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09.受け入れの準備が出来たみたい

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 お母様の指示で、執事のティトが手紙を運んできた。フクロウに運ばせるため、細い筒に入るよう作られた手紙を受け取り、丁寧に広げていく。家令のサロモンは引っ越しの準備で忙しいようで、ティトはお茶の手配もしてくれた。

 用意された温かなお茶は、ハーブの香りが心地よい。用意されたテーブルに広げた手紙を、お母様が簡単にまとめて読んでくださった。

「一枚目はお怒りの内容ね。といっても、怒ってる先はセルラノ侯爵家と、このモンテシーノス王国に対してだけど」

 ひいお祖父様はまず感情をぶちまけたみたい。皇帝として執務をしていらした頃は、冷徹な皇帝として知られた方だった。なら、以前は感情を抑えていらしたのね。私の知るひいお祖父様は、感情豊かな方だから。そんなひいお祖父様が書いた怒りのお手紙、ちょっと興味があるわ。後で読ませていただきましょう。

「二枚目は、私のお父様に新しい公爵家を興すことを命じた書類の複写よ。帝国の公爵家を用意するから、すぐ帰ってこいという内容だったわ」

 現皇帝リカルド陛下の娘であるお母様が帝国に戻るなら、確かに新しい貴族家を興す必要があるわ。すでに他家に嫁いだお母様が、また皇族の列に並ぶのはおかしいもの。帝国の公爵家は三代まで継続できる。今回産まれたナサニエルまでが、公爵家を名乗ることが出来た。

 ナサニエルの代で皇族の血が入れば、公爵家は継続となる。私はすでに結婚して離縁されるわけだから、公爵家の継続はナサニエルのお嫁さん次第ね。たとえ公爵家が維持できなくとも、侯爵として家は維持されるから問題ないわ。

「三枚目はあなたのことよ、ティナ。体は大丈夫か? 痩せたと聞いた。ただでさえ細いのに、手足が折れるほど痩せたのではないかと……書いてる最中に涙を落とされたみたいで滲んでるの」

 お母様に手渡された三枚目の手紙は、ところどころが滲んでいた。丸いシミの跡が、ひいお祖父様の心と思えば愛おしい。ぎゅっと胸に抱きしめた私の金髪を撫でながら、お母様が囁いた。

「お祖父様を安心させるためにも、少し太らなくちゃね」

 びっくりして顔を上げれば、ウィンクするお母様。苦笑いしながらも「ふくよかなくらいが可愛いぞ」と親バカ発言をするお父様も。心の底から安心して深呼吸した。ひいお祖父様も、二枚目までは分かるけど三枚目は普通の早馬でよかったんじゃないかしら。心配が沁みて、胸がジンとした。

 家族も息子もいて、私はまだ完璧な人生を歩んでいる。何一つ欠けていないわ。不要な物を捨てるだけ。夫も婚家も「元」の肩書きを付けて、笑顔で放り投げ捨ててやる。

 うぎゃぁああ! お腹が空いたのか、突然泣き出したナサニエルを抱き上げる。この子の重さも、泣き声も、すべてが私の幸せに繋がっていた。ひいお祖父様に玄孫を会わせる日が楽しみだわ。テレサとお母様にお父様を追い出していただき、初日以来の母乳を与えた。

 小さな手を必死で動かしてしがみ付くナサニエルの喉が、ごくりと動く。頬が緩んで、張った胸の痛みさえ嬉しく感じた。
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