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18.家系図を覚えきれません

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 公国の首都ではないが大きな街を、アルムニア大公は案内すると言い出した。急ぐ旅程でもないから、とお父様やお母様は頷く。翌朝、大叔父様は朝食に同席していました。朝が早いのですね。昨夜はどちらにお泊まりだったのでしょうか。

「赤子用の玩具を売る店があるのだ。先に買い与えて、兄上を悔しがらせてやろう」

 荒れた大声で話す大叔父様に、ナサニエルは興味津々だった。子どもは怖がって泣きそうなのに、大叔父様の声が聞こえれば目を向けようとする。まだ首や体が動かないから、難しいと思うわ。笑って私が向きを変えた。

「俺を怖がらんとは、先々楽しみな子だ」

 乱暴そうな傷だらけの大きな手で、優しく撫でる。首が動いたりしないよう、触れるだけのような撫で方だった。

「大叔父様は、赤子の扱いに慣れてらっしゃるのね」

 不思議に思って話を向けると、少し考えた後で頷く。そこから次期アルムニア大公になる、ご子息の話が始まった。未婚で養子を取ったため、ご子息は甥にあたる。現皇帝陛下の末妹が遺した、公爵家の次男でした。

「あの公爵家は運が悪い。嫡男は最初の妻を亡くし、今は後妻をもらったが先妻の子と仲が悪かった。あまりの確執に呆れた次男オスカルが姪を引き取り、子連れで俺の跡取りになった。この養子縁組で、公爵一家はバラバラだ」

 家系図を頭に浮かべて考える。皇帝陛下はお祖父様で、その末妹の子はお母様の従兄弟。壮大過ぎて、紙に書いておかないと忘れそうです。すごく仲のいい一家だったそうで、後妻の方が来るまで円満だったとか。難しいお話です。

「先妻のお子様、公爵家の跡取りではないのですか?」

 不思議に思い尋ねると、ご令嬢だったようで。それもそうでした。もし跡取り息子なら、後妻が追い出されたでしょう。貴族の家にとって、跡取り息子は最重要ですから。本来はとても大切にされる存在なのです。

「その子が孫のようでな、よく玩具や菓子を買っている」

 赤子用の玩具店に詳しい理由がわかりました。もう2年も一緒に暮らしていて、実の孫も同然だと笑います。良いことですわ。

「店はあっちだ」

 宿から近いこともあり、歩いて移動した。私は体力が戻っていないので、ナサニエルはお父様が抱いています。お母様は私と腕を組み、支えるように寄り添いました。こうやって家族で出かけるのは久しぶりで、本当に嬉しく感じる。自然と笑顔が浮かんだ。

「ん? あれは……」

 アルムニア大公が止まれば、護衛も私達も足を止める。じっと見つめる先には、身なりのいい男性が一人立っていた。黒を基調としたシックで上質な服を纏う男性は、ゆっくりとこちらを振り返る。その顔は凛々しく見惚れました。

 すらっとした鼻筋、薄い唇は色づいて、黄金が溶けたような瞳の眦が柔らかい方。日焼けした肌は健康的で、とても魅力的な男性でした。

「義父上、ここで待っていれば会えると思っていました。仕事を丸投げするなんて、何を考えているんですか」

 叱責する響きに、お父様とお母様の視線が鋭くなり……大叔父様はおろおろと視線を彷徨わせる。もしかして、仕事を放り出してきたんですか?
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