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第九章 ハニートラップ
ハニートラップ(4)
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しかし、それは本当に一瞬のこと。
四人組のいる屋根に大きな黒い影が見えた瞬間、鬼の姿が消える。
空を切り裂くような嘶きと共に鬼達は屋根の上から吹き飛び、地面へと落下する。その際に周りにいた鬼達も巻き込まれて地面に伏す。
赤い鬣が靡き、赤い双眸が炎のように沸る。
伝説の軍馬スレイプニルことスーちゃんは四人組の前に鉄壁のように身構える。
四人組は、「スーちゃん!」と歓喜の声、黒い大きな首に抱きつく。
「はしゃぐのは後にしろ」
そんな四人組とスーちゃんの前に青磁色の騎士鎧を纏い、刃の潰れた大剣を携えた白髪の猛禽類のような目をしたグリフィン卿が現れる。
「ここは戦場なのだからな」
猛禽類のような目で四人組とスーちゃんを睨む。
四人組とスーちゃんは、不満そうに唇を尖らせる。
「貴方こそちゃんとやりなさい」
グリフィン卿の後ろからマダムがゆっくりとした足取りで現れ、普段は穏やかな出来優しい目を冷徹に細める。
「ここで活躍しなかったらエガオちゃんに一生嫌われるからね」
そう言ってグリフィン卿の横を通り過ぎる。
「もちろん私もよ」
妻の言葉にグリフィン卿は、喉をぐっと鳴らす。
マダムは、穏やかな表情に戻ってスーちゃんの赤い鬣を撫で、燃えるような赤い目を見る。
「この子達は私達に任せてエガオちゃんを助けてあげて」
マダムは、強い眼差しでスーちゃんの目を見る。
スーちゃんもマダムをじっと見て「当たり前だ!」と言わんばかりに大きな声で嘶き、屋根の上から飛び降りる。
その華麗な姿を四人組は、見て、そして思い出したように私を見る。
「やばい!」
イリーナが声を荒げ、革袋の球を拾い上げて木剣で打つ。
球は、見事に大鉈の刀身に当たり、蜂蜜で染まる。
「こっちは大丈夫だよー!」
サヤが私に向かって叫ぶ。
それに続いて他の三人も大きく手を振る。
私は、安堵する。
地面に降り立ったスーちゃんは、その巨体を活かして次々に鬼を制圧する。
蹄で殴り、胴体でぶつかり、太く強靭な首で宙高く投げる。
そして燃えるような目で私に「ここは任せろ!」と訴える。
私は、小さく頷き、蜂蜜に染まった大鉈を握って旋律を刻む。
ターンッターンッタッタッタッターン!
私は、大鉈を振り回して円を描きながら宙を舞う。
鬼達が天に昇ろうと群がる亡者の如く私に手を伸ばす。
私は、その中の一体の鬼の顔面に爪先を叩きつける。
鬼の口から醜い悲鳴が上がる。
ごめんなさい!元に戻ったらちゃんと謝ります!
私は、鬼の顔を軸に体幹で体勢を伸ばし、大鉈をさらに振り回して球上に描く。
刀身に張り付いた蜂蜜が石の礫のように弾けて飛び跳び、鬼の身体を捉え、粘りながら張り付き、その巨体の動きを封じていく。
蜂蜜が尽きかけると革袋の球が飛んでいきて刀身にぶつかり補充され、遠心力に乗って弾け飛び、さらに鬼達の動きを封じていく。
まさに無双状態。
「凄い・・・」
どこからか感嘆の声が聞こえる。
屋根の上から四人組とマダムも目を輝かせて私を見ている。
しかし、わたしの目は4人組もマダムも鬼見据えてない。
その奥にいるヌエを、そしてマナを見据える。
ヌエの身体から紫電が舞う。
右手の魔印からではない?
紫電は、無数の蛇のように畝りながら私に襲う。
私は、膝をバネのようにしならせて鬼の顔を蹴り上げ、後方に飛ぶ。
紫電は、私に踏まれていた鬼を捉え、感電させる。
私は、蜂蜜に囚われて動けない鬼達の間に着地し、旋律を刻む。
再び紫電がヌエの身体から迸り、雨のように、動けない鬼達を、そして私に降り注ぐ。
私は、旋律を刻んで紫電を避ける。
ターンッターンッターンッ!
マナの顎が開き、青白い炎が吹き上がる。
魔印の制約により私のことを攻撃することは出来ないはず。
つまりあの攻撃は私にではなく、鬼達を狙ったもの。
鬼を犠牲に私を仕留めようとしているのだ。
私は、唇を噛み締める。
脳裏で様々な戦略が浮かんでは消え、最良の選択を選び
構築していく。
そして一つの答えを導き出す。
私は、巨体を振り回し、鬼を倒していくスーちゃんを見る。
「スーちゃん!」
私は、叫ぶ。
スーちゃんは、戦いながら燃える赤い目を私に向ける。
私は、視線を左に、そして右に動かす。
普通なら分かるはずのないアイコンタクト。
しかし、伝説の軍馬はそれだけで私の戦略を理解し、小さく嘶いた。
私は、全身の力を緩め、旋律を刻むことに全てを費やす。
ターンッターンッターンッタッタッタッタン!
マナの顎の炎が膨らみ、燃え上がる。
自分達が狙われているなんて知る由もない鬼達が一斉に私を襲いくる。
私は、鬼達の攻撃を甘んじ受ける。
頬を殴られ、お腹を蹴られ、背中を打たれ、結った髪が解ける。
遠くからマダムと四人組の悲鳴が聞こえる。
ヌエが笑う。
マナの青白い炎が最大まで膨らみ、その顎が砲となって私の、鬼達を捉える。
今だ!
ターンッ!
私は、地面を蹴り上げて鬼達の攻撃から抜け出す。
そして回転しながら宙を舞い、スーちゃんの元に落下する。
スーちゃんは、襲いくる鬼達を全て払い除け、後ろを向くと前と真ん中の脚を使って身体を持ち上げる。
落下する私の両足とスーちゃんの後脚の裏が祈るように重なる。
スーちゃんの後脚に太い血管が幾つも浮かび、私を乗せて一気に蹴り上げる。
私の身体は矢と化して空を切り裂き飛ぶ。
「イリーナ!」
私は、振り返ることなく屋根の上のイリーナに叫ぶ。
イリーナは、木剣を振り上げる。
「その角度じゃダメ!」
棒を構えながらサヤが言う。
「もっと斜めに!」
「リズムはバッチリにゃ!」
イリーナは、頷き、ディナの浮かべた革袋の球を打つ。
イリーナの放った球は、高速で飛ぶ大鉈の刀身に見事に当たり、蜂蜜が広がる。
私は、全身の筋肉が悲鳴を上げるのを無視して風圧に軋む身体を捻り、今にも青白い炎を放とうとするマナの顎に向かって大鉈を放つ。
青白い炎と大鉈から放たれた衝撃がぶつかり、爆音を上げる。
白い煙が舞い上がる。
私は、石畳の上に落下する。
ヌエがマナの頭から振り落とされ、建物の壁にぶつかる。
白い煙が消え、蜂蜜に顎を塞がれたマナの姿が現れる。
マナは、苦しそうに身体を悶えさせる。
私は、胸が痛みながらも好機と捉え、身体中に走る痛みを堪えて立ち上がり、大鉈を持ち上げると革袋の球が飛んできて刀身にぶつかる。
私は、蜂蜜に濡れた大鉈を振り回す。
刀身から蜂蜜の塊が飛び、マナの右前脚にぶつかり固定する。
マナは、バランスを崩して石畳に倒れ込む。
刀身に革袋の球がぶつかる。
私は、四人組と連携し、次々に蜂蜜の塊をマナにぶつけて動けないようマナの四肢を固定する。
マナは、苦しそうに呻きながらも立ち上がることが出来なくなった。
私は、ようやく息を吐く。
ヌエが悔しそうにこちらを見る。
私は、激しい痛みに襲われながらもヌエに大鉈を向ける。
「貴方の負けよ」
私は、冷徹に目を細める。
「降伏して魔印を解きなさい」
私の降伏勧告にヌエは、答えない。
その変わりに両手を広げて全身から紫電を巻き起こす。
私は、小さく息を吐き、蜂蜜に濡れた大鉈を構える。
その時だ。
ヌエの胸から剣が飛び出してきた。
「!」
私は、目を大きく開く。
ヌエの両腕がだらりと落ちる。
「やはり貴方は腑抜けだ」
ヌエの背後から声が伸びる。
金髪を短く刈り上げた青年、イーグルがそこにいた。
イーグルは、憎々しげな目で自分が刺したヌエを見る。
「こんなまどろっこしいことをせず一気に始末すればいいんだ」
イーグルは、剣の柄を捻る。
ヌエの口から苦鳴が上がり、血が溢れる。
イーグルは、そのまま剣を引き抜く。
ヌエは、そのまま地面に倒れ伏す。
私は、唇を噛み、イーグルを睨む。
イーグルは、気にした様子も見せずヌエの前にしゃがみ込み、フードを剥がす。
そして私達は、絶句する。
その顔は私達の知るヌエではなかった。
ヌエよりも遥かに老けた老人の顔がそこにあった。
私は、倒れている老人に駆け寄り、右手を確認する。
全ての指がある。そして小さく薄く刻まれた魔印も。
そして左手首にも小さく薄く刻まれた魔印があった。
「魔印の一部譲渡」
イーグルがほそりっと呟く。
魔法騎士が戦争時に部下に使った技法の一つ。
魔印の力の一部を託し、戦いに利用する高等技術。
「おとり・・」
私は、ぼそりっと呟く。
イーグルの顔に動揺が走る。
もし、これが私達、主戦力を引きつけるための陽動作戦だとしたら・・・。
私は、立ち上がって同じように動揺しているグリフィン卿を見る。
グリフィン卿は、頷くと直様行動に移そうとした。
その時だ。
マナから絶叫が上がる。
口を包んでいた蜂蜜が割れ、唸り声が街中に響き渡る。
首筋の魔印が激しく光り、筋肉が激しく波打ち、膨れ上がる。
暴走!
制御を失った魔印の力がマナの身体の中で暴走している。
激しく膨らんでいたマナの身体が風船のように萎んでいく。牙が消え、体毛が抜け落ち、元の少女の姿へと戻っていく。
「マナ!」
私は、駆け寄ろうとして足を止める。
何か嫌な気配がマナの身体中から溢れている。
マナは、ゆっくり立ち上がる。
優しく、可愛らしいマナの目が私を見る。
「エガオ様・・・」
マナの目から赤い涙が一筋流れる。
「私を殺してください」
次の瞬間、マナの身体が破裂するように膨れ上がった。
飛び散った赤い血が私の頬を濡らした。
四人組のいる屋根に大きな黒い影が見えた瞬間、鬼の姿が消える。
空を切り裂くような嘶きと共に鬼達は屋根の上から吹き飛び、地面へと落下する。その際に周りにいた鬼達も巻き込まれて地面に伏す。
赤い鬣が靡き、赤い双眸が炎のように沸る。
伝説の軍馬スレイプニルことスーちゃんは四人組の前に鉄壁のように身構える。
四人組は、「スーちゃん!」と歓喜の声、黒い大きな首に抱きつく。
「はしゃぐのは後にしろ」
そんな四人組とスーちゃんの前に青磁色の騎士鎧を纏い、刃の潰れた大剣を携えた白髪の猛禽類のような目をしたグリフィン卿が現れる。
「ここは戦場なのだからな」
猛禽類のような目で四人組とスーちゃんを睨む。
四人組とスーちゃんは、不満そうに唇を尖らせる。
「貴方こそちゃんとやりなさい」
グリフィン卿の後ろからマダムがゆっくりとした足取りで現れ、普段は穏やかな出来優しい目を冷徹に細める。
「ここで活躍しなかったらエガオちゃんに一生嫌われるからね」
そう言ってグリフィン卿の横を通り過ぎる。
「もちろん私もよ」
妻の言葉にグリフィン卿は、喉をぐっと鳴らす。
マダムは、穏やかな表情に戻ってスーちゃんの赤い鬣を撫で、燃えるような赤い目を見る。
「この子達は私達に任せてエガオちゃんを助けてあげて」
マダムは、強い眼差しでスーちゃんの目を見る。
スーちゃんもマダムをじっと見て「当たり前だ!」と言わんばかりに大きな声で嘶き、屋根の上から飛び降りる。
その華麗な姿を四人組は、見て、そして思い出したように私を見る。
「やばい!」
イリーナが声を荒げ、革袋の球を拾い上げて木剣で打つ。
球は、見事に大鉈の刀身に当たり、蜂蜜で染まる。
「こっちは大丈夫だよー!」
サヤが私に向かって叫ぶ。
それに続いて他の三人も大きく手を振る。
私は、安堵する。
地面に降り立ったスーちゃんは、その巨体を活かして次々に鬼を制圧する。
蹄で殴り、胴体でぶつかり、太く強靭な首で宙高く投げる。
そして燃えるような目で私に「ここは任せろ!」と訴える。
私は、小さく頷き、蜂蜜に染まった大鉈を握って旋律を刻む。
ターンッターンッタッタッタッターン!
私は、大鉈を振り回して円を描きながら宙を舞う。
鬼達が天に昇ろうと群がる亡者の如く私に手を伸ばす。
私は、その中の一体の鬼の顔面に爪先を叩きつける。
鬼の口から醜い悲鳴が上がる。
ごめんなさい!元に戻ったらちゃんと謝ります!
私は、鬼の顔を軸に体幹で体勢を伸ばし、大鉈をさらに振り回して球上に描く。
刀身に張り付いた蜂蜜が石の礫のように弾けて飛び跳び、鬼の身体を捉え、粘りながら張り付き、その巨体の動きを封じていく。
蜂蜜が尽きかけると革袋の球が飛んでいきて刀身にぶつかり補充され、遠心力に乗って弾け飛び、さらに鬼達の動きを封じていく。
まさに無双状態。
「凄い・・・」
どこからか感嘆の声が聞こえる。
屋根の上から四人組とマダムも目を輝かせて私を見ている。
しかし、わたしの目は4人組もマダムも鬼見据えてない。
その奥にいるヌエを、そしてマナを見据える。
ヌエの身体から紫電が舞う。
右手の魔印からではない?
紫電は、無数の蛇のように畝りながら私に襲う。
私は、膝をバネのようにしならせて鬼の顔を蹴り上げ、後方に飛ぶ。
紫電は、私に踏まれていた鬼を捉え、感電させる。
私は、蜂蜜に囚われて動けない鬼達の間に着地し、旋律を刻む。
再び紫電がヌエの身体から迸り、雨のように、動けない鬼達を、そして私に降り注ぐ。
私は、旋律を刻んで紫電を避ける。
ターンッターンッターンッ!
マナの顎が開き、青白い炎が吹き上がる。
魔印の制約により私のことを攻撃することは出来ないはず。
つまりあの攻撃は私にではなく、鬼達を狙ったもの。
鬼を犠牲に私を仕留めようとしているのだ。
私は、唇を噛み締める。
脳裏で様々な戦略が浮かんでは消え、最良の選択を選び
構築していく。
そして一つの答えを導き出す。
私は、巨体を振り回し、鬼を倒していくスーちゃんを見る。
「スーちゃん!」
私は、叫ぶ。
スーちゃんは、戦いながら燃える赤い目を私に向ける。
私は、視線を左に、そして右に動かす。
普通なら分かるはずのないアイコンタクト。
しかし、伝説の軍馬はそれだけで私の戦略を理解し、小さく嘶いた。
私は、全身の力を緩め、旋律を刻むことに全てを費やす。
ターンッターンッターンッタッタッタッタン!
マナの顎の炎が膨らみ、燃え上がる。
自分達が狙われているなんて知る由もない鬼達が一斉に私を襲いくる。
私は、鬼達の攻撃を甘んじ受ける。
頬を殴られ、お腹を蹴られ、背中を打たれ、結った髪が解ける。
遠くからマダムと四人組の悲鳴が聞こえる。
ヌエが笑う。
マナの青白い炎が最大まで膨らみ、その顎が砲となって私の、鬼達を捉える。
今だ!
ターンッ!
私は、地面を蹴り上げて鬼達の攻撃から抜け出す。
そして回転しながら宙を舞い、スーちゃんの元に落下する。
スーちゃんは、襲いくる鬼達を全て払い除け、後ろを向くと前と真ん中の脚を使って身体を持ち上げる。
落下する私の両足とスーちゃんの後脚の裏が祈るように重なる。
スーちゃんの後脚に太い血管が幾つも浮かび、私を乗せて一気に蹴り上げる。
私の身体は矢と化して空を切り裂き飛ぶ。
「イリーナ!」
私は、振り返ることなく屋根の上のイリーナに叫ぶ。
イリーナは、木剣を振り上げる。
「その角度じゃダメ!」
棒を構えながらサヤが言う。
「もっと斜めに!」
「リズムはバッチリにゃ!」
イリーナは、頷き、ディナの浮かべた革袋の球を打つ。
イリーナの放った球は、高速で飛ぶ大鉈の刀身に見事に当たり、蜂蜜が広がる。
私は、全身の筋肉が悲鳴を上げるのを無視して風圧に軋む身体を捻り、今にも青白い炎を放とうとするマナの顎に向かって大鉈を放つ。
青白い炎と大鉈から放たれた衝撃がぶつかり、爆音を上げる。
白い煙が舞い上がる。
私は、石畳の上に落下する。
ヌエがマナの頭から振り落とされ、建物の壁にぶつかる。
白い煙が消え、蜂蜜に顎を塞がれたマナの姿が現れる。
マナは、苦しそうに身体を悶えさせる。
私は、胸が痛みながらも好機と捉え、身体中に走る痛みを堪えて立ち上がり、大鉈を持ち上げると革袋の球が飛んできて刀身にぶつかる。
私は、蜂蜜に濡れた大鉈を振り回す。
刀身から蜂蜜の塊が飛び、マナの右前脚にぶつかり固定する。
マナは、バランスを崩して石畳に倒れ込む。
刀身に革袋の球がぶつかる。
私は、四人組と連携し、次々に蜂蜜の塊をマナにぶつけて動けないようマナの四肢を固定する。
マナは、苦しそうに呻きながらも立ち上がることが出来なくなった。
私は、ようやく息を吐く。
ヌエが悔しそうにこちらを見る。
私は、激しい痛みに襲われながらもヌエに大鉈を向ける。
「貴方の負けよ」
私は、冷徹に目を細める。
「降伏して魔印を解きなさい」
私の降伏勧告にヌエは、答えない。
その変わりに両手を広げて全身から紫電を巻き起こす。
私は、小さく息を吐き、蜂蜜に濡れた大鉈を構える。
その時だ。
ヌエの胸から剣が飛び出してきた。
「!」
私は、目を大きく開く。
ヌエの両腕がだらりと落ちる。
「やはり貴方は腑抜けだ」
ヌエの背後から声が伸びる。
金髪を短く刈り上げた青年、イーグルがそこにいた。
イーグルは、憎々しげな目で自分が刺したヌエを見る。
「こんなまどろっこしいことをせず一気に始末すればいいんだ」
イーグルは、剣の柄を捻る。
ヌエの口から苦鳴が上がり、血が溢れる。
イーグルは、そのまま剣を引き抜く。
ヌエは、そのまま地面に倒れ伏す。
私は、唇を噛み、イーグルを睨む。
イーグルは、気にした様子も見せずヌエの前にしゃがみ込み、フードを剥がす。
そして私達は、絶句する。
その顔は私達の知るヌエではなかった。
ヌエよりも遥かに老けた老人の顔がそこにあった。
私は、倒れている老人に駆け寄り、右手を確認する。
全ての指がある。そして小さく薄く刻まれた魔印も。
そして左手首にも小さく薄く刻まれた魔印があった。
「魔印の一部譲渡」
イーグルがほそりっと呟く。
魔法騎士が戦争時に部下に使った技法の一つ。
魔印の力の一部を託し、戦いに利用する高等技術。
「おとり・・」
私は、ぼそりっと呟く。
イーグルの顔に動揺が走る。
もし、これが私達、主戦力を引きつけるための陽動作戦だとしたら・・・。
私は、立ち上がって同じように動揺しているグリフィン卿を見る。
グリフィン卿は、頷くと直様行動に移そうとした。
その時だ。
マナから絶叫が上がる。
口を包んでいた蜂蜜が割れ、唸り声が街中に響き渡る。
首筋の魔印が激しく光り、筋肉が激しく波打ち、膨れ上がる。
暴走!
制御を失った魔印の力がマナの身体の中で暴走している。
激しく膨らんでいたマナの身体が風船のように萎んでいく。牙が消え、体毛が抜け落ち、元の少女の姿へと戻っていく。
「マナ!」
私は、駆け寄ろうとして足を止める。
何か嫌な気配がマナの身体中から溢れている。
マナは、ゆっくり立ち上がる。
優しく、可愛らしいマナの目が私を見る。
「エガオ様・・・」
マナの目から赤い涙が一筋流れる。
「私を殺してください」
次の瞬間、マナの身体が破裂するように膨れ上がった。
飛び散った赤い血が私の頬を濡らした。
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