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05.勝手を通すだけの地位と権威
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泣いて叫んで、半狂乱になって暴れる。貴族夫人としての評判や矜持なんて、私の息子と比べられない。お母様は助けてくれると言った。お祖父様のお力も借りて、私の息子を取り戻すわ。だから全力で暴れた。
執事アーロンが止めに入るものの、女主人を抱き締めるわけにもいかない。痩せて細くなった腕は掴んだら折れそうで、強く拘束もできなかった。私が力尽きるまで放置するしかなく、侍女達は恐れて遠巻きに眺めるだけ。
肩で息をしながら、まだ睨み付ける。そんな私の視界を、お母様が遮った。胸に顔を埋める形になった私は大人しく身を委ねる。温かい母の腕と胸、ああ、早く我が子に会いたい。この安らぎを、息子に与えたかった。
「こんなになるほど……なんてこと。この事を夫であるエリサルデ侯爵に伝えなくては! バレンティナは私の娘、返していただきますわ」
凛とした口調で抗議する母に、執事アーロンが反論する。
「かつてエリサルデ侯爵令嬢であったとしても、現在はセルラノ侯爵夫人です。勝手に連れて行かれては困ります」
執事として当然の発言を、母は一刀両断した。
「ならば縁を切りましょう。離縁させて連れ帰ります! 離縁の書類は後で整えさせますわ」
お母様の腕に抱かれて、私は目を閉じる。聞こえる声は険しく話は殺伐としているのに、母の厳しい声が心地よかった。
「そのような勝手が通るとお思いですか!」
「通します。お忘れのようね。私は帝国の第三皇女、現皇帝の娘ですよ」
この王国の侯爵家に嫁いだが、帝国での地位は消滅していない。お母様は皇族であり、お父様は娘婿として帝国の爵位も持っていた。私は皇孫に当たる。その権力を振りかざすことを嫌う母だが、今回は利用するつもりらしい。
すでに引退しているが、ひいお祖父様もご健在だった。お母様の言う「お祖父様」は私のひいお祖父様で、各国に多大な影響力を持つ人よ。この国の王家へも多くの貸付や援助を行なっている。もし、ひいお祖父様を怒らせたら、王国の財政が破綻するでしょう。
「……っ、セルラノ侯爵家に恥をかかせるおつもりですか」
「恥? その程度いくらでも取り返しがつくでしょう。もし私の娘を蔑ろにし、この子の療養を阻んだと知られたら……お祖父様はどうなさるかしらね」
この国が無事に済めばいいけれど? きっちり釘を刺して、お母様は手筈を整えた。迎えの馬車に随行した騎士に私を運ばせ、馬車の中へ横たえる。大急ぎで用意させたクッションの山に埋もれ、私は実家への帰宅が叶った。
揺れる馬車の中、お母様が抱き締めてくれる。頭を抱えられるようにして、胸元に顔を埋めた。涙が溢れて止まらず、でもあの屋敷で流した涙より温かい。
「大丈夫よ、あなたの息子も必ず助けるわ」
その言葉に安心して、私は深呼吸した。待っていて、私の赤ちゃん。必ずこの腕に抱くわ、必ず私の手元で育てるから……後少しよ。
執事アーロンが止めに入るものの、女主人を抱き締めるわけにもいかない。痩せて細くなった腕は掴んだら折れそうで、強く拘束もできなかった。私が力尽きるまで放置するしかなく、侍女達は恐れて遠巻きに眺めるだけ。
肩で息をしながら、まだ睨み付ける。そんな私の視界を、お母様が遮った。胸に顔を埋める形になった私は大人しく身を委ねる。温かい母の腕と胸、ああ、早く我が子に会いたい。この安らぎを、息子に与えたかった。
「こんなになるほど……なんてこと。この事を夫であるエリサルデ侯爵に伝えなくては! バレンティナは私の娘、返していただきますわ」
凛とした口調で抗議する母に、執事アーロンが反論する。
「かつてエリサルデ侯爵令嬢であったとしても、現在はセルラノ侯爵夫人です。勝手に連れて行かれては困ります」
執事として当然の発言を、母は一刀両断した。
「ならば縁を切りましょう。離縁させて連れ帰ります! 離縁の書類は後で整えさせますわ」
お母様の腕に抱かれて、私は目を閉じる。聞こえる声は険しく話は殺伐としているのに、母の厳しい声が心地よかった。
「そのような勝手が通るとお思いですか!」
「通します。お忘れのようね。私は帝国の第三皇女、現皇帝の娘ですよ」
この王国の侯爵家に嫁いだが、帝国での地位は消滅していない。お母様は皇族であり、お父様は娘婿として帝国の爵位も持っていた。私は皇孫に当たる。その権力を振りかざすことを嫌う母だが、今回は利用するつもりらしい。
すでに引退しているが、ひいお祖父様もご健在だった。お母様の言う「お祖父様」は私のひいお祖父様で、各国に多大な影響力を持つ人よ。この国の王家へも多くの貸付や援助を行なっている。もし、ひいお祖父様を怒らせたら、王国の財政が破綻するでしょう。
「……っ、セルラノ侯爵家に恥をかかせるおつもりですか」
「恥? その程度いくらでも取り返しがつくでしょう。もし私の娘を蔑ろにし、この子の療養を阻んだと知られたら……お祖父様はどうなさるかしらね」
この国が無事に済めばいいけれど? きっちり釘を刺して、お母様は手筈を整えた。迎えの馬車に随行した騎士に私を運ばせ、馬車の中へ横たえる。大急ぎで用意させたクッションの山に埋もれ、私は実家への帰宅が叶った。
揺れる馬車の中、お母様が抱き締めてくれる。頭を抱えられるようにして、胸元に顔を埋めた。涙が溢れて止まらず、でもあの屋敷で流した涙より温かい。
「大丈夫よ、あなたの息子も必ず助けるわ」
その言葉に安心して、私は深呼吸した。待っていて、私の赤ちゃん。必ずこの腕に抱くわ、必ず私の手元で育てるから……後少しよ。
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