上 下
92 / 122

92.婚約を飛ばして結婚式の準備

しおりを挟む
 私の婚約が公表されて数日すると、お祝いの品が届き始めた。すべてお母様が開封し、お父様がお返事を出していく。私は別の仕事があった。

「お嬢様、腕をあげてください。もう大丈夫です。ありがとうございました」

「他は平気そう?」

「靴のサイズと形だけ、もう一度測定しておきましょう」

 侍女や仕立て屋さんの指示でくるくると周り、腕を上げたり下ろしたり。柔らかな粘土で靴の型を作った。婚礼衣装は白に水色と銀の刺繍を入れるらしい。重くなるので膨らますのを諦め、形をエンパイアラインに決めた。

 胸の下からすとんと落ちる形なので、ウエストをキツく絞る下着は使わない。何枚も重ねるスカートは薄絹をふんだんに使い、歩くとふわふわ揺れるよう調整すると聞いた。

「お義母様には銀が似合うわ」

「そうね、リリアナの髪色ですもの」

 邪魔になる金髪を結い上げた私は、微笑んで娘に言葉を向ける。喜ばせようと考えるより前に、銀といえばリリアナの髪が浮かんだ。自然と口を衝く言葉に、彼女は嬉しそうに頬を染める。

「宝石はどちらにしますか」

「青色がいいわ。濃いめの色にして頂戴」

 宝石の値段や種類はこだわらない。けれど、色だけは譲れなかった。美しく透き通った青がいいの。水色と銀の刺繍にも似合うと思う。そう伝えたら、複数の宝石箱が運ばれてきた。

 大量の宝石からいくつか選んで、リリアナと覗き込む。レース編みのように金の鎖が連なる首飾りは、小粒の宝石が散りばめられていた。胸に当ててみると、柔らかなグラデーションが美しい。青を中心に、ピンクの宝石や黄金の花細工が光を弾いた。

「これが綺麗! お義母様に似合うわ」

 リリアナのお墨付きなので、見守る侍女達と頷き合ってこの首飾りに決めた。同じ細工の髪飾りが下の箱から出てきて、それもヴェールを留める飾りに選ぶ。

「リリアナのドレスも作らなくてはね」

「私も?」

 首を傾げるリリアナに、大切な役目をお願いする。視線を合わせて手を握った。

「リリアナにお願いがあるのよ。私とオスカル様の結婚式で、黄金の鳥を運んで欲しいの」

 皇族の結婚式で、神殿に納められる飾り物だ。純金で作られる小さな動物をひとつ、結婚式のたびに増やしていく。オスカル様と私が選んだのは、小鳥だった。大きさは親指ほどの細工物で、重くない。専用の箱に入れて、未婚の親族が納める慣わしだ。

「私でいいの?」

「リリアナ以外にお願いする気はないわ。だって、私達の最愛の娘だもの」

「お祝い、する」

 引き受けてくれる彼女を抱き寄せて、額にキスをした。笑顔を振り撒くリリアナは、その後も小物選びを一緒に楽しんだ。

 二人とも子どもがいるので、婚約を飛ばして結婚式の準備に入る。オスカル様は領地の仕事で公国へ戻り、大公家も賑やかに準備を始めた。

 アルムニア公国の慣習で、大公妃を迎える結婚式をもう一度行うのだとか。以前一度結婚しているので、人生で3回も結婚式が経験できる。すごく得した気分だった。

「あらあら、私達の仕事がなくなってしまうわ」

「いいじゃないの。私達はお金だけ出しておきましょう」

 お祖母様とお母様は、そう笑い合って手伝い始める。様々なしきたりや決まり事を教えてもらいながら、私とリリアナは準備を進めた。
しおりを挟む
感想 359

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...