71 / 122
71.温室で小さなお茶会を
しおりを挟む
夜会で起きた事件は、すぐに調査と処分が行われた。オスカル様も関わったようで、忙しくしている。
「お久しぶりですわ、バレンティナ様」
「ご機嫌よう、誘いに応じていただき嬉しいです。シルビア様」
フォルテア侯爵夫人をお茶会に誘った。私が彼女のお茶会に参加しようとしたのだけれど、慌てたシルビア様から連絡が入った。ご迷惑でなければ伺いたい、と。
気を遣っていただいたのね。今回の事件に私は直接関わっていないけれど、逆恨みはどんな理由であれ起こる。心配する両親のため、外出を控えることにした。
温室の手入れをして、居心地のいいソファーベッドを運び込む。これは幼い子ども達がいるからよ。シルビア様の友人であるパレデス伯爵夫人ナタリア様も、幼いご令嬢を連れて参加予定だ。
どこの国でも同じ、幼い子がいると貴族夫人は社交が出来ない。自分で育てず乳母に預ける習慣があるモンテシーノス王国なら、社交は可能かもしれない。でもカルレオン帝国は授乳の有無に関わらず、歩き出す頃から母親が愛情を注ぐ教育が主流だった。
貴族であっても同じ。その間は宮殿主催の夜会や呼び出し以外、ほとんど顔を見せなくなる。それが許される環境だった。誰もが通る道と、年配者は快く不在を受け入れる。若い未婚令嬢達も、将来は自分も子育てを頑張ると口にした。
お祖母様の影響が大きいと、シルビア様に教えてもらった。それまで乳母任せだった育児を、お祖母様は自ら行う。皇后様が率先して行えば、他の貴族夫人も真似をする。
我が子を放って夜会や社交に出ていくことに、気が咎めた女性も多かったのでしょうね。母を呼ぶ幼子の声を振り切って参加しても、ずっと気になってしまうから。いつしか、近い年齢の子を持つ親同士の交流が、ひとつの社交の形となっていたとか。
「初めてお目にかかります。パレデス伯爵家のナタリアと申します」
「初めまして、ナタリア様。どうぞ、バレンティナとお呼びください」
和やかに始まったお茶会は、温室という閉ざされた空間の安心感も手伝い、すぐに打ち解けた。
「おね様! 見て!!」
「綺麗ね、リリアナ。お菓子を食べる前に手で触ってはダメよ」
「はい!」
摘もうとした彼女へ首を横に振る。駆け戻ったリリアナは、用意されたソファーベッドに座った。低く作られたソファーベッドの周囲は、柔らかな絨毯が敷いてある。椅子やテーブルではなく、絨毯にクッションを置いて寛ぐスタイルでお茶会は始まった。
幼子が熱いお茶に触れないよう、テーブル代わりのトレイには侍女が一人つく。危ないと判断したら、お茶やお菓子ごとトレイを持ち上げるのだ。シルビア様は編み物が好き、ナタリア様は刺繍が得意なのだとか。
大好きなビーズ細工の話で盛り上がった。お互いに得意な物で、作品の交換を約束する。シルビア様は毛糸の帽子、ナタリア様も刺繍をしたハンカチ。私はビーズで作ったブローチを。
4人の子ども達の分を交換する約束にしたけれど、うちだけリリアナとエルで2人なのよね。彼女達は構わないと言うけれど、お母様がレース編みを得意としていたわ。レースで何か編んでもらえるようお願いしようと決めた。
「お久しぶりですわ、バレンティナ様」
「ご機嫌よう、誘いに応じていただき嬉しいです。シルビア様」
フォルテア侯爵夫人をお茶会に誘った。私が彼女のお茶会に参加しようとしたのだけれど、慌てたシルビア様から連絡が入った。ご迷惑でなければ伺いたい、と。
気を遣っていただいたのね。今回の事件に私は直接関わっていないけれど、逆恨みはどんな理由であれ起こる。心配する両親のため、外出を控えることにした。
温室の手入れをして、居心地のいいソファーベッドを運び込む。これは幼い子ども達がいるからよ。シルビア様の友人であるパレデス伯爵夫人ナタリア様も、幼いご令嬢を連れて参加予定だ。
どこの国でも同じ、幼い子がいると貴族夫人は社交が出来ない。自分で育てず乳母に預ける習慣があるモンテシーノス王国なら、社交は可能かもしれない。でもカルレオン帝国は授乳の有無に関わらず、歩き出す頃から母親が愛情を注ぐ教育が主流だった。
貴族であっても同じ。その間は宮殿主催の夜会や呼び出し以外、ほとんど顔を見せなくなる。それが許される環境だった。誰もが通る道と、年配者は快く不在を受け入れる。若い未婚令嬢達も、将来は自分も子育てを頑張ると口にした。
お祖母様の影響が大きいと、シルビア様に教えてもらった。それまで乳母任せだった育児を、お祖母様は自ら行う。皇后様が率先して行えば、他の貴族夫人も真似をする。
我が子を放って夜会や社交に出ていくことに、気が咎めた女性も多かったのでしょうね。母を呼ぶ幼子の声を振り切って参加しても、ずっと気になってしまうから。いつしか、近い年齢の子を持つ親同士の交流が、ひとつの社交の形となっていたとか。
「初めてお目にかかります。パレデス伯爵家のナタリアと申します」
「初めまして、ナタリア様。どうぞ、バレンティナとお呼びください」
和やかに始まったお茶会は、温室という閉ざされた空間の安心感も手伝い、すぐに打ち解けた。
「おね様! 見て!!」
「綺麗ね、リリアナ。お菓子を食べる前に手で触ってはダメよ」
「はい!」
摘もうとした彼女へ首を横に振る。駆け戻ったリリアナは、用意されたソファーベッドに座った。低く作られたソファーベッドの周囲は、柔らかな絨毯が敷いてある。椅子やテーブルではなく、絨毯にクッションを置いて寛ぐスタイルでお茶会は始まった。
幼子が熱いお茶に触れないよう、テーブル代わりのトレイには侍女が一人つく。危ないと判断したら、お茶やお菓子ごとトレイを持ち上げるのだ。シルビア様は編み物が好き、ナタリア様は刺繍が得意なのだとか。
大好きなビーズ細工の話で盛り上がった。お互いに得意な物で、作品の交換を約束する。シルビア様は毛糸の帽子、ナタリア様も刺繍をしたハンカチ。私はビーズで作ったブローチを。
4人の子ども達の分を交換する約束にしたけれど、うちだけリリアナとエルで2人なのよね。彼女達は構わないと言うけれど、お母様がレース編みを得意としていたわ。レースで何か編んでもらえるようお願いしようと決めた。
20
お気に入りに追加
2,834
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる