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29.休日を台無しにしてしまうわ
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昨夜興奮したせいで眠れず、なんだか体が重い。でも私を楽しませようとする大叔父様の顔を曇らせたくなくて、黙って同行した。出産後の私の体を気遣い、馬車で店まで乗り付けてくれた。歩くのは店の中だけ、これなら平気そう。
両親と大叔父様に抱っこされるナサニエルは、とても大人しい。年配の侍女に抱き方指導を受けた大叔父様は、すぐにコツを掴んだ。大きな手だから、頭が安定するみたい。後頭部を掴むように首ごと支える大叔父様の抱っこが、一番気に入ってるのね。機嫌よく、小さな声を上げる。
「お母……えっと、ティナ様」
お母様と呼んではダメと言われ、リリアナは困惑した顔だった。でも覚えがいいのか、すぐに名前に訂正する。バレンティナの「バ」がうまく発音できず、縮めて愛称で呼んでもらう。
「申し訳ありません。家族に付き合わせてしまいました」
謝るオスカル様に、首を横に振った。真ん中のリリアナを挟んで手を繋いだ私は、言葉を選ぶ。
「大叔父様は喜ばせようとしてくださっただけ。ナサニエルも喜んでいますし、私は受け入れてもらえたことが嬉しいですわ」
本心だった。出戻りの元貴族夫人なんて、実家で嫌な顔をされるのが普通と聞いたわ。一人娘だから、お父様もお母様も何も言わない。でも、他の親族は違うかもしれない。ひいお祖父様やお祖父様は別として、大公閣下は嫌な顔をなさるんじゃないかしら。そう思った時期もあるの。
自分の孫のように受け入れ、優しく労ってくれる。それだけでなく、気晴らしに連れ出されたことも、とても感謝していた。嘘偽りない本心だとわかるよう、満面の笑みを添える。
オスカル様はほんのりと頬を染めた。それが可愛いと思うのは……あれよ、息子の赤い頬と重なるからだわ。納得できる理由に、一瞬高鳴った胸が落ち着いていく。
「こちらにいらっしゃい、リリアナちゃんに似合うわ」
お母様がレースのリボンを見つけ、手招きする。喜んで駆け出そうとしたリリアナに引かれ、足を踏み出した。がくんと膝から崩れる。馬車に揺られるみたいに、世界が大きく傾いた。回転する景色に吐き気がする。
「あっ」
転んでしまう。巻き込まないようリリアナの手を離し、開いた手を前に出した。手をついて堪えなくては……。こんな時に頭をよぎるのは、ナサニエルを抱いていなくて良かった、という安堵。私が落としたら、酷いケガをさせたかも。
自分のケガは我慢できても、我が子のそれは無理よ。リリアナが驚いた顔で振り返る。全体にゆっくりと時間が流れる気がした。泣きそうな顔をしたリリアナに「大丈夫」と声を絞り出したけど、聞こえたかしら。
ごめんなさい。大叔父様やオスカル様の休日を台無しにして。リリアナが自分を責めないといいけれど。床に倒れ込む痛みも感じなくて、そのまま引き込まれるように意識が沈んだ。
両親と大叔父様に抱っこされるナサニエルは、とても大人しい。年配の侍女に抱き方指導を受けた大叔父様は、すぐにコツを掴んだ。大きな手だから、頭が安定するみたい。後頭部を掴むように首ごと支える大叔父様の抱っこが、一番気に入ってるのね。機嫌よく、小さな声を上げる。
「お母……えっと、ティナ様」
お母様と呼んではダメと言われ、リリアナは困惑した顔だった。でも覚えがいいのか、すぐに名前に訂正する。バレンティナの「バ」がうまく発音できず、縮めて愛称で呼んでもらう。
「申し訳ありません。家族に付き合わせてしまいました」
謝るオスカル様に、首を横に振った。真ん中のリリアナを挟んで手を繋いだ私は、言葉を選ぶ。
「大叔父様は喜ばせようとしてくださっただけ。ナサニエルも喜んでいますし、私は受け入れてもらえたことが嬉しいですわ」
本心だった。出戻りの元貴族夫人なんて、実家で嫌な顔をされるのが普通と聞いたわ。一人娘だから、お父様もお母様も何も言わない。でも、他の親族は違うかもしれない。ひいお祖父様やお祖父様は別として、大公閣下は嫌な顔をなさるんじゃないかしら。そう思った時期もあるの。
自分の孫のように受け入れ、優しく労ってくれる。それだけでなく、気晴らしに連れ出されたことも、とても感謝していた。嘘偽りない本心だとわかるよう、満面の笑みを添える。
オスカル様はほんのりと頬を染めた。それが可愛いと思うのは……あれよ、息子の赤い頬と重なるからだわ。納得できる理由に、一瞬高鳴った胸が落ち着いていく。
「こちらにいらっしゃい、リリアナちゃんに似合うわ」
お母様がレースのリボンを見つけ、手招きする。喜んで駆け出そうとしたリリアナに引かれ、足を踏み出した。がくんと膝から崩れる。馬車に揺られるみたいに、世界が大きく傾いた。回転する景色に吐き気がする。
「あっ」
転んでしまう。巻き込まないようリリアナの手を離し、開いた手を前に出した。手をついて堪えなくては……。こんな時に頭をよぎるのは、ナサニエルを抱いていなくて良かった、という安堵。私が落としたら、酷いケガをさせたかも。
自分のケガは我慢できても、我が子のそれは無理よ。リリアナが驚いた顔で振り返る。全体にゆっくりと時間が流れる気がした。泣きそうな顔をしたリリアナに「大丈夫」と声を絞り出したけど、聞こえたかしら。
ごめんなさい。大叔父様やオスカル様の休日を台無しにして。リリアナが自分を責めないといいけれど。床に倒れ込む痛みも感じなくて、そのまま引き込まれるように意識が沈んだ。
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