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68.被害者か加害者か――SIDE父

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 夜会で騒ぎを起こしたオロスコ元男爵は、断首が決定した。重罪のため、もっと重い刑罰を求める声もあったが、皇帝である義父リカルドは首を横に振る。宮殿主催の夜会を汚した罪は重いが、必要以上に苦しめる罰は不要と言い切った。

 この意見には賛成だ。当主であったオロスコ元男爵の罪が重くなれば、親族への罰も比例して厳しくなる。愚かな行為をした娘も、修道院へ入り反省する道があったのに。妻子を道連れにすると知りながら、元男爵が人を傷つけた理由……。そこには同情の余地があったのだ。

 オロスコ元男爵が一人娘の教育を間違え、貴族として必要な調査を怠った事実は変わらない。だが陥れた側が、平民落ち程度で生き延びるのは腹が立っただろう。そこへ加え、連れ去られる彼は気づいてしまった。自分の人生は終わるのに、平然と罪を逃れた存在がいる。

 ダンスフロアで踊る伯爵夫妻は、彼を騙したグラセス元公爵夫人の両親だった。グラセス家に後妻として入り、正当な嫡女を虐待した女。彼女のせいで、自分達は貴族の爵位を失った。子爵家から男爵へ、さらに嘆願により平民へと。

 貴族でなければ、領地も取り上げられる。ずっと貴族として暮らしてきた男が、手に職を持っているわけもなく。今後は没落の一途を辿るだろう。妻子を着飾ることはもちろん、まともな屋敷に住まわせることも難しい。それどころか、悪くすれば日々の食事にも事欠く未来が待っていた。

 怖ろしい考えが彼の頭をよぎったのだ。どうせ破滅するなら、もろともに……道連れにするなら、妻子だけじゃなく元凶の女の親も、と。未来が好転する可能性はゼロに等しい。ならば爵位を保つ元凶の親を引きずり下ろしてやろう。

 尋問に対し、オロスコ元男爵は一切言い淀まなかった。すらすらと聞かれるまま話し続ける。気が触れているのかも知れない。そう思うほど、明るい声で朗らかに語った。

「そもそも、おかしいと思いませんか。この夜会に招待されていない私が、この場にいた理由……あの伯爵夫妻に入れてもらったんですよ」

 尋問に立ち会う貴族がざわりと揺れた。宰相を始めとする様々な役職の貴族の脳裏をよぎったのは、ある疑惑だ。皇族に恨みのある者を夜会に引き入れる。その意味を、私を含めた上位貴族は正確に理解した。

 皇族の暗殺未遂――それは罪状としてかなり重い部類に入る。国家転覆罪に匹敵するほどの重罪だった。すぐに伯爵夫妻への逮捕命令が出され、命を取り留めた夫とその妻は貴族用の牢へ入れられた。

 伯爵夫妻への追及はまだだが……おそらくオロスコ元男爵の供述が裏付けられるだろう。割り切って様々な裏事情を暴露する男は、その自白を功績として断首が確定した。

「ティナやリリアナ嬢の耳に入らぬよう、注意しなくてはならん」

「そうね」

 同意する妻フェリシアを抱き締め、並んでベッドに横たわる。すぐに押し寄せる眠気に身を委ね、意識を手放した。とんでもない夜会になったが、家族が無事でよかったと。それだけが眠りに落ちる私の意識を掠めた。
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