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86.もう立派なお姉ちゃんね
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驚くほど順調に話が進んだ。嫁が出来ると聞いて、飛び込んだ大叔父様が、私を抱き上げて叱られた。お医者様も安静にと言っていたわ。オスカル様に本気で怒られて、慌てて下ろす。
そのせいかしら。ひいお祖父様の命令で、将軍閣下と一緒に軍の訓練に駆り出されてしまった。せっかくお祝いに来てくれたけど、次にお会いできたのは一週間後だったわ。
大々的に婚約は発表されたが、夜会や舞踏会は開かれなかった。毎回、何か事件が起きるんだもの。験担ぎのひとつと聞いて、納得する。確かに何か起きるのよね。
「次に参加する夜会では、もう大公夫人ね」
くすくす笑うお母様が「追い抜かれてしまったわ」と口にして気づいた。私、アルムニア公国の頂点に立つ女性になるのね。慌てて礼儀作法や公国のルールを学び直す。すでに習ったカルレオン帝国とほぼ同じだった。考えてみたらそうよ。同じ皇族だもの。
「お嬢様、フォルテア侯爵家から帽子や靴が、パレデス伯爵家からドレスが届きました」
エルを抱いて、部屋で寛いでいたところに、侍女達が大きな箱を運んできた。絵本を読むリリアナが目を輝かせる。
「約束のドレスだわ」
「早いのね。リリアナ、皆と一緒に開いてくれる?」
「はい! お義母様」
嬉しそうに頷くリリアナが、侍女が解いた包装からドレスを取り出す。私用のドレスは大きいので、侍女がトルソーへ着せた。優しい緑のドレスは、オリーブグリーンに近かった。ミントのような明るい色ではない。
リリアナには大人っぽい気がしたけど、本人は「わぁ……素敵」と胸に当ててくるくる回る。用意された鏡の前でドレスを抱いて、ポーズをとった。
「お義母様、私に似合いますか?」
「ええ、もちろんよ。とても綺麗よ」
可愛いと言いそうになったけど、大人っぽい色のドレスなのだから綺麗の方が似合うわ。私の金髪にも、リリアナの銀髪にも似合う。深い色を選んだナタリア様に感心した。
侍女達が次に開けたのは、帽子と靴が入った箱。円柱の箱から出た帽子は、ツバが大きく肩幅程もある。靴も夜会用のヒールではなく、歩きやすい低めの踵だった。
「もしかして……お茶会用?」
お茶会は明るい色が多いので、てっきり夜会用のドレスだと思ってしまった。でもトルソーに掛けられたドレスの裾は、やや短めだわ。
「次のお茶会のお誘いをしなくちゃね」
「私も手伝う」
リリアナが大きく手を挙げて、笑顔で手伝いに名乗り出た。
「あら、リリアナが手伝うのは当然よ。私のお茶会に、私の娘が参加するのよ。準備も楽しみましょうね」
「っ! もちろんです」
ドレスを侍女に渡し、帽子を頭に乗せたリリアナが振り返り、勢いよく走ってきた。途中で帽子が落ちて、揺れる銀髪が彼女の背で踊る。手前で急に速度を落とし、ゆっくりとエルごと私の膝を包むように腕を回した。
「エルを気遣ってくれてありがとう。もう立派なお姉ちゃんね」
「ええ。私、いいお姉ちゃんになるわ」
弟になるエルは、大きな琥珀色の目を見開いて、リリアナに笑顔を向けた。
そのせいかしら。ひいお祖父様の命令で、将軍閣下と一緒に軍の訓練に駆り出されてしまった。せっかくお祝いに来てくれたけど、次にお会いできたのは一週間後だったわ。
大々的に婚約は発表されたが、夜会や舞踏会は開かれなかった。毎回、何か事件が起きるんだもの。験担ぎのひとつと聞いて、納得する。確かに何か起きるのよね。
「次に参加する夜会では、もう大公夫人ね」
くすくす笑うお母様が「追い抜かれてしまったわ」と口にして気づいた。私、アルムニア公国の頂点に立つ女性になるのね。慌てて礼儀作法や公国のルールを学び直す。すでに習ったカルレオン帝国とほぼ同じだった。考えてみたらそうよ。同じ皇族だもの。
「お嬢様、フォルテア侯爵家から帽子や靴が、パレデス伯爵家からドレスが届きました」
エルを抱いて、部屋で寛いでいたところに、侍女達が大きな箱を運んできた。絵本を読むリリアナが目を輝かせる。
「約束のドレスだわ」
「早いのね。リリアナ、皆と一緒に開いてくれる?」
「はい! お義母様」
嬉しそうに頷くリリアナが、侍女が解いた包装からドレスを取り出す。私用のドレスは大きいので、侍女がトルソーへ着せた。優しい緑のドレスは、オリーブグリーンに近かった。ミントのような明るい色ではない。
リリアナには大人っぽい気がしたけど、本人は「わぁ……素敵」と胸に当ててくるくる回る。用意された鏡の前でドレスを抱いて、ポーズをとった。
「お義母様、私に似合いますか?」
「ええ、もちろんよ。とても綺麗よ」
可愛いと言いそうになったけど、大人っぽい色のドレスなのだから綺麗の方が似合うわ。私の金髪にも、リリアナの銀髪にも似合う。深い色を選んだナタリア様に感心した。
侍女達が次に開けたのは、帽子と靴が入った箱。円柱の箱から出た帽子は、ツバが大きく肩幅程もある。靴も夜会用のヒールではなく、歩きやすい低めの踵だった。
「もしかして……お茶会用?」
お茶会は明るい色が多いので、てっきり夜会用のドレスだと思ってしまった。でもトルソーに掛けられたドレスの裾は、やや短めだわ。
「次のお茶会のお誘いをしなくちゃね」
「私も手伝う」
リリアナが大きく手を挙げて、笑顔で手伝いに名乗り出た。
「あら、リリアナが手伝うのは当然よ。私のお茶会に、私の娘が参加するのよ。準備も楽しみましょうね」
「っ! もちろんです」
ドレスを侍女に渡し、帽子を頭に乗せたリリアナが振り返り、勢いよく走ってきた。途中で帽子が落ちて、揺れる銀髪が彼女の背で踊る。手前で急に速度を落とし、ゆっくりとエルごと私の膝を包むように腕を回した。
「エルを気遣ってくれてありがとう。もう立派なお姉ちゃんね」
「ええ。私、いいお姉ちゃんになるわ」
弟になるエルは、大きな琥珀色の目を見開いて、リリアナに笑顔を向けた。
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