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71.温室で小さなお茶会を

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 夜会で起きた事件は、すぐに調査と処分が行われた。オスカル様も関わったようで、忙しくしている。

「お久しぶりですわ、バレンティナ様」

「ご機嫌よう、誘いに応じていただき嬉しいです。シルビア様」

 フォルテア侯爵夫人をお茶会に誘った。私が彼女のお茶会に参加しようとしたのだけれど、慌てたシルビア様から連絡が入った。ご迷惑でなければ伺いたい、と。

 気を遣っていただいたのね。今回の事件に私は直接関わっていないけれど、逆恨みはどんな理由であれ起こる。心配する両親のため、外出を控えることにした。

 温室の手入れをして、居心地のいいソファーベッドを運び込む。これは幼い子ども達がいるからよ。シルビア様の友人であるパレデス伯爵夫人ナタリア様も、幼いご令嬢を連れて参加予定だ。

 どこの国でも同じ、幼い子がいると貴族夫人は社交が出来ない。自分で育てず乳母に預ける習慣があるモンテシーノス王国なら、社交は可能かもしれない。でもカルレオン帝国は授乳の有無に関わらず、歩き出す頃から母親が愛情を注ぐ教育が主流だった。

 貴族であっても同じ。その間は宮殿主催の夜会や呼び出し以外、ほとんど顔を見せなくなる。それが許される環境だった。誰もが通る道と、年配者は快く不在を受け入れる。若い未婚令嬢達も、将来は自分も子育てを頑張ると口にした。

 お祖母様の影響が大きいと、シルビア様に教えてもらった。それまで乳母任せだった育児を、お祖母様は自ら行う。皇后様が率先して行えば、他の貴族夫人も真似をする。

 我が子を放って夜会や社交に出ていくことに、気が咎めた女性も多かったのでしょうね。母を呼ぶ幼子の声を振り切って参加しても、ずっと気になってしまうから。いつしか、近い年齢の子を持つ親同士の交流が、ひとつの社交の形となっていたとか。

「初めてお目にかかります。パレデス伯爵家のナタリアと申します」

「初めまして、ナタリア様。どうぞ、バレンティナとお呼びください」

 和やかに始まったお茶会は、温室という閉ざされた空間の安心感も手伝い、すぐに打ち解けた。

「おね様! 見て!!」

「綺麗ね、リリアナ。お菓子を食べる前に手で触ってはダメよ」

「はい!」

 摘もうとした彼女へ首を横に振る。駆け戻ったリリアナは、用意されたソファーベッドに座った。低く作られたソファーベッドの周囲は、柔らかな絨毯が敷いてある。椅子やテーブルではなく、絨毯にクッションを置いて寛ぐスタイルでお茶会は始まった。

 幼子が熱いお茶に触れないよう、テーブル代わりのトレイには侍女が一人つく。危ないと判断したら、お茶やお菓子ごとトレイを持ち上げるのだ。シルビア様は編み物が好き、ナタリア様は刺繍が得意なのだとか。

 大好きなビーズ細工の話で盛り上がった。お互いに得意な物で、作品の交換を約束する。シルビア様は毛糸の帽子、ナタリア様も刺繍をしたハンカチ。私はビーズで作ったブローチを。

 4人の子ども達の分を交換する約束にしたけれど、うちだけリリアナとエルで2人なのよね。彼女達は構わないと言うけれど、お母様がレース編みを得意としていたわ。レースで何か編んでもらえるようお願いしようと決めた。
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