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22.すべてが裏目に出た――SIDE元義父
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優秀な息子だ。この子がよい嫁を得たことで、セルラノ侯爵家は栄えている。公爵家や隣国の大公家を始めとした上位者との取引が増え、家は大いに潤った。カルレオン帝国からも取引が入るようになり、捌ききれないほどの仕事が舞い込む。
ベルナルドは、大陸最大のカルレオン帝国皇孫と結婚した。これが快挙でなくて、何と呼ぶのか。
舅である私はもちろん、姑に当たる妻も嫁を大切にした。なにしろ次期王妃を産む雌鶏なのだ。彼女の負担にならぬよう、王都にある屋敷を明け渡す。領地にある本邸に戻り、時折顔を見せては孫を孕む日を夢見た。妊娠が知らされ、生まれる日を指折り数える。
後少しだった。何もかも上手くいく。未来の王太子を産む金の雌鶏が手に入る。浮かれて、予定日に合わせ領地を出た。途中で産気づいたと報告を受け、焦る気持ちを抑え馬車を進める。到着した我々を待っていたのは、生まれた子が男児であった報告だった。
跡取り息子を産むのは、嫁いだ貴族女性にとって大事なことだ。だが、今ではない。王家に王子が生まれた絶妙な時期に、なぜ女児を産まなかったのか。息子の執務室で、嫁を罵った。
「男だと? 男では王妃になれんではないか」
「まったく、あの嫁は何をしているの。私達の可愛い息子が種を蒔いたのに、男児ですって?」
散々騒いだ後、気持ちを落ち着かせる。息子が持ち込んだ案に乗るためだった。眠った嫁に、別の赤子を与える。他の貴族が産んだ女児を、侯爵家の令嬢として迎えるのだ。向こうにしても光栄だろう。しがない下級貴族の娘が、次期王妃になるのだから。バレるかも知れないが、その前に別の娘を産ませればいい。
いや、いっそのこと場つなぎしておいて、数年後に産まれる孫娘と婚約者の立場を入れ替えたら。完璧な案に思えた。息子に相談すると、それはいいと賛成する。すぐに手筈を整えると言った息子を見送り、嫁の見舞いに向かった。
ここで優しい義父母を演じておかなくては、今後の関係に差し支える。譲歩する気で向かった私達は、泣きじゃくり赤子を否定する嫁に愕然とした。彼女がすべてを台無しにするかも知れない。息子が築いた立場や繁栄、今後の輝かしい未来までも。この嫁は我が侭で押し潰そうとしている。嫁いだ以上は、婚家に従うべきだ。
生まれたのは女児だった。跡取り息子ではなく、次期王妃なのだ。そう言い含め、部屋を後にする。しばらくは外出を禁止し、厳しく接する必要がありそうだ。妻と相談して、執事アーロンにもその旨を言い聞かせた。
だが……執事では帝国の第三皇女を止められなかった。嫁は連れ去られ、今後は金の卵を産まない。そう気付いた私達に、妻を連れ戻すようベルナルドは指示を出した。国王に呼び出された息子は、セルラノ侯爵として顔を出さなくてはならない。
エリサリデ侯爵家がどのような動きに出るか。モンテシーノス王国を捨てる可能性に思い至り、慌てて馬車で駆けつけた。騒動から僅か数日なのに、帝国の騎士団が屋敷を取り囲んでいる。大きな荷馬車が何台も並び、カルレオン帝国の紋章が入った馬車もあった。後ろの屋敷は人気がなく、がらんとしている。
動き出す騎士団の前に飛び出せば、槍や剣を向けられた。びくりと身を竦ませた私と妻に、エリサリデ侯爵が近づく。
「何の用ですか」
「嫁を……ティーナを返していただきたい。少し誤解と勘違いがあったようだが、息子は嫁を愛している」
「……っ! どの口がそれを言うか!」
普段から温厚な表情しか見せぬエリサリデ侯爵の怒号に、次の句が出てこない。そこへ騎士団を率いる大柄な男が進み出て、退くように命じた。もし従わねば、切り捨てると。許されるわけがない、その反論に将軍だという男は笑った。
「カルロス王は承認しましたぞ」
驚いて目を見開く。もしかして、王宮へ呼び出された息子は……帰ってこないのでは? 恐怖で足が竦み、崩れるように座り込んだ。危険を感じた御者に引きずられ、私と妻は騎士団の旅立ちを見送る。あの行列の中に、バレンティナがいる……もう手が届かない皇女として。
ベルナルドは、大陸最大のカルレオン帝国皇孫と結婚した。これが快挙でなくて、何と呼ぶのか。
舅である私はもちろん、姑に当たる妻も嫁を大切にした。なにしろ次期王妃を産む雌鶏なのだ。彼女の負担にならぬよう、王都にある屋敷を明け渡す。領地にある本邸に戻り、時折顔を見せては孫を孕む日を夢見た。妊娠が知らされ、生まれる日を指折り数える。
後少しだった。何もかも上手くいく。未来の王太子を産む金の雌鶏が手に入る。浮かれて、予定日に合わせ領地を出た。途中で産気づいたと報告を受け、焦る気持ちを抑え馬車を進める。到着した我々を待っていたのは、生まれた子が男児であった報告だった。
跡取り息子を産むのは、嫁いだ貴族女性にとって大事なことだ。だが、今ではない。王家に王子が生まれた絶妙な時期に、なぜ女児を産まなかったのか。息子の執務室で、嫁を罵った。
「男だと? 男では王妃になれんではないか」
「まったく、あの嫁は何をしているの。私達の可愛い息子が種を蒔いたのに、男児ですって?」
散々騒いだ後、気持ちを落ち着かせる。息子が持ち込んだ案に乗るためだった。眠った嫁に、別の赤子を与える。他の貴族が産んだ女児を、侯爵家の令嬢として迎えるのだ。向こうにしても光栄だろう。しがない下級貴族の娘が、次期王妃になるのだから。バレるかも知れないが、その前に別の娘を産ませればいい。
いや、いっそのこと場つなぎしておいて、数年後に産まれる孫娘と婚約者の立場を入れ替えたら。完璧な案に思えた。息子に相談すると、それはいいと賛成する。すぐに手筈を整えると言った息子を見送り、嫁の見舞いに向かった。
ここで優しい義父母を演じておかなくては、今後の関係に差し支える。譲歩する気で向かった私達は、泣きじゃくり赤子を否定する嫁に愕然とした。彼女がすべてを台無しにするかも知れない。息子が築いた立場や繁栄、今後の輝かしい未来までも。この嫁は我が侭で押し潰そうとしている。嫁いだ以上は、婚家に従うべきだ。
生まれたのは女児だった。跡取り息子ではなく、次期王妃なのだ。そう言い含め、部屋を後にする。しばらくは外出を禁止し、厳しく接する必要がありそうだ。妻と相談して、執事アーロンにもその旨を言い聞かせた。
だが……執事では帝国の第三皇女を止められなかった。嫁は連れ去られ、今後は金の卵を産まない。そう気付いた私達に、妻を連れ戻すようベルナルドは指示を出した。国王に呼び出された息子は、セルラノ侯爵として顔を出さなくてはならない。
エリサリデ侯爵家がどのような動きに出るか。モンテシーノス王国を捨てる可能性に思い至り、慌てて馬車で駆けつけた。騒動から僅か数日なのに、帝国の騎士団が屋敷を取り囲んでいる。大きな荷馬車が何台も並び、カルレオン帝国の紋章が入った馬車もあった。後ろの屋敷は人気がなく、がらんとしている。
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「……っ! どの口がそれを言うか!」
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