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84.驚かせたいから内緒ね
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目の腫れを癒し、化粧で誤魔化す。侍女達の技術には、いつもながら感心するわ。あっという間に整えられた姿を、鏡で確認した。柔らかな桃色のドレスは、昼間のお茶会用に裾が僅かに短い。地面を擦って歩かないよう、くるぶし丈だった。本来、夫人同士のお茶会は庭を使うから。
リリアナは同じ桃色のワンピースね。色は私より濃いめかしら。まだ幼い部類に入るリリアナの裾丈は、膝をすっぽり覆う長さ。踏んだり引き摺らないけれど、貴族令嬢の品位を保つよう計算されていた。裾にレースとフリルを使って、長さがあるように装う。
「行きましょう、リリアナ」
「はい、お義母様」
少し早いけれどいいわよね。そう思って歩き出し、慌ててリリアナに口止めをした。
「リリアナ、最初だけいつも通りのお姉様にして。彼女達を驚かせたいの」
「分かったわ」
大人びた口調で頷く小さな淑女の銀髪に口付けし、私は手を繋いで歩き出した。お母様に言われて「見えるようになったこと」で驚かせようと思ったけれど、さらに報告が増えたわ。嬉しい報告ならいくつ重なってもいいわよね。
リリアナは宮殿の廊下を歩きながら、ちらりと私を見上げる。
「どうしたの?」
「エルを抱っこしないんだな、と思って。それに目のレース飾りはなぁに?」
「彼女達は何も知らないのよ」
私の目を保護するため、薄絹にレースのリボンを縫い止めた飾りが用意された。侍女が急拵えで用意したとは思えない布で、ゆったりと目を覆う。カーテンがなくても、光が調整できた。リリアナには、見慣れない布で不思議だったのね。
はっとした顔でリリアナが頷く。それから繋いだ指を解いて、しっかりと腕を掴み直した。
「こうした方が、前みたい?」
くすくす笑うリリアナに「ありがとう、一緒に驚かせましょうね」と微笑み返し、宮殿の客間へ向かった。お母様の侍女であるバーサがエルを連れ、共に入室する。
黒髪のフォルテア侯爵夫人シルビアは、鮮やかな紫のドレスだった。派手さはなく、品のいいデザインと控えめな飾りが施されている。お茶会用に仕立てた丈のスカートを摘み、上品にカーテシーを披露した。
隣のパレデス伯爵夫人ナタリア様も、優雅にスカートを摘んで一礼した。ナタリア様は空色の明るいドレスで、よちよち歩き始めたご令嬢と同じ生地で揃えていた。お揃いもいいわね。可愛い娘も出来たことだし。
私が見えなくなったと思っているのに、そのカーテシーは最上級のもので、手抜きなどなかった。本当に素晴らしいお友達だわ。彼女達に友人として認めてもらえて、心の底から嬉しい。溢れ出る感情をそのまま声に乗せた。
「お待たせしてごめんなさい。嬉しいお知らせがあるのよ」
リリアナは誘導するように、しっかり掴んだ私の腕を揺らす。足を踏み出して距離を縮め、どうやって見えることを告げようか考える。驚かせたいと思ったけれど、方法を考えていなかったの。
でも、今思いついたわ。
「シルビア様の紫のドレス、とても素敵ですわ。ナタリア様はお嬢様とお揃いですのね。羨ましい」
見えていなければ口にできない、色の話。誰も室内に入ってから声に出していない情報を、さり気なく彼女達へ聞かせる。
「え?」
「そんな……もしかして!」
二人は驚きで目を見開いた後、嬉しそうに笑う。その頬に流れる涙を見て、私の目はまた濡れた。今日は泣いてばかりの一日になりそう。
リリアナは同じ桃色のワンピースね。色は私より濃いめかしら。まだ幼い部類に入るリリアナの裾丈は、膝をすっぽり覆う長さ。踏んだり引き摺らないけれど、貴族令嬢の品位を保つよう計算されていた。裾にレースとフリルを使って、長さがあるように装う。
「行きましょう、リリアナ」
「はい、お義母様」
少し早いけれどいいわよね。そう思って歩き出し、慌ててリリアナに口止めをした。
「リリアナ、最初だけいつも通りのお姉様にして。彼女達を驚かせたいの」
「分かったわ」
大人びた口調で頷く小さな淑女の銀髪に口付けし、私は手を繋いで歩き出した。お母様に言われて「見えるようになったこと」で驚かせようと思ったけれど、さらに報告が増えたわ。嬉しい報告ならいくつ重なってもいいわよね。
リリアナは宮殿の廊下を歩きながら、ちらりと私を見上げる。
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「エルを抱っこしないんだな、と思って。それに目のレース飾りはなぁに?」
「彼女達は何も知らないのよ」
私の目を保護するため、薄絹にレースのリボンを縫い止めた飾りが用意された。侍女が急拵えで用意したとは思えない布で、ゆったりと目を覆う。カーテンがなくても、光が調整できた。リリアナには、見慣れない布で不思議だったのね。
はっとした顔でリリアナが頷く。それから繋いだ指を解いて、しっかりと腕を掴み直した。
「こうした方が、前みたい?」
くすくす笑うリリアナに「ありがとう、一緒に驚かせましょうね」と微笑み返し、宮殿の客間へ向かった。お母様の侍女であるバーサがエルを連れ、共に入室する。
黒髪のフォルテア侯爵夫人シルビアは、鮮やかな紫のドレスだった。派手さはなく、品のいいデザインと控えめな飾りが施されている。お茶会用に仕立てた丈のスカートを摘み、上品にカーテシーを披露した。
隣のパレデス伯爵夫人ナタリア様も、優雅にスカートを摘んで一礼した。ナタリア様は空色の明るいドレスで、よちよち歩き始めたご令嬢と同じ生地で揃えていた。お揃いもいいわね。可愛い娘も出来たことだし。
私が見えなくなったと思っているのに、そのカーテシーは最上級のもので、手抜きなどなかった。本当に素晴らしいお友達だわ。彼女達に友人として認めてもらえて、心の底から嬉しい。溢れ出る感情をそのまま声に乗せた。
「お待たせしてごめんなさい。嬉しいお知らせがあるのよ」
リリアナは誘導するように、しっかり掴んだ私の腕を揺らす。足を踏み出して距離を縮め、どうやって見えることを告げようか考える。驚かせたいと思ったけれど、方法を考えていなかったの。
でも、今思いついたわ。
「シルビア様の紫のドレス、とても素敵ですわ。ナタリア様はお嬢様とお揃いですのね。羨ましい」
見えていなければ口にできない、色の話。誰も室内に入ってから声に出していない情報を、さり気なく彼女達へ聞かせる。
「え?」
「そんな……もしかして!」
二人は驚きで目を見開いた後、嬉しそうに笑う。その頬に流れる涙を見て、私の目はまた濡れた。今日は泣いてばかりの一日になりそう。
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