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89.跡取りの心配は無用でした
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ひいお祖父様から、思わぬ提案を受けた。
「結婚するまで、この宮殿に住むといい」
「父上、偉そうに発言していますが、宮殿の今の主人は私です。もちろん、結婚式もこの宮殿で挙げるよう手配する」
お祖父様も一緒になって提案するので、事情がつかめました。おそらく、私が公爵邸に戻ることが嫌なのでしょう。ナサニエルに会えなくなるのはもちろんですが、あの事件があった現場に私を帰すことを心配している。そんな気がしました。
お母様にお話ししたら、笑いながら付け足されます。
「それだけじゃないわ。モンテシーノス王国から取り戻したのに、アルムニア公国にあなたを取られるからよ。祝い事だから邪魔しないけれど、少しでも長く一緒にいたいのね」
「そちらは気づきませんでした」
「ふふっ、幸せな時って期待の方が大きいもの。向こうで落ち着いたら、ふとした時に宮殿での生活を思い出したりするのよ」
お母様はご自分の体験談として話す。その貴重な話に耳を傾け、未来を想像した。オスカル様と私は夫婦になって、可愛い娘リリアナとナサニエルを……あっ!
「大切なことを忘れていました。私、次のエリサリデ女公爵なのに、エルも公爵家の跡取りですわ」
お父様とお母様に他の子はいなかった。私が大公家に嫁いでしまったら、跡取りがいなくなる。それに男児であるエルが大公家に入ったら、リリアナと家督争いになってしまう。
考えはどんどん広がり、恐ろしく大きく膨らんだ。お母様はくすくすと笑って、私の金髪を撫でる。幼い頃もそうですが、母親の手はいつになっても特別だった。触れて欲しい、温かい。幸せしか知らない幼い記憶に繋がる。
「エリサリデ公爵家は、あなたを飛び越えてエルが継ぐの。だから三代継続の慣習からいけば、エルの子まで爵位が維持されるわ」
お父様もお母様もまだお若い。ギリギリまで爵位を維持していただけば、エルの成人まで私達は一緒に暮らせると聞き、ほっとした。
「リリアナは女大公になって、大公家を継げばいいわ。過去に女大公はいなかったから、歴史に名が残るわね」
「まぁ、素敵です」
リリアナは努力するし真っ直ぐで素直だ。女騎士になりたいと口にしたけれど、大公の地位に就けば必然的に軍の最高司令官だった。
「それにオスカル様もあなたもまだ若い。他にも生まれるかも知れないでしょう? 可愛いリリアナもエルもいるから、男女どちらでも歓迎するわよ」
お母様の期待が恥ずかしくて、照れてしまった。私とオスカル様の子ども……いずれ生まれたら嬉しい。リリアナとも相談したいわ。
「うぎゃぁあ!」
大きな声で泣くエルに呼ばれ、慌てて抱き上げる。そろそろ重くなって、腕にずっしり感じるようになった。慌ててサポートに入る侍女に礼を言って、ソファに腰掛ける。
「忘れてないわ、あなたにも相談するから泣かないで」
先ほどの考えを見抜かれたのかしら。そんな気分で声を掛けると、不思議なことにエルはぴたりと泣き止み、膝で這い這いを始めた。お母様が手を叩いて喜び、ソファの肘掛けから呼ぶ。侍女がクッションで横から支え、エルはぐっと体を起こした。
「やったわ!」
「頑張ったわね、エル」
興奮状態の私達に驚いたのか、エルはぺたんと転がってまた泣き出した。
「結婚するまで、この宮殿に住むといい」
「父上、偉そうに発言していますが、宮殿の今の主人は私です。もちろん、結婚式もこの宮殿で挙げるよう手配する」
お祖父様も一緒になって提案するので、事情がつかめました。おそらく、私が公爵邸に戻ることが嫌なのでしょう。ナサニエルに会えなくなるのはもちろんですが、あの事件があった現場に私を帰すことを心配している。そんな気がしました。
お母様にお話ししたら、笑いながら付け足されます。
「それだけじゃないわ。モンテシーノス王国から取り戻したのに、アルムニア公国にあなたを取られるからよ。祝い事だから邪魔しないけれど、少しでも長く一緒にいたいのね」
「そちらは気づきませんでした」
「ふふっ、幸せな時って期待の方が大きいもの。向こうで落ち着いたら、ふとした時に宮殿での生活を思い出したりするのよ」
お母様はご自分の体験談として話す。その貴重な話に耳を傾け、未来を想像した。オスカル様と私は夫婦になって、可愛い娘リリアナとナサニエルを……あっ!
「大切なことを忘れていました。私、次のエリサリデ女公爵なのに、エルも公爵家の跡取りですわ」
お父様とお母様に他の子はいなかった。私が大公家に嫁いでしまったら、跡取りがいなくなる。それに男児であるエルが大公家に入ったら、リリアナと家督争いになってしまう。
考えはどんどん広がり、恐ろしく大きく膨らんだ。お母様はくすくすと笑って、私の金髪を撫でる。幼い頃もそうですが、母親の手はいつになっても特別だった。触れて欲しい、温かい。幸せしか知らない幼い記憶に繋がる。
「エリサリデ公爵家は、あなたを飛び越えてエルが継ぐの。だから三代継続の慣習からいけば、エルの子まで爵位が維持されるわ」
お父様もお母様もまだお若い。ギリギリまで爵位を維持していただけば、エルの成人まで私達は一緒に暮らせると聞き、ほっとした。
「リリアナは女大公になって、大公家を継げばいいわ。過去に女大公はいなかったから、歴史に名が残るわね」
「まぁ、素敵です」
リリアナは努力するし真っ直ぐで素直だ。女騎士になりたいと口にしたけれど、大公の地位に就けば必然的に軍の最高司令官だった。
「それにオスカル様もあなたもまだ若い。他にも生まれるかも知れないでしょう? 可愛いリリアナもエルもいるから、男女どちらでも歓迎するわよ」
お母様の期待が恥ずかしくて、照れてしまった。私とオスカル様の子ども……いずれ生まれたら嬉しい。リリアナとも相談したいわ。
「うぎゃぁあ!」
大きな声で泣くエルに呼ばれ、慌てて抱き上げる。そろそろ重くなって、腕にずっしり感じるようになった。慌ててサポートに入る侍女に礼を言って、ソファに腰掛ける。
「忘れてないわ、あなたにも相談するから泣かないで」
先ほどの考えを見抜かれたのかしら。そんな気分で声を掛けると、不思議なことにエルはぴたりと泣き止み、膝で這い這いを始めた。お母様が手を叩いて喜び、ソファの肘掛けから呼ぶ。侍女がクッションで横から支え、エルはぐっと体を起こした。
「やったわ!」
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興奮状態の私達に驚いたのか、エルはぺたんと転がってまた泣き出した。
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