62 / 122
62.花の妖精の出来上がり
しおりを挟む
夜会の前、軽食のパンケーキを頬張るリリアナは、着替えたドレスに前掛けをした。本人は「子供じゃないわ」と嫌がったけれど、汚してからでは遅い。一緒に私が前掛けをしたことで、これがマナーだと覚えさせた。
「皆、これするの?」
「ええ。そうよ」
お父様はすでに宮殿へ出向いており、お母様はまだお着替え中。どちらもこの場にいないので、前掛け姿を披露することはないけれど。
「エルも?」
「エルもそうね」
授乳で吐き戻しても大丈夫なように、前掛けに似たエプロンを被せることが多い。ようやく納得して、リリアナはまたパンケーキを口に入れた。
正式なテーブルマナーはまだ早いけれど、人を不快にさせる音を出さないよう徹底している。これは貴族の子なら当然だった。手掴みせず、音を出さないだけでいい。ナイフやフォークの扱い方は、大人になるにつれ嫌でも覚える。
「おとぉ様とおじぃ様はまだ?」
「到着したらサロモンが知らせてくれますよ。溢れてるわ」
質問と食事を同時にすれば、口についた蜂蜜が垂れる。前掛けに垂れた分はいいけど、口元は拭わないと。手を伸ばしてナプキンで綺麗にして、リリアナに微笑みかけた。
「ありがとう、おね様」
照れたように頬を赤くして笑うリリアナは、残りを口に放り込んだ。もぐもぐ咀嚼する唇に、ジャムが付いてるわ。それも丁寧に拭っていると、サロモンが来客を告げた。
「お通しして」
「お迎えに上がりました」
オスカル様は一人で入室した。首を傾げたところ、簡単に説明される。向かう途中でベルトラン将軍と会い、意気投合して同行したとか。夜会の衣装で、ですよね?
「ええ、汚さなければいいですよ」
苦笑いするオスカル様に、前掛けを外してもらったリリアナは胸を張った。
「私は、綺麗よ」
汚さなかったと言いたいのに、ドレスアップしていることも手伝い、違う意味に受け取られた。
「本当に綺麗だ、お姫様。この首飾りは誰が選んだの?」
「おね様よ」
「リリアナと選んだのです」
私だけではなく、リリアナの意見も入ってる。オスカル様の琥珀の瞳に合わせ、琥珀をふんだんに使った首飾りにしました。髪飾りは青紫のドレスに合わせ、サファイアをあしらった逸品に。まるで愛らしい花の妖精みたいです。
どちらもリリアナの装飾品が入った宝石箱から選んだ。おそらく二人が買い与えた物だろう。まだ子供なので耳飾りや指輪は控えた。その分、首飾りには幅のあるレースを添え、豪華に仕上げている。
「バレンティナ様もお美しい」
「ありがとうございます」
照れた私がさらに言葉を足そうとした時、ちょうどお母様が入室した。
「あらやだ、邪魔したかしら」
「いえ」
すぐに否定するオスカル様は丁寧に腰を折って挨拶し、お母様も優雅に膝を落としてカーテシーを披露する。この時点で気づいたのですが、私……きちんとご挨拶していませんでした。
「皆、これするの?」
「ええ。そうよ」
お父様はすでに宮殿へ出向いており、お母様はまだお着替え中。どちらもこの場にいないので、前掛け姿を披露することはないけれど。
「エルも?」
「エルもそうね」
授乳で吐き戻しても大丈夫なように、前掛けに似たエプロンを被せることが多い。ようやく納得して、リリアナはまたパンケーキを口に入れた。
正式なテーブルマナーはまだ早いけれど、人を不快にさせる音を出さないよう徹底している。これは貴族の子なら当然だった。手掴みせず、音を出さないだけでいい。ナイフやフォークの扱い方は、大人になるにつれ嫌でも覚える。
「おとぉ様とおじぃ様はまだ?」
「到着したらサロモンが知らせてくれますよ。溢れてるわ」
質問と食事を同時にすれば、口についた蜂蜜が垂れる。前掛けに垂れた分はいいけど、口元は拭わないと。手を伸ばしてナプキンで綺麗にして、リリアナに微笑みかけた。
「ありがとう、おね様」
照れたように頬を赤くして笑うリリアナは、残りを口に放り込んだ。もぐもぐ咀嚼する唇に、ジャムが付いてるわ。それも丁寧に拭っていると、サロモンが来客を告げた。
「お通しして」
「お迎えに上がりました」
オスカル様は一人で入室した。首を傾げたところ、簡単に説明される。向かう途中でベルトラン将軍と会い、意気投合して同行したとか。夜会の衣装で、ですよね?
「ええ、汚さなければいいですよ」
苦笑いするオスカル様に、前掛けを外してもらったリリアナは胸を張った。
「私は、綺麗よ」
汚さなかったと言いたいのに、ドレスアップしていることも手伝い、違う意味に受け取られた。
「本当に綺麗だ、お姫様。この首飾りは誰が選んだの?」
「おね様よ」
「リリアナと選んだのです」
私だけではなく、リリアナの意見も入ってる。オスカル様の琥珀の瞳に合わせ、琥珀をふんだんに使った首飾りにしました。髪飾りは青紫のドレスに合わせ、サファイアをあしらった逸品に。まるで愛らしい花の妖精みたいです。
どちらもリリアナの装飾品が入った宝石箱から選んだ。おそらく二人が買い与えた物だろう。まだ子供なので耳飾りや指輪は控えた。その分、首飾りには幅のあるレースを添え、豪華に仕上げている。
「バレンティナ様もお美しい」
「ありがとうございます」
照れた私がさらに言葉を足そうとした時、ちょうどお母様が入室した。
「あらやだ、邪魔したかしら」
「いえ」
すぐに否定するオスカル様は丁寧に腰を折って挨拶し、お母様も優雅に膝を落としてカーテシーを披露する。この時点で気づいたのですが、私……きちんとご挨拶していませんでした。
14
お気に入りに追加
2,768
あなたにおすすめの小説
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【完結】婚約破棄をされたわたしは万能第一王子に溺愛されるようです
葉桜鹿乃
恋愛
婚約者であるパーシバル殿下に婚約破棄を言い渡されました。それも王侯貴族の通う学園の卒業パーティーの日に、大勢の前で。わたしより格下貴族である伯爵令嬢からの嘘の罪状の訴えで。幼少時より英才教育の過密スケジュールをこなしてきたわたしより優秀な婚約者はいらっしゃらないと思うのですがね、殿下。
わたしは国のため早々にこのパーシバル殿下に見切りをつけ、病弱だと言われて全てが秘されている王位継承権第二位の第一王子に望みを託そうと思っていたところ、偶然にも彼と出会い、そこからわたしは昔から想いを寄せられていた事を知り、さらには彼が王位継承権第一位に返り咲こうと動く中で彼に溺愛されて……?
陰謀渦巻く王宮を舞台に動く、万能王太子妃候補の恋愛物語開幕!(ただしバカ多め)
小説家になろう様でも別名義で連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照してください。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~
山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」
婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。
「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」
ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。
そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。
それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。
バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。
治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。
「お前、私の犬になりなさいよ」
「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」
「お腹空いた。ご飯作って」
これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、
凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
婚約者を奪われ魔物討伐部隊に入れられた私ですが、騎士団長に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のクレアは、婚約者の侯爵令息サミュエルとの結婚を間近に控え、幸せいっぱいの日々を過ごしていた。そんなある日、この国の第三王女でもあるエミリアとサミュエルが恋仲である事が発覚する。
第三王女の強い希望により、サミュエルとの婚約は一方的に解消させられてしまった。さらに第三王女から、魔王討伐部隊に入る様命じられてしまう。
王女命令に逆らう事が出来ず、仕方なく魔王討伐部隊に参加する事になったクレア。そんなクレアを待ち構えていたのは、容姿は物凄く美しいが、物凄く恐ろしい騎士団長、ウィリアムだった。
毎日ウィリアムに怒鳴られまくるクレア。それでも必死に努力するクレアを見てウィリアムは…
どん底から必死に這い上がろうとする伯爵令嬢クレアと、大の女嫌いウィリアムの恋のお話です。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる