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21.話せば罪は軽くなる――SIDE誘拐犯

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 タダ働きになるのは腹立たしい。仕方なくセルラノ侯爵の指示を受けたが、よく考えたら危険な状況だった。闇社会で生きる男の嗅覚は鋭い。危険を避ける能力は、仕事を完遂するより優先だった。

 そうだ、この情報を然るべき人物に売ったらどうか。対象になっているエリサリデ侯爵、または宰相がいい。迷ったのは一瞬だけ。宰相ならば以前に情報屋を通じて、取引をしたことがある。すぐに連絡を取らせた。宰相自身は忙しいようだが、執事が遣わされる。ただの使用人を寄越さなかった時点で、情報を重要視した証拠だった。

 情報には、思わぬ高額で報いられる。ケチなセルラノ侯爵が提示した額の倍近い。受け取った金貨を懐に納め、すぐに馴染みの飲み屋に向かった。情報屋へ口止めを兼ねた報酬を渡し、一緒に飲まないかと誘う。彼は乾杯だけすると姿を消した。

 付き合いの悪い奴だ。悪態をついて、男は酒を飲み続けた。いつもならまだ酔わないはずが、今日に限ってよく回る。大量の金貨が入った革袋を抱えて、くいっと最後の一杯を空けた。女でも買うか。いや、その前に金貨を隠さないと。

 ふらつきながら歩いた先で、見知らぬ男にぶつかった。落としそうになった袋を抱え込んだ男は、そこで意識を失う。首の痛みと二日酔いの頭痛に苛まれながら目覚めた男は、自分のいる場所に気付いて愕然とした。

 牢屋だ。慌てて見回せば、革袋がない。くそっ、取られた! 舌打ちして逃げる算段を始めた男は、足を運んだ衛兵に思わぬ罪を告げられた。

「は? 偽造金貨を使った罪? なんだそりゃ」

 全く身に覚えがない。男の主張はすべて無視され、飲み屋で支払った金貨が偽物と断定された。宰相か? 情報を得た後で口封じを企んだのかも知れない。慌てて宰相に会わせろと騒ぐも、罪人である彼の言葉に耳を傾ける衛兵はいなかった。

 牢に放り込まれて二日目の夜、新たな罪を突きつけられる。

「ニエト子爵令嬢を拐かした罪で、死刑を言い渡す」

 ニエト子爵家の名は知っていた。セルラノ侯爵に頼まれ、女児を攫った家だ。男児を置いてきたのに、もうバレたのか。王家への陳情があり、王国の精鋭が調査に動いたことなど知る由もない。項垂れかけた男は、自分が持つ取引材料を思い出した。

「なあ、俺に依頼した奴のことを喋る。だから罪を軽くしてくれ」

 奴隷くらいなら、逃げ出せる。そう考えた男の嘆願に、衛兵は頷いた。取引は成功だ。安心から、すべて喋った。

 王都から近い貴族の家から金髪金眼の女児を攫えと命じられ、その代わりに男児を置いてこいと指示された話。慌てて男児を取り戻せと依頼されたが、間に合わなかったこと。三倍の報酬を提示し、今度は妻を連れ帰れと言われたが、危険なので宰相に話を売った事実まで。

 依頼人を売れば、裏社会で生きていけなくなる。それでもよかった。首が繋がっていてこその制裁だ。他国へ逃げ延びればいい。そう考えた。

「ご苦労だった。牛裂きの死刑を軽減し、断首とする」

 慌てて死刑を回避するために騒ぐ男へ、衛兵は淡々と言い聞かせた。

「お前は四肢を縄で拘束され、四方へ引き裂かれる死刑が確定していた。だが正直に話したので、首を落とす断首へと軽減する。貴族の子弟を拐かした罪は、それほどに重い」

 ましてや入れ替えなど論外。そう付け加える前に、男は泡を吹いて気絶した。その姿に気を利かせた衛兵が報告をあげ、宰相は翌日の断首を命じる。少しでも苦しむ時間を減らす温情だった。

「セルラノ! あの侯爵の命令でっ! くそっ、こんなに罰が重いなんて知らなかった。騙されたんだ」

 叫びながら断頭台へ拘束された男は、その口で黒幕の名を叫びながら処刑された。
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