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49.エルの周囲は笑い声が満ちる

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 夜会は穏やかに終わり、夜も遅いので泊まっていくよう言われた。でも用意された屋敷は、隣の敷地なのだけれど。エルに構う祖父母の様子に、まだ構い足りないのねと納得する。

「分かりましたわ」

 すでに私室は与えられているので、宮殿内を侍女に従って移動した。お母様やお祖母様がエルを見ている間に、着替えて湯浴みを済ませることにする。ここ最近、ずっとエルが一緒だったので、私だけだと物足りない。慌ただしい入浴にすっかり慣れてしまった。

 豪華な部屋の調度品の前を抜け、浴室でドレスを脱がされる。侍女達の手際は素晴らしかった。立っているだけで服がするりと足元に落ちた。装飾品もすべて外し、ゆっくりと入浴する。

 夜会での出来事が蘇って頬が緩んだ。主要な貴族の紹介があり、優しそうな侯爵夫人と知り合えたのだ。彼女も半年前に男児を出産しており、今回の夜会は社交界復帰なのだとか。黒髪の美しいご夫人で、穏やかな口調が印象的だった。

 お茶会に誘っていただいたので、仲良くできたら嬉しい。子連れでお茶会に参加出来るよう、子守りを手配すると仰ってた。そうよね、話に夢中になり子どもから目を離したら危険だわ。

 ふと、そこで気づいた。オスカル様も一般的なご挨拶は受けていたけれど、ご家族との会話はなかった。宮殿での夜会に、お祖父様の妹君が嫁いだ公爵家が不参加なんて、あるのかしら。

 不自然だわ。何か不幸があって参加しなかった可能性もあるけれど、気に掛かった。グラセス公爵家の話は、お母様に聞いてみましょう。悩んでも仕方ないので、ラベンダーの香りがするお湯を楽しんだ。

 ドレスではなく、ロングのワンピースに着替える。お母様曰く、淑女の戦闘服であるドレスは、一人で脱ぎ着できないよう作られていた。誰かに脱がされていないと操を証明するため、そして高価な絹を纏うのに相応しい使用人を抱えている財力を示すためらしい。

 自分で脱ぎ着できないのは不便だが、確かに貴族らしい散財の仕方ね。使用人を置くことで雇用を生み出すし、豪華な絹のドレスは産業の一端を担う。宝飾品や部屋の豪華な調度品も、職人を育て保護するのにぴったりだった。

 ワンピースの上にショールを羽織り、侍女と騎士に囲まれて宮殿内を歩く。足元の絨毯は臙脂、皇族のプライベート空間を示した。紺色の絨毯は外交的な場所で利用される。柔らかな臙脂の絨毯を踏み締め、案内された部屋に入った。

 エルのはしゃぐ声が聞こえ、がらがらと玩具の音が響く。ひいお祖父様が、顔をくしゃりと皺だらけにして笑った。お祖母様とお母様はお茶ではなく、ワインを楽しんでいるみたい。お祖父様は難しい顔で書類を眺め、眉間を自分の指先で伸ばしていた。

「お待たせいたしました」

 お父様がいないわ。きょろきょろと見回せば、気づいたお母様に手招きされた。素直に近くの椅子に腰掛ける。

「オスカル様と歓談中よ」

 ああ、オスカル様も今夜は宿泊でしたね。明後日まで滞在し、明々後日のお昼頃に出立予定と聞きました。そう話せば、お祖父様が書類を机に伏せる。

「さて、ひ孫の顔を見てこよう」

 お祖父様はいそいそと立ち上がり、ベビーベッドの縁から覗き込む。あうっ! と元気な声が響き、エルは大興奮だった。今夜、ちゃんと寝てくれるかしら。

 オスカル様がいないならちょうどいいわ。私は早速、グラセス公爵家がいなかった理由を尋ねた。
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