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02.誰か私の息子を返して
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激痛に耐えて産んだ息子を、まるでどうでもいいかのように扱われた。その衝撃から立ち直れないまま、私は息子に乳を与える。生まれて2日目、まだ名づけもされていない我が子に涙が零れた。彼はあのあと顔を見せない。領地で暮らす義父母がこちらに向かっていると、執事から聞かされた。
「そう、お迎えは丁重にね」
痛ましそうに私を見る執事アーロンは、礼儀正しく一礼して部屋を出る。きっと昨日の騒ぎは使用人も全員知ってるのよね。恥ずかしいと思うより、怒りが込み上げた。
女性にとって出産は命懸けなの。体が二つに裂けるかと思う激痛に耐え、大量の出血を伴いながら我が子を送り出す。天からの授かり物なんだから、男女は生まれてみるまで分からないわ。そんなこと、分かってるじゃない。怒りのあまり震える拳に、涙が落ちた。
「うぅ」
むずがる我が子に、慌てて笑顔を作る。大丈夫よ、あなたは私が守るわ。お義母様やお義父様が到着したら、まず名づけをお願いしましょう。そうよ、ベルナルドの血を引く直系の跡取りだもの。可愛がってもらえるわ。気持ちを落ち着けて、笑顔で授乳を続けた。
母親が不安定になれば、子は本能で察する。だから微笑みかけてあげなさい。助産婦の老女が気遣うように告げた言葉を胸に刻み、私は深呼吸して満足した息子の背を撫でる。げぷっと音がしたのを確認し、子守の得意な侍女に渡した。
私の寝室に運び込まれた赤子用のベッドは、柵が付いている。落下防止の柵の内側で、微睡む息子の手が布をきゅっと握った。緻密な陶器人形のような指は、意外にも力強い。
領地から向かう義父母が到着するまで、あと半日くらいかしら。それまで体を休めて、万全の態勢でお迎えしなくては。専属侍女カリナに促され、横たわった。視線の先に息子のベッドがある。微笑んで目を閉じた。
大丈夫よ、彼も動揺しただけ。落ち着けば、息子の誕生をきっと喜んでくれるはず。期待は呼吸を穏やかにし、疲れた体が眠りを要求する。
「ご安心ください、奥様。坊ちゃまは私がしっかり見ておりますから」
「お願い、ね……カリナ」
すっと眠りに落ちた私は夢も見ないほど疲れていたみたい。目が覚めたのは、夕方近かった。慌てて身を起こし、息子のベッドを見て……固まる。
「カリナっ! カリナ!!」
侍女の名を呼んでベルを鳴らす。駆けこんだ彼女は、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「奥様、落ち着いてください」
「この子は誰、私の息子は?」
「旦那様のご指示です」
「……え?」
後ろから駆けこんだ執事の言葉に、私は目を見開いたまま赤子に視線を落とした。夫ベルナルドと同じ金髪に、私と同じアンバーの瞳の息子が眠るはずのベビーベッド。そこに横たわるのは見知らぬ赤子だった。ややくすんだ髪色は、金茶に近い。私の大声に驚いたのか、大きな緑の瞳が瞬いた。
「嫌よ、私の息子はどこなの? こんな子知らない、知らないわ!」
混乱して騒ぐ私に、駆け込んだ主治医が鎮静薬を与える。拒んで騒ぐ私の口に流し込まれた薬が、喉を滑り落ちた。急速に訪れる眠りは不快で、嫌だと泣きながら気を失った。
この子は違う、誰か私の息子を返して――。
「そう、お迎えは丁重にね」
痛ましそうに私を見る執事アーロンは、礼儀正しく一礼して部屋を出る。きっと昨日の騒ぎは使用人も全員知ってるのよね。恥ずかしいと思うより、怒りが込み上げた。
女性にとって出産は命懸けなの。体が二つに裂けるかと思う激痛に耐え、大量の出血を伴いながら我が子を送り出す。天からの授かり物なんだから、男女は生まれてみるまで分からないわ。そんなこと、分かってるじゃない。怒りのあまり震える拳に、涙が落ちた。
「うぅ」
むずがる我が子に、慌てて笑顔を作る。大丈夫よ、あなたは私が守るわ。お義母様やお義父様が到着したら、まず名づけをお願いしましょう。そうよ、ベルナルドの血を引く直系の跡取りだもの。可愛がってもらえるわ。気持ちを落ち着けて、笑顔で授乳を続けた。
母親が不安定になれば、子は本能で察する。だから微笑みかけてあげなさい。助産婦の老女が気遣うように告げた言葉を胸に刻み、私は深呼吸して満足した息子の背を撫でる。げぷっと音がしたのを確認し、子守の得意な侍女に渡した。
私の寝室に運び込まれた赤子用のベッドは、柵が付いている。落下防止の柵の内側で、微睡む息子の手が布をきゅっと握った。緻密な陶器人形のような指は、意外にも力強い。
領地から向かう義父母が到着するまで、あと半日くらいかしら。それまで体を休めて、万全の態勢でお迎えしなくては。専属侍女カリナに促され、横たわった。視線の先に息子のベッドがある。微笑んで目を閉じた。
大丈夫よ、彼も動揺しただけ。落ち着けば、息子の誕生をきっと喜んでくれるはず。期待は呼吸を穏やかにし、疲れた体が眠りを要求する。
「ご安心ください、奥様。坊ちゃまは私がしっかり見ておりますから」
「お願い、ね……カリナ」
すっと眠りに落ちた私は夢も見ないほど疲れていたみたい。目が覚めたのは、夕方近かった。慌てて身を起こし、息子のベッドを見て……固まる。
「カリナっ! カリナ!!」
侍女の名を呼んでベルを鳴らす。駆けこんだ彼女は、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「奥様、落ち着いてください」
「この子は誰、私の息子は?」
「旦那様のご指示です」
「……え?」
後ろから駆けこんだ執事の言葉に、私は目を見開いたまま赤子に視線を落とした。夫ベルナルドと同じ金髪に、私と同じアンバーの瞳の息子が眠るはずのベビーベッド。そこに横たわるのは見知らぬ赤子だった。ややくすんだ髪色は、金茶に近い。私の大声に驚いたのか、大きな緑の瞳が瞬いた。
「嫌よ、私の息子はどこなの? こんな子知らない、知らないわ!」
混乱して騒ぐ私に、駆け込んだ主治医が鎮静薬を与える。拒んで騒ぐ私の口に流し込まれた薬が、喉を滑り落ちた。急速に訪れる眠りは不快で、嫌だと泣きながら気を失った。
この子は違う、誰か私の息子を返して――。
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