくて安心だった。リリアナは花柄の手提げ袋を抱き締め、嬉しそうにお礼を言う。それから外に巻いたリボンを解いた。
「すごく嬉しいです」
満面の笑みで袋を開く。目を見開き、袋をベンチタイプの椅子に置いた。両手を入れて、人形の脇を抱えて引っ張り出す。銀糸の髪がさらりと流れる琥珀の瞳のお人形は、くたりと柔らかい。自力で座れるよう、腰から下は蕎麦殻を入れた。ざらざらと音がするのはそのせい。
リリアナは「可愛い」と呟いた後、膝の上に座らせた。横向きに抱っこして、銀の髪を撫でる。
「私と同じ色だわ」
「ええ、リリアナの妹ね」
喜んでくれてよかった。オレンジ色のドレスを纏うお人形に、リリアナは頬を寄せた。肌触りを考えて絹にしようとしたら、綿の方がいいと教えてもらった。何度も洗って柔らかくした綿の生地はふわふわと心地よい。
「気持ちいい。ありがとうございます、本当に嬉しい」
「その子には名前がないの。リリアナが付けてあげるといいわ」
お母様が微笑んでそう告げる。エルという孫が出来た直後、今度は可愛い孫娘も増えた。一緒にドレスや小物を用意してくれた母の提案に、リリアナは考え込む。
「すぐじゃなくてもいいのよ」
助け船を出すつもりで話しかけると、彼女は頷いた。アルムニア公国に到着したら披露する約束をして、馬車の中でいろんな話をする。帝都で知り合ったお友達のこと、学院へ通うためのお勉強のこと。話したいことが溢れるリリアナは止まらなかった。
お母様と私は、相槌を打ちながら聞く。母親がいなかった寂しさを埋めるように、リリアナは様々なことを話した。やがて疲れて眠ってしまうまで。
揺れる馬車の中で、ぐらりとリリアナが傾く。話が途切れた時から危ないと思っていたので、私は受け止めて横たえた。ベンチになっている椅子で、膝枕をする。さらりと流れる銀髪を整え、離さないお人形の腕を引き寄せた。
「お母様、私……お腹を痛めて産んだエルが可愛いです。でも同じくらい、リリアナが愛おしいの」
「当然です。あなたはリリアナの母で、私は祖母なのだから。エルに素敵な姉が出来てよかったわ」
断言するお母様に頷く。皇族の特徴を色濃く受け継ぐ可愛いリリアナ、いずれアルムニア女大公となり、帝国の要になる娘。大切に慈しみ、きちんと教育を施し、まっすぐに育ててあげたい。些細なことも口に出来る母娘になりたいわ。
馬車は順調に街道を進む。以前逃げるように辿った街道を、逆方向へ走っていた。この先は私を虐げたモンテシーノス王国ではなく、愛しい人が待つアルムニア公国。これからの幸せを思い、胸が高鳴った。
19
お気に入りに追加
2,772
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【1/1取り下げ予定】本当の妹だと言われても、お義兄様は渡したくありません!
gacchi
恋愛
事情があって公爵家に養女として引き取られたシルフィーネ。生まれが子爵家ということで見下されることも多いが、公爵家には優しく迎え入れられている。特に義兄のジルバードがいるから公爵令嬢にふさわしくなろうと頑張ってこれた。学園に入学する日、お義兄様と一緒に馬車から降りると、実の妹だというミーナがあらわれた。「初めまして!お兄様!」その日からジルバードに大事にされるのは本当の妹の私のはずだ、どうして私の邪魔をするのと、何もしていないのにミーナに責められることになるのだが…。電子書籍化のため、1/1取り下げ予定です。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる