49 / 122
49.エルの周囲は笑い声が満ちる
しおりを挟む
夜会は穏やかに終わり、夜も遅いので泊まっていくよう言われた。でも用意された屋敷は、隣の敷地なのだけれど。エルに構う祖父母の様子に、まだ構い足りないのねと納得する。
「分かりましたわ」
すでに私室は与えられているので、宮殿内を侍女に従って移動した。お母様やお祖母様がエルを見ている間に、着替えて湯浴みを済ませることにする。ここ最近、ずっとエルが一緒だったので、私だけだと物足りない。慌ただしい入浴にすっかり慣れてしまった。
豪華な部屋の調度品の前を抜け、浴室でドレスを脱がされる。侍女達の手際は素晴らしかった。立っているだけで服がするりと足元に落ちた。装飾品もすべて外し、ゆっくりと入浴する。
夜会での出来事が蘇って頬が緩んだ。主要な貴族の紹介があり、優しそうな侯爵夫人と知り合えたのだ。彼女も半年前に男児を出産しており、今回の夜会は社交界復帰なのだとか。黒髪の美しいご夫人で、穏やかな口調が印象的だった。
お茶会に誘っていただいたので、仲良くできたら嬉しい。子連れでお茶会に参加出来るよう、子守りを手配すると仰ってた。そうよね、話に夢中になり子どもから目を離したら危険だわ。
ふと、そこで気づいた。オスカル様も一般的なご挨拶は受けていたけれど、ご家族との会話はなかった。宮殿での夜会に、お祖父様の妹君が嫁いだ公爵家が不参加なんて、あるのかしら。
不自然だわ。何か不幸があって参加しなかった可能性もあるけれど、気に掛かった。グラセス公爵家の話は、お母様に聞いてみましょう。悩んでも仕方ないので、ラベンダーの香りがするお湯を楽しんだ。
ドレスではなく、ロングのワンピースに着替える。お母様曰く、淑女の戦闘服であるドレスは、一人で脱ぎ着できないよう作られていた。誰かに脱がされていないと操を証明するため、そして高価な絹を纏うのに相応しい使用人を抱えている財力を示すためらしい。
自分で脱ぎ着できないのは不便だが、確かに貴族らしい散財の仕方ね。使用人を置くことで雇用を生み出すし、豪華な絹のドレスは産業の一端を担う。宝飾品や部屋の豪華な調度品も、職人を育て保護するのにぴったりだった。
ワンピースの上にショールを羽織り、侍女と騎士に囲まれて宮殿内を歩く。足元の絨毯は臙脂、皇族のプライベート空間を示した。紺色の絨毯は外交的な場所で利用される。柔らかな臙脂の絨毯を踏み締め、案内された部屋に入った。
エルのはしゃぐ声が聞こえ、がらがらと玩具の音が響く。ひいお祖父様が、顔をくしゃりと皺だらけにして笑った。お祖母様とお母様はお茶ではなく、ワインを楽しんでいるみたい。お祖父様は難しい顔で書類を眺め、眉間を自分の指先で伸ばしていた。
「お待たせいたしました」
お父様がいないわ。きょろきょろと見回せば、気づいたお母様に手招きされた。素直に近くの椅子に腰掛ける。
「オスカル様と歓談中よ」
ああ、オスカル様も今夜は宿泊でしたね。明後日まで滞在し、明々後日のお昼頃に出立予定と聞きました。そう話せば、お祖父様が書類を机に伏せる。
「さて、ひ孫の顔を見てこよう」
お祖父様はいそいそと立ち上がり、ベビーベッドの縁から覗き込む。あうっ! と元気な声が響き、エルは大興奮だった。今夜、ちゃんと寝てくれるかしら。
オスカル様がいないならちょうどいいわ。私は早速、グラセス公爵家がいなかった理由を尋ねた。
「分かりましたわ」
すでに私室は与えられているので、宮殿内を侍女に従って移動した。お母様やお祖母様がエルを見ている間に、着替えて湯浴みを済ませることにする。ここ最近、ずっとエルが一緒だったので、私だけだと物足りない。慌ただしい入浴にすっかり慣れてしまった。
豪華な部屋の調度品の前を抜け、浴室でドレスを脱がされる。侍女達の手際は素晴らしかった。立っているだけで服がするりと足元に落ちた。装飾品もすべて外し、ゆっくりと入浴する。
夜会での出来事が蘇って頬が緩んだ。主要な貴族の紹介があり、優しそうな侯爵夫人と知り合えたのだ。彼女も半年前に男児を出産しており、今回の夜会は社交界復帰なのだとか。黒髪の美しいご夫人で、穏やかな口調が印象的だった。
お茶会に誘っていただいたので、仲良くできたら嬉しい。子連れでお茶会に参加出来るよう、子守りを手配すると仰ってた。そうよね、話に夢中になり子どもから目を離したら危険だわ。
ふと、そこで気づいた。オスカル様も一般的なご挨拶は受けていたけれど、ご家族との会話はなかった。宮殿での夜会に、お祖父様の妹君が嫁いだ公爵家が不参加なんて、あるのかしら。
不自然だわ。何か不幸があって参加しなかった可能性もあるけれど、気に掛かった。グラセス公爵家の話は、お母様に聞いてみましょう。悩んでも仕方ないので、ラベンダーの香りがするお湯を楽しんだ。
ドレスではなく、ロングのワンピースに着替える。お母様曰く、淑女の戦闘服であるドレスは、一人で脱ぎ着できないよう作られていた。誰かに脱がされていないと操を証明するため、そして高価な絹を纏うのに相応しい使用人を抱えている財力を示すためらしい。
自分で脱ぎ着できないのは不便だが、確かに貴族らしい散財の仕方ね。使用人を置くことで雇用を生み出すし、豪華な絹のドレスは産業の一端を担う。宝飾品や部屋の豪華な調度品も、職人を育て保護するのにぴったりだった。
ワンピースの上にショールを羽織り、侍女と騎士に囲まれて宮殿内を歩く。足元の絨毯は臙脂、皇族のプライベート空間を示した。紺色の絨毯は外交的な場所で利用される。柔らかな臙脂の絨毯を踏み締め、案内された部屋に入った。
エルのはしゃぐ声が聞こえ、がらがらと玩具の音が響く。ひいお祖父様が、顔をくしゃりと皺だらけにして笑った。お祖母様とお母様はお茶ではなく、ワインを楽しんでいるみたい。お祖父様は難しい顔で書類を眺め、眉間を自分の指先で伸ばしていた。
「お待たせいたしました」
お父様がいないわ。きょろきょろと見回せば、気づいたお母様に手招きされた。素直に近くの椅子に腰掛ける。
「オスカル様と歓談中よ」
ああ、オスカル様も今夜は宿泊でしたね。明後日まで滞在し、明々後日のお昼頃に出立予定と聞きました。そう話せば、お祖父様が書類を机に伏せる。
「さて、ひ孫の顔を見てこよう」
お祖父様はいそいそと立ち上がり、ベビーベッドの縁から覗き込む。あうっ! と元気な声が響き、エルは大興奮だった。今夜、ちゃんと寝てくれるかしら。
オスカル様がいないならちょうどいいわ。私は早速、グラセス公爵家がいなかった理由を尋ねた。
13
お気に入りに追加
2,772
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【1/1取り下げ予定】本当の妹だと言われても、お義兄様は渡したくありません!
gacchi
恋愛
事情があって公爵家に養女として引き取られたシルフィーネ。生まれが子爵家ということで見下されることも多いが、公爵家には優しく迎え入れられている。特に義兄のジルバードがいるから公爵令嬢にふさわしくなろうと頑張ってこれた。学園に入学する日、お義兄様と一緒に馬車から降りると、実の妹だというミーナがあらわれた。「初めまして!お兄様!」その日からジルバードに大事にされるのは本当の妹の私のはずだ、どうして私の邪魔をするのと、何もしていないのにミーナに責められることになるのだが…。電子書籍化のため、1/1取り下げ予定です。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる