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第8章 涙
涙(1)
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グリフィン卿から親について聞かされたのは一度だけ。
確か六歳くらいだったと思う。
何がきっかけで話されたのかは忘れてしまったが、私の住んでいた街が帝国に襲われ、両親の命は奪われた。
私は両親から少し離れたところで亡くなった2人で泣いていたところをメドレーを率いて戦っていたグリフィン卿に助けられたのだという。
その話しを聞いた時、私は我がごととしてその話しを捉えることが出来なかった。
どこかで石が転がったと聞かされるくらい感心を示すことが出来なかった。
その頃の私はそのくらい心が壊れていたのだと思う。
頭の中にあったのはどうやれば強くなれるか、どのように闘えば敵を倒せるかしかなかったのだから。
「親のことで思い出せることはないか?」
グリフィン卿は、鋭い目を細めて私に聞く。
「ありません」
私が端的に答えるとグリフィン卿は、酷く悲しそうな顔をした。
その表情に何故か私は罪悪感を覚えた。
私は、嘘を付いた。
それが親かどうかは分からない。
でも、私の記憶の奥の奥にその思い出は確かにあった。
『エガオちゃん』
優しく私の名前を呼んで微笑む誰か。
もう顔は思い出せない。
声色だってきっと違う。
でも、『エガオちゃん』と呼んでくれたその人は確かに私に温かい何かを注いでくれていた。
『大好きよエガオちゃん』
優しい声。
温かい声。
愛しい声。
私は、時折りその顔も分からない誰かの夢を見て泣いていた。
そして願った。
いつかその誰かに会える日が来ることを。
そして・・・。
私の目からいつの間にか涙が溢れていた。
マダムは、私の背中に顔を押し付ける。
「ごめんなさい。本当はこんな話しするつもりはなかった。来るのも迷った」
私の身体を包み込むように回された両手が許しを乞うようにきゅっと力を入れる。
「でも、どうしても我慢が出来なかった。夫から話を聞いて、苦しんでるエガオちゃんの話しを聞いて、何もせずにはいられなかった。来ずにいられなかったの」
マダムは、嗚咽と共に言葉を漏らす。
「エガオちゃんが大好きだから・・・」
私の心の中で何かが弾けた。
私は、マダムの手を払って立ち上がる。
涙に濡れたマダムの目が私を見る。
「ふざけないで下さい」
私の口が勝手に言葉を紡ぐ。
「私がどんな思いで貴方を待っていたと思ってるんですか?」
私の言葉にマダムが動揺しているのを感じる。
「覚えてたの?」
「思い出しました」
正直に言えば思い出した訳ではない。
記憶は朧げだし、出てくる人物とエピソードも霞がかってる。
ただ、あの時、小さかった私が感じたことだけが溢れてきた。
「寂しかった。辛かった。いつまで待っても帰ってこない貴方に捨てられたんだと思った」
ダメ!
そんなこと言っちゃダメ!
聞いたでしょ!
マダムは帰ってこなかったんじゃない。帰ってこれなかったのよ!
私は、必死に自分に言い聞かす。
「エガオちゃん・・・」
マダムの声が震える。
水色の目から溢れる涙が床を打つ。
「大好きだった。ずっと一緒にいて欲しかった。ずっと待ってた」
ダメだ。
言葉が止まらない。
涙が止まらない。
「なんで?なんで来てくれなかったの?」
辛い戦の稽古をする度に、戦場で遠くを見る度に心のどこかで顔の見えない誰かを求めていた。
いつか私の前に現れて優しい声をかけてくれると願っていた。
「エガオちゃん・・」
マダムは、立ち上がり、細い手を私の肩に伸ばす。
私は、その手を払い除ける。
「触らないで!近寄らないで!貴方にだけは優しくされたくない!」
私は、その場に崩れ落ちる。
力が入らない。
感情が止められない。
言いたくないのにひどい言葉が出てしまう。
「大嫌い!大嫌い!マダムなんて大嫌い!」
もうどうしたら良いのか分からない。
自分を抑えられない。
感情が止まらない。
このまま消え去ってしまいたい。
私は、もう言葉を出すことも出来ずに泣きじゃくった。
背中に熱い温もりが灯る。
優しい力が震える私の身体を包み込む。
「エガオちゃん・・」
マダムは、耳元で優しく私の名前を囁く。
「呼ばないで」
「エガオちゃん・・」
「触らないで・・」
「エガオちゃん・・」
「嫌い・・」
「エガオちゃん・・」
「大嫌い・・」
「・・・大好きよエガオちゃん」
私を抱きしめるマダムの手が震える。
私は、マダムの手にそっと自分の手を重ねる。
「ママ・・・」
それは小さい頃の私の声だったのか、それとも大きくなった私の声だったのだろうか?
マダムは、とても驚いた顔をして私を見て、力強く、優しく抱きしめた。
私は、マダムの温もりを感じながら嗚咽し、涙した。
確か六歳くらいだったと思う。
何がきっかけで話されたのかは忘れてしまったが、私の住んでいた街が帝国に襲われ、両親の命は奪われた。
私は両親から少し離れたところで亡くなった2人で泣いていたところをメドレーを率いて戦っていたグリフィン卿に助けられたのだという。
その話しを聞いた時、私は我がごととしてその話しを捉えることが出来なかった。
どこかで石が転がったと聞かされるくらい感心を示すことが出来なかった。
その頃の私はそのくらい心が壊れていたのだと思う。
頭の中にあったのはどうやれば強くなれるか、どのように闘えば敵を倒せるかしかなかったのだから。
「親のことで思い出せることはないか?」
グリフィン卿は、鋭い目を細めて私に聞く。
「ありません」
私が端的に答えるとグリフィン卿は、酷く悲しそうな顔をした。
その表情に何故か私は罪悪感を覚えた。
私は、嘘を付いた。
それが親かどうかは分からない。
でも、私の記憶の奥の奥にその思い出は確かにあった。
『エガオちゃん』
優しく私の名前を呼んで微笑む誰か。
もう顔は思い出せない。
声色だってきっと違う。
でも、『エガオちゃん』と呼んでくれたその人は確かに私に温かい何かを注いでくれていた。
『大好きよエガオちゃん』
優しい声。
温かい声。
愛しい声。
私は、時折りその顔も分からない誰かの夢を見て泣いていた。
そして願った。
いつかその誰かに会える日が来ることを。
そして・・・。
私の目からいつの間にか涙が溢れていた。
マダムは、私の背中に顔を押し付ける。
「ごめんなさい。本当はこんな話しするつもりはなかった。来るのも迷った」
私の身体を包み込むように回された両手が許しを乞うようにきゅっと力を入れる。
「でも、どうしても我慢が出来なかった。夫から話を聞いて、苦しんでるエガオちゃんの話しを聞いて、何もせずにはいられなかった。来ずにいられなかったの」
マダムは、嗚咽と共に言葉を漏らす。
「エガオちゃんが大好きだから・・・」
私の心の中で何かが弾けた。
私は、マダムの手を払って立ち上がる。
涙に濡れたマダムの目が私を見る。
「ふざけないで下さい」
私の口が勝手に言葉を紡ぐ。
「私がどんな思いで貴方を待っていたと思ってるんですか?」
私の言葉にマダムが動揺しているのを感じる。
「覚えてたの?」
「思い出しました」
正直に言えば思い出した訳ではない。
記憶は朧げだし、出てくる人物とエピソードも霞がかってる。
ただ、あの時、小さかった私が感じたことだけが溢れてきた。
「寂しかった。辛かった。いつまで待っても帰ってこない貴方に捨てられたんだと思った」
ダメ!
そんなこと言っちゃダメ!
聞いたでしょ!
マダムは帰ってこなかったんじゃない。帰ってこれなかったのよ!
私は、必死に自分に言い聞かす。
「エガオちゃん・・・」
マダムの声が震える。
水色の目から溢れる涙が床を打つ。
「大好きだった。ずっと一緒にいて欲しかった。ずっと待ってた」
ダメだ。
言葉が止まらない。
涙が止まらない。
「なんで?なんで来てくれなかったの?」
辛い戦の稽古をする度に、戦場で遠くを見る度に心のどこかで顔の見えない誰かを求めていた。
いつか私の前に現れて優しい声をかけてくれると願っていた。
「エガオちゃん・・」
マダムは、立ち上がり、細い手を私の肩に伸ばす。
私は、その手を払い除ける。
「触らないで!近寄らないで!貴方にだけは優しくされたくない!」
私は、その場に崩れ落ちる。
力が入らない。
感情が止められない。
言いたくないのにひどい言葉が出てしまう。
「大嫌い!大嫌い!マダムなんて大嫌い!」
もうどうしたら良いのか分からない。
自分を抑えられない。
感情が止まらない。
このまま消え去ってしまいたい。
私は、もう言葉を出すことも出来ずに泣きじゃくった。
背中に熱い温もりが灯る。
優しい力が震える私の身体を包み込む。
「エガオちゃん・・」
マダムは、耳元で優しく私の名前を囁く。
「呼ばないで」
「エガオちゃん・・」
「触らないで・・」
「エガオちゃん・・」
「嫌い・・」
「エガオちゃん・・」
「大嫌い・・」
「・・・大好きよエガオちゃん」
私を抱きしめるマダムの手が震える。
私は、マダムの手にそっと自分の手を重ねる。
「ママ・・・」
それは小さい頃の私の声だったのか、それとも大きくなった私の声だったのだろうか?
マダムは、とても驚いた顔をして私を見て、力強く、優しく抱きしめた。
私は、マダムの温もりを感じながら嗚咽し、涙した。
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