上 下
15 / 122

15.金の卵を産むはずだったのに――SIDE元夫

しおりを挟む
 何もかもうまく行く筈だった。モンテシーノス王家は、カルレオン皇族の娘が欲しい。幸いにして、俺は皇孫のバレンティナの心を射止めた。産まれる我が子が娘なら、王妃の地位は確定だ。

 娘が王妃になれば、孫が次期王に決まる。王家がカルレオン皇族の血を引く孫を、跡取りにすることは確実だった。いずれモンテシーノス王家を乗っ取れる。そんな思惑もあった。この国はまだ王政が完全に根付いていない。今なら、王家のすげ替えが可能なのではないか。

 ベルナルドの野心は留まるところを知らない。若いだけに作戦は無謀で、また行き当たりばったりだった。生まれた我が子が息子と知るなり、女児を産んだ家を探して交換させた。裏社会の男は命じた通りに赤子を連れ戻る。

 眠る妻の枕元に置かれたベビーベッドの息子と入れ替えた。妻と同じ琥珀の瞳に一瞬迷うが、すぐに都合よく考えた。相手の子爵家はわかっている。跡取り息子は養子の形で取り返せばいい。

 簡単に考えた作戦は、最悪の形で破綻を迎えた。妻バレンティナが、女児を娘と認めない。それどころか泣いて衰弱し、貴重な皇族の血が絶える可能性が出た。これでは、何のために彼女を娶ったのか! 死なれては意味がない。呼び寄せた父母にバレンティナを説得するよう頼んだ。

 生まれたのが女児でなければ、王家に送り込んでも意味がない。今ならば王子が生まれたばかり、すぐに婚約者に確定するのだ。そう言い聞かせ、説得に送り込んだ。金髪で金瞳の赤子を探すよう手配して数日、こうなれば貴族の子でなくてもいい。

「なんだと!?」

 執事アーロンから、とんでもない報告が届いた。帝国の第三皇女だった義母が、妻バレンティナを連れ出したという。止められなかった彼を叱責し、慌てて屋敷に戻る。空になったベッドと、残された女児。侍女のカリナが、乳母になれる女性を手配していた。

 大泣きする赤子に「うるさい」と怒鳴りつける。バレンティナに逃げられた。早く取り戻さなくては、次の子が手に入らないではないか! 慌てふためく俺に、母は悲鳴のように叫んだ。

「跡取り息子だけでも取り返さないと! あの子は皇族の血を受け継いでいるわ」

 そうだ! 息子はバレンティナと俺の子、こうなったら皇族の血だけでも取り戻そう。大急ぎで、裏社会の男にアクセスする。だが、彼は「危険を承知で動くには、報酬が低すぎる」と断った。足元を見やがって! 舌打ちして報酬額を3倍提示した。ようやく男は動くが……時すでに遅し。

 子爵家に息子はいない。それどころか、地方の下級貴族の分際で王家に陳情書を提出した。正式な手順を踏んだ書類は受理され、カルレオン帝国からの後押しまで。

 なぜだ? すべてはうまく行くはずだった。何がいけなかった? どこから狂った……ああ、そうか。バレンティナが男児を産んだのが悪い。セルラノ侯爵家の跡取りなど、どうでも良かった。別の女に産ませても用が足りるのだ。

 気位の高いバレンティナを口説き落とすのに、どれだけ苦労したと思っている!? あの女に次期王妃を産ませるためだった。全部、あの女が悪い。王太子になる男児が生まれたタイミングで、息子など産むから……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】婚約破棄をされたわたしは万能第一王子に溺愛されるようです

葉桜鹿乃
恋愛
婚約者であるパーシバル殿下に婚約破棄を言い渡されました。それも王侯貴族の通う学園の卒業パーティーの日に、大勢の前で。わたしより格下貴族である伯爵令嬢からの嘘の罪状の訴えで。幼少時より英才教育の過密スケジュールをこなしてきたわたしより優秀な婚約者はいらっしゃらないと思うのですがね、殿下。 わたしは国のため早々にこのパーシバル殿下に見切りをつけ、病弱だと言われて全てが秘されている王位継承権第二位の第一王子に望みを託そうと思っていたところ、偶然にも彼と出会い、そこからわたしは昔から想いを寄せられていた事を知り、さらには彼が王位継承権第一位に返り咲こうと動く中で彼に溺愛されて……? 陰謀渦巻く王宮を舞台に動く、万能王太子妃候補の恋愛物語開幕!(ただしバカ多め) 小説家になろう様でも別名義で連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照してください。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~

山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」 婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。 「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」 ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。 そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。 それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。 バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。 治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。 「お前、私の犬になりなさいよ」 「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」 「お腹空いた。ご飯作って」 これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、 凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...