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第一章 開幕の襲来
憑依術
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ソアは周囲に人気が無いかを確認する。
魔力パルスを間近で直撃を受けた影響で魔力感知の機能が麻痺していたが、その症状も和らいできた。
(人の気配はない……、あるのはこの人の魔力だけ)
嫌な予感が脳裏を過る。
「……(まさかこの人に……? でも誰も居ないなら“使える”)」
ソアは意識を自身の内側に向けて、自身の内に眠る炎の精霊に呼びかけた。
(イグニス、起きて)
すると、ソアの目の前の空間に赤色を基調とした魔法陣が描かれ、紅いトカゲのような尻尾と二本の小さな角を頭に生やした一人の女の子が姿を現した。
「ほう、次は炎の精霊か……だが」
『おっすソア、って何この人やだきもい!』
「っ!」
紅いロングヘア、尻尾と角、身体の一部分に鱗が生えた、半トカゲ半人間のような姿のイグニスは紅いトカゲの尻尾を大きく振るい、仮面の男に叩き付ける。
体系からは見合わぬ重量と衝撃に男は体勢を崩し膝をつく、そこに追撃をかけるようにイグニスは炎を噴射した。
『今日もかわいいソアちゃん、この物騒な人だぁれ?』
「悪い人……!」
『じゃあ燃やしちゃおう! 終わったらアイスちょうだいねっ! とびきり甘いやつ~』
きらきらと瞳を輝かせご褒美を所望しながら、イグニスは赤い光となってソアと一体化した。
「クソトカゲが……!」
「やぁっ!」
イグニスを憑依させ、四肢に炎を纏わせたソアは仮面の男に急接近し鋭い蹴りを喰らわせる。
イグニスを憑依させたことによってソアの身体能力は上昇、自身の攻撃への火属性付与と火属性魔法への耐性を獲得していた。
「チッ」
仮面の男が醸す雰囲気が変わり、ピリピリと肌を突き刺すような殺気が放たれる。
黒い血まみれのローブを脱ぎ捨てて、仮面の男は長剣の切っ先をソアに向けて静止。ソアが瞬きをした瞬間、地面が爆ぜる程の脚力で地を蹴り、まるで弓から放たれた矢の如く一気にソアへと詰め寄った。
ソアは魔力を両腕に流し、両手に纏っていた炎の勢いを強め、前方に発射。
その炎は長剣の一振りによる風圧でかき消される。
「っ!」
炎の発射と同時に脳内での詠唱を完了させていたソアは背後に出現した赤の魔法陣から炎の矢を三本出現させ、射出。
だがそれもいとも簡単に切り落とされてしまう。
魔法を放ちつつ後退していたソアであったが、右足の踵が壁に当たったことに気付く。
背後は壁、追い詰められた。
「クク。逃げ場はない、少し大人しくしててもらおうかァ?」
剣の切っ先がソアに迫る、だが彼女は焦っていなかった。
むしろこのタイミングを待っていたかのように、鋭い目つきで仮面の男を睨みつけて身体の内に秘めていた魔力を一つの魔法に注ぎ込んだ。
「憑依極点……“インフェルノ”!!」
憑依させた炎の精霊“イグニス”の力を極限まで高める術式を使い、ソアは灼熱の業火・インフェルノを周囲に展開。
その熱は長剣の刃を溶かし、業火は精霊の意思により悪鬼の形となり仮面の男に襲い掛かる。
「ほう? まさかここまで憑依の力を使いこなしていたとは。感心、感心」
長剣を溶かす程の熱量を持つ灼熱の悪鬼を前にして仮面の男は慄かず、まるで力を力でねじ伏せようと言わんばかりに、その仮面の下で不敵に笑った。
「クク。前座としては予想以上に楽しめそうだ……」
その言葉の後に、黒い渦のような何かが男の身体を這う。その在り方は混沌、呑み込む者。
そこから発せられる魔力に似た何かを感じソアは戦慄する。
(何……これ……)
ソアが理解できない何かを纏った仮面の男はただ一振り、腕を振るった。
その際発生した風圧、ただ圧倒的な風圧によって業火の悪鬼は跡形も無く消え失せた。
「なっ」
ソアにとって今の魔法は戦士の全身全霊を込めた渾身の一撃に匹敵する、あらゆるモノを溶かす精霊の炎はたった腕の一振りで生じた風で沈下。
その事実に衝撃を隠せない。
「次は何を仕掛ける。さぁ足掻け」
「そんな……っ(黒い渦、あれを纏った瞬間に何かが変わった……。インフェルノを真っ向から打ち消す力にどう対抗すればっ)
「無いのなら、終いだ――。
剣技・三心一閃……」
仮面の男が構えを取ったと思った瞬間、剣の切っ先は天をさしていた。
煌めく何かが視界を横切り、身体を衝撃が伝う。
こみ上げてくる痛みとじんじんと響く衝撃、耳をつんざく何かの音と身体が宙に浮く感覚。
周囲を瓦礫が覆い、仮面の男が遠ざかっていく。
(違う――)
赤い血が飛ぶ。
(私が遠ざかってるんだ――)
ぐん、と身体を引っ張られるような強い衝撃とその直後に襲い掛かる激突の衝撃。
ソアは壁ごと仮面の男の剣の技によって叩き斬られ、隣の部屋まで吹き飛ばされた。
「安心しろ、加減はした。身体は繋がっているだろう?」
「う、ぐ……」
ようやく腹部を斬られたことに気付いたソアはその痛みに耐えながら立ち上がろうとする、だが身体が思う様に動かない。魔力による補助を試みようとしても、激しい痛みで集中力が欠けており思う様に魔力をコントロールすることが出来ない、絶命の窮地――。
魔力パルスを間近で直撃を受けた影響で魔力感知の機能が麻痺していたが、その症状も和らいできた。
(人の気配はない……、あるのはこの人の魔力だけ)
嫌な予感が脳裏を過る。
「……(まさかこの人に……? でも誰も居ないなら“使える”)」
ソアは意識を自身の内側に向けて、自身の内に眠る炎の精霊に呼びかけた。
(イグニス、起きて)
すると、ソアの目の前の空間に赤色を基調とした魔法陣が描かれ、紅いトカゲのような尻尾と二本の小さな角を頭に生やした一人の女の子が姿を現した。
「ほう、次は炎の精霊か……だが」
『おっすソア、って何この人やだきもい!』
「っ!」
紅いロングヘア、尻尾と角、身体の一部分に鱗が生えた、半トカゲ半人間のような姿のイグニスは紅いトカゲの尻尾を大きく振るい、仮面の男に叩き付ける。
体系からは見合わぬ重量と衝撃に男は体勢を崩し膝をつく、そこに追撃をかけるようにイグニスは炎を噴射した。
『今日もかわいいソアちゃん、この物騒な人だぁれ?』
「悪い人……!」
『じゃあ燃やしちゃおう! 終わったらアイスちょうだいねっ! とびきり甘いやつ~』
きらきらと瞳を輝かせご褒美を所望しながら、イグニスは赤い光となってソアと一体化した。
「クソトカゲが……!」
「やぁっ!」
イグニスを憑依させ、四肢に炎を纏わせたソアは仮面の男に急接近し鋭い蹴りを喰らわせる。
イグニスを憑依させたことによってソアの身体能力は上昇、自身の攻撃への火属性付与と火属性魔法への耐性を獲得していた。
「チッ」
仮面の男が醸す雰囲気が変わり、ピリピリと肌を突き刺すような殺気が放たれる。
黒い血まみれのローブを脱ぎ捨てて、仮面の男は長剣の切っ先をソアに向けて静止。ソアが瞬きをした瞬間、地面が爆ぜる程の脚力で地を蹴り、まるで弓から放たれた矢の如く一気にソアへと詰め寄った。
ソアは魔力を両腕に流し、両手に纏っていた炎の勢いを強め、前方に発射。
その炎は長剣の一振りによる風圧でかき消される。
「っ!」
炎の発射と同時に脳内での詠唱を完了させていたソアは背後に出現した赤の魔法陣から炎の矢を三本出現させ、射出。
だがそれもいとも簡単に切り落とされてしまう。
魔法を放ちつつ後退していたソアであったが、右足の踵が壁に当たったことに気付く。
背後は壁、追い詰められた。
「クク。逃げ場はない、少し大人しくしててもらおうかァ?」
剣の切っ先がソアに迫る、だが彼女は焦っていなかった。
むしろこのタイミングを待っていたかのように、鋭い目つきで仮面の男を睨みつけて身体の内に秘めていた魔力を一つの魔法に注ぎ込んだ。
「憑依極点……“インフェルノ”!!」
憑依させた炎の精霊“イグニス”の力を極限まで高める術式を使い、ソアは灼熱の業火・インフェルノを周囲に展開。
その熱は長剣の刃を溶かし、業火は精霊の意思により悪鬼の形となり仮面の男に襲い掛かる。
「ほう? まさかここまで憑依の力を使いこなしていたとは。感心、感心」
長剣を溶かす程の熱量を持つ灼熱の悪鬼を前にして仮面の男は慄かず、まるで力を力でねじ伏せようと言わんばかりに、その仮面の下で不敵に笑った。
「クク。前座としては予想以上に楽しめそうだ……」
その言葉の後に、黒い渦のような何かが男の身体を這う。その在り方は混沌、呑み込む者。
そこから発せられる魔力に似た何かを感じソアは戦慄する。
(何……これ……)
ソアが理解できない何かを纏った仮面の男はただ一振り、腕を振るった。
その際発生した風圧、ただ圧倒的な風圧によって業火の悪鬼は跡形も無く消え失せた。
「なっ」
ソアにとって今の魔法は戦士の全身全霊を込めた渾身の一撃に匹敵する、あらゆるモノを溶かす精霊の炎はたった腕の一振りで生じた風で沈下。
その事実に衝撃を隠せない。
「次は何を仕掛ける。さぁ足掻け」
「そんな……っ(黒い渦、あれを纏った瞬間に何かが変わった……。インフェルノを真っ向から打ち消す力にどう対抗すればっ)
「無いのなら、終いだ――。
剣技・三心一閃……」
仮面の男が構えを取ったと思った瞬間、剣の切っ先は天をさしていた。
煌めく何かが視界を横切り、身体を衝撃が伝う。
こみ上げてくる痛みとじんじんと響く衝撃、耳をつんざく何かの音と身体が宙に浮く感覚。
周囲を瓦礫が覆い、仮面の男が遠ざかっていく。
(違う――)
赤い血が飛ぶ。
(私が遠ざかってるんだ――)
ぐん、と身体を引っ張られるような強い衝撃とその直後に襲い掛かる激突の衝撃。
ソアは壁ごと仮面の男の剣の技によって叩き斬られ、隣の部屋まで吹き飛ばされた。
「安心しろ、加減はした。身体は繋がっているだろう?」
「う、ぐ……」
ようやく腹部を斬られたことに気付いたソアはその痛みに耐えながら立ち上がろうとする、だが身体が思う様に動かない。魔力による補助を試みようとしても、激しい痛みで集中力が欠けており思う様に魔力をコントロールすることが出来ない、絶命の窮地――。
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