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17.大叔父様の腕の中で欠伸
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アルムニア公国を進み、初日の半分も行かないうちに宿を取った。事実上、皇族直轄領と変わらない国は、どの街も賑やかだ。様々な店が軒を連ね、屋根や窓枠が華やかに彩られていた。モンテシーノス王国より、はるかに豊かな生活をしている証拠だった。
「休憩が多いのですね」
「ええ、無理する必要はないもの」
モンテシーノスのカルロス国王陛下の許可があるとはいえ、他国内で帝国軍を動かすリスクはある。カルロス王が考えを変える可能性、セルラノ侯爵家からの追っ手、通過する領地の貴族の考え。様々な危険性を孕んだ移動だった。
公国内なら、急いで領地を抜ける必要はない。産後で体調が万全でない私や、赤子のナサニエルを気遣っての速度は有り難かった。荷馬車の使用人達も、国境の街で荷物から布団やクッションを持ち出したようで、驚くほど快適になっていたとか。
確認してきたお父様の話を聞いて安心し、皆の優しい言葉に癒されながら、今日の宿に入った。国境の街で宿泊した宿より、ずいぶん豪華な造りだ。私とナサニエルの寝室は、リビングを挟んでお母様達の寝室と繋がっていた。どうやら最上階はすべて繋いで使えるらしい。
お祖父様達に会うため、以前も泊まったことがある宿だが、記憶の中の部屋より豪勢になっている。
「改築したのでしょうか」
「大公家がよく視察などで利用するのよ。最上階をすべて専用にしたみたいね」
モンテシーノス王国とは、桁の違うお話だわ。カルロス王であっても、ここまでの贅沢はしないもの。
「そうそう、部屋着にならないでね。叔父様が来るわ」
「はい」
楽な格好に着替えようとしたのですが、準備する手元を見たお母様に注意された。お母様の叔父様って、お祖父様の弟君よね。現アルムニア大公閣下だわ。同行している侍女に頼んで、髪を結い化粧を施した。馬車の中では眠ることも多いし、ナサニエルが触れるので化粧を控えていたの。
準備を済ませた後で、ナサニエルがむずがりだした。お腹が空いたのかしら。ドレスは後ろを留めているので、お乳をあげるのも難しい。せっかく飾ってもらったのだけれど、侍女に頼んで解く。乳を与えたらすぐ着替えればいいわ。
小さな手で胸に触れ、掴むようにして乳を飲む。可愛い我が子の様子に頬が緩んだ。飲み終えたのか、けぷっと愛らしい声を立てたナサニエルは、うとうとしている。大急ぎで侍女がドレスを直した。
ノックの音が響く。
「ティナ、いま大丈夫? 叔父様がお見えよ」
「行きますわ」
「いや、こちらから出向くのが礼儀だ。失礼するぞ」
低く心地よい声と同時に、大柄な男性が入室した。まだ乳の甘い香りが漂う中、顔に傷のある大叔父様はいきなりベッド脇に座る。
「大公閣下、椅子をご用意しますわ」
「よい、この方が視線が近いであろう」
わっはっはと豪快に笑い、アルムニア大公はベッドの手前に敷かれた絨毯に直接腰を落とした。どっかり胡座を掻いて、ナサニエルに顔を近づける。眠そうだったナサニエルは、ぱちりと琥珀色の目を瞬いた。
「曇りない良い目だ。皇族特有の瞳を受け継いだか。大きく育て」
「ひいお祖父様の名を頂き、ナサニエルと名付けました」
私がそう告げると、大叔父様は嬉しそうに頷いた。
「そうか、父上の名を! それは立派に育つはずだ」
豪快に大きな声で笑い、話すのに……ナサニエルは泣くこともなく大きな目で大公を見つめる。大叔父様が抱き上げると、欠伸をして目を閉じた。この子、きっと大物になるわ。
「休憩が多いのですね」
「ええ、無理する必要はないもの」
モンテシーノスのカルロス国王陛下の許可があるとはいえ、他国内で帝国軍を動かすリスクはある。カルロス王が考えを変える可能性、セルラノ侯爵家からの追っ手、通過する領地の貴族の考え。様々な危険性を孕んだ移動だった。
公国内なら、急いで領地を抜ける必要はない。産後で体調が万全でない私や、赤子のナサニエルを気遣っての速度は有り難かった。荷馬車の使用人達も、国境の街で荷物から布団やクッションを持ち出したようで、驚くほど快適になっていたとか。
確認してきたお父様の話を聞いて安心し、皆の優しい言葉に癒されながら、今日の宿に入った。国境の街で宿泊した宿より、ずいぶん豪華な造りだ。私とナサニエルの寝室は、リビングを挟んでお母様達の寝室と繋がっていた。どうやら最上階はすべて繋いで使えるらしい。
お祖父様達に会うため、以前も泊まったことがある宿だが、記憶の中の部屋より豪勢になっている。
「改築したのでしょうか」
「大公家がよく視察などで利用するのよ。最上階をすべて専用にしたみたいね」
モンテシーノス王国とは、桁の違うお話だわ。カルロス王であっても、ここまでの贅沢はしないもの。
「そうそう、部屋着にならないでね。叔父様が来るわ」
「はい」
楽な格好に着替えようとしたのですが、準備する手元を見たお母様に注意された。お母様の叔父様って、お祖父様の弟君よね。現アルムニア大公閣下だわ。同行している侍女に頼んで、髪を結い化粧を施した。馬車の中では眠ることも多いし、ナサニエルが触れるので化粧を控えていたの。
準備を済ませた後で、ナサニエルがむずがりだした。お腹が空いたのかしら。ドレスは後ろを留めているので、お乳をあげるのも難しい。せっかく飾ってもらったのだけれど、侍女に頼んで解く。乳を与えたらすぐ着替えればいいわ。
小さな手で胸に触れ、掴むようにして乳を飲む。可愛い我が子の様子に頬が緩んだ。飲み終えたのか、けぷっと愛らしい声を立てたナサニエルは、うとうとしている。大急ぎで侍女がドレスを直した。
ノックの音が響く。
「ティナ、いま大丈夫? 叔父様がお見えよ」
「行きますわ」
「いや、こちらから出向くのが礼儀だ。失礼するぞ」
低く心地よい声と同時に、大柄な男性が入室した。まだ乳の甘い香りが漂う中、顔に傷のある大叔父様はいきなりベッド脇に座る。
「大公閣下、椅子をご用意しますわ」
「よい、この方が視線が近いであろう」
わっはっはと豪快に笑い、アルムニア大公はベッドの手前に敷かれた絨毯に直接腰を落とした。どっかり胡座を掻いて、ナサニエルに顔を近づける。眠そうだったナサニエルは、ぱちりと琥珀色の目を瞬いた。
「曇りない良い目だ。皇族特有の瞳を受け継いだか。大きく育て」
「ひいお祖父様の名を頂き、ナサニエルと名付けました」
私がそう告げると、大叔父様は嬉しそうに頷いた。
「そうか、父上の名を! それは立派に育つはずだ」
豪快に大きな声で笑い、話すのに……ナサニエルは泣くこともなく大きな目で大公を見つめる。大叔父様が抱き上げると、欠伸をして目を閉じた。この子、きっと大物になるわ。
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