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第6章 絶叫
絶叫(4)
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「ターンッターンッターンッ」
私の口がリズムを刻む。
その瞬間、襲いくる鬼達の身体が一斉に吹き飛ぶ。
ある者は壁に激突し、ある者は、宙へと吹き飛び、そしてある者は石畳に沈んだ。
鬼達の動きが止まる。
本能が彼らの動きを止めた。
ヌエの顔に驚愕が浮かぶ。
私は、両手で大鉈の柄の中心を握り、ダラリと腕を垂らして垂直に持つ。
両足の踵と爪先で一定の旋律を刻んで石畳の上で跳ねる。
ターンッターンッターンッ。
ターンッタッタッタッターン。
その旋律に合わせて私は両手で交互に持ち替えながら大鉈を振り回す。
前に後ろに横に斜めに振り回して円を描く。
足だけでなく、腰も、腹も胸もリズムに合わせて動き、畝り、回転する。
「武舞踏」
ヌエが声を震わせて呟く。
そう、これは武舞踏。
私が・・・・笑顔のないエガオが戦いの中で生み出した唯一の戦闘方法。
王国より戦乙女の刻まれた大鉈を寄越された由縁。
そして・・・。
ヌエの青い魔印が輝き、マナの魔印が輝く。
鬼達が雄叫びを上げて再び私に襲い掛かる。
そして武舞踏を見て生きて帰った者は1人もいない。
縦横無尽に舞う大鉈の刃が鬼達を沈める。
腕をひしゃげ、肋骨を破砕し、足を潰す。
石畳に頭ごと沈み、建物の壁に半身を埋め、紙切れのように宙に舞い上がる。
さながら嵐。
鬼の顔に本能からくる恐怖に怯えているにも関わらず主人の命令に逆らうことが出来ず次々に襲いくるも次々に動けなくなる。
無駄な消費。
私は、旋律を刻みながらヌエを、そしてマナを見る。
ヌエの表情に苦渋が浮かぶ。
「そろそろ死ぬ?」
私は、旋律を刻みながら彼に問いかける。
ヌエの表情に恐怖が浮かぶ。
思考が狭くなっていく。
敵を、ヌエを、マナを仕留めること以外考えられなくなる。
笑顔のないエガオが私を埋め尽くし、殲滅しろと囁きかける。
そんなに喚かなくても分かってるよ。
分かりきったこと言わないで。
私は、笑顔のないエガオなんだから。
私は、円を解く。
足踏みしながら大鉈の切先を突き出すように構えてヌエとの距離を縮める。
ヌエの右腕の魔印が紫色に輝き、五筋の紫電が迸る。
大きい。
今まで最大の威力だ。
受け止めても、砕いてもその電力で即死だろう。
なら・・・避ければいい。
私は、旋律を変える。
強く、激しく、速く刻む。
タッタッタッタッターン。
私は、襲いくる五筋の紫電を身体を反らし、晒し、回転して触れることなく避けていく。
ヌエの表情に恐怖が走る。
私は、大鉈を振り上げ、激しく旋律を叩きつける。
ターンッ!
石畳を踏み砕き、指揮棒のように大鉈を
振り下ろす。
大鉈の切先がヌエの身体を両断する。
紫電が迸る。
ヌエの右腕から迸った紫電が石畳を穿ち、ヌエの身体を後方へ吹き飛ばす。
ヌエを両断するはずであった大鉈の刃は、空を斬る。
紫電の威力に吹き飛んだヌエは、建物の屋根に激しく背中を叩きつけられる。
身体を起こし、憎々しげに私を見る顔の額から胸に掛けて大鉈の切先が触れたことによって出来た赤い直線の筋が割れ目のように浮かび上がっていた。
私は、冷酷にヌエを見上げるも既に興味を無くす。
逃げた奴は後で仕留めればいい。
私は、獰猛な双眸で私を睨むマナを見る。
巨大な顎から地鳴りのような唸り声が響く。
それは威嚇のようであり、怯えているようであった。
私は、再び旋律を刻む。
タンッタンッタンッタンッ。
ごめんねマナ。
笑顔のないエガオは、胸中で小さく謝る。
みんなの為に・・死んで。
ターンッ。
私は石畳を蹴り付け、宙を舞うと高く大鉈を振り上げる。
切先が陽光に浴び、妖しく輝く。
マナは、獰猛な双眸で切先を見て、目を閉じる。
祈るような、覚悟を決めたように。
「さようなら」
私は、大鉈を振り下ろした。
肉を斬る感触と鮮血が飛び散り、私の顔を染める。
音が止まる。
空気が止まる。
戦慄が止まる。
狭くなっていた意識が少しずつ広がっていく。
「思ったより痛え」
それはこの場にいないはずの声だった。
私は、目を大きく震わせる。
目の前にある光景が何なのかまったく理解出来ない。
私は、確かに大鉈で切り裂いた。
鮮血を浴びた。
しかし、私が斬ったのも血の主もマナではなかった。
そこにいたのは鳥の巣のような髪をした男。
カゲロウ・・・!
カゲロウの胸から腹にかけて大きな赤い筋が走っている。
なんで⁉︎
なんでカゲロウがここにいるの⁉︎
私の頭は混乱する。
そんな私にカゲロウは、優しく笑いかける。
いつもと変わらない、穏やかで優しい笑みを。
カゲロウの身体が力なく石畳の上に落ちる。
私の身体も石畳の上に落ちる。
身体が震える。
笑顔のないエガオが小さくなって心の奥に引っ込む。
私は私に戻る。
大鉈に赤い鮮血がこびりついている。
彼の血が。
そして彼は力なく石畳の上に横たわる。
「いや・・・」
私は、大鉈を落とし、髪を掻きむしる。
「いや、いや、いやぁぁぁぁ!」
私の泣き叫ぶように絶叫した。
私の口がリズムを刻む。
その瞬間、襲いくる鬼達の身体が一斉に吹き飛ぶ。
ある者は壁に激突し、ある者は、宙へと吹き飛び、そしてある者は石畳に沈んだ。
鬼達の動きが止まる。
本能が彼らの動きを止めた。
ヌエの顔に驚愕が浮かぶ。
私は、両手で大鉈の柄の中心を握り、ダラリと腕を垂らして垂直に持つ。
両足の踵と爪先で一定の旋律を刻んで石畳の上で跳ねる。
ターンッターンッターンッ。
ターンッタッタッタッターン。
その旋律に合わせて私は両手で交互に持ち替えながら大鉈を振り回す。
前に後ろに横に斜めに振り回して円を描く。
足だけでなく、腰も、腹も胸もリズムに合わせて動き、畝り、回転する。
「武舞踏」
ヌエが声を震わせて呟く。
そう、これは武舞踏。
私が・・・・笑顔のないエガオが戦いの中で生み出した唯一の戦闘方法。
王国より戦乙女の刻まれた大鉈を寄越された由縁。
そして・・・。
ヌエの青い魔印が輝き、マナの魔印が輝く。
鬼達が雄叫びを上げて再び私に襲い掛かる。
そして武舞踏を見て生きて帰った者は1人もいない。
縦横無尽に舞う大鉈の刃が鬼達を沈める。
腕をひしゃげ、肋骨を破砕し、足を潰す。
石畳に頭ごと沈み、建物の壁に半身を埋め、紙切れのように宙に舞い上がる。
さながら嵐。
鬼の顔に本能からくる恐怖に怯えているにも関わらず主人の命令に逆らうことが出来ず次々に襲いくるも次々に動けなくなる。
無駄な消費。
私は、旋律を刻みながらヌエを、そしてマナを見る。
ヌエの表情に苦渋が浮かぶ。
「そろそろ死ぬ?」
私は、旋律を刻みながら彼に問いかける。
ヌエの表情に恐怖が浮かぶ。
思考が狭くなっていく。
敵を、ヌエを、マナを仕留めること以外考えられなくなる。
笑顔のないエガオが私を埋め尽くし、殲滅しろと囁きかける。
そんなに喚かなくても分かってるよ。
分かりきったこと言わないで。
私は、笑顔のないエガオなんだから。
私は、円を解く。
足踏みしながら大鉈の切先を突き出すように構えてヌエとの距離を縮める。
ヌエの右腕の魔印が紫色に輝き、五筋の紫電が迸る。
大きい。
今まで最大の威力だ。
受け止めても、砕いてもその電力で即死だろう。
なら・・・避ければいい。
私は、旋律を変える。
強く、激しく、速く刻む。
タッタッタッタッターン。
私は、襲いくる五筋の紫電を身体を反らし、晒し、回転して触れることなく避けていく。
ヌエの表情に恐怖が走る。
私は、大鉈を振り上げ、激しく旋律を叩きつける。
ターンッ!
石畳を踏み砕き、指揮棒のように大鉈を
振り下ろす。
大鉈の切先がヌエの身体を両断する。
紫電が迸る。
ヌエの右腕から迸った紫電が石畳を穿ち、ヌエの身体を後方へ吹き飛ばす。
ヌエを両断するはずであった大鉈の刃は、空を斬る。
紫電の威力に吹き飛んだヌエは、建物の屋根に激しく背中を叩きつけられる。
身体を起こし、憎々しげに私を見る顔の額から胸に掛けて大鉈の切先が触れたことによって出来た赤い直線の筋が割れ目のように浮かび上がっていた。
私は、冷酷にヌエを見上げるも既に興味を無くす。
逃げた奴は後で仕留めればいい。
私は、獰猛な双眸で私を睨むマナを見る。
巨大な顎から地鳴りのような唸り声が響く。
それは威嚇のようであり、怯えているようであった。
私は、再び旋律を刻む。
タンッタンッタンッタンッ。
ごめんねマナ。
笑顔のないエガオは、胸中で小さく謝る。
みんなの為に・・死んで。
ターンッ。
私は石畳を蹴り付け、宙を舞うと高く大鉈を振り上げる。
切先が陽光に浴び、妖しく輝く。
マナは、獰猛な双眸で切先を見て、目を閉じる。
祈るような、覚悟を決めたように。
「さようなら」
私は、大鉈を振り下ろした。
肉を斬る感触と鮮血が飛び散り、私の顔を染める。
音が止まる。
空気が止まる。
戦慄が止まる。
狭くなっていた意識が少しずつ広がっていく。
「思ったより痛え」
それはこの場にいないはずの声だった。
私は、目を大きく震わせる。
目の前にある光景が何なのかまったく理解出来ない。
私は、確かに大鉈で切り裂いた。
鮮血を浴びた。
しかし、私が斬ったのも血の主もマナではなかった。
そこにいたのは鳥の巣のような髪をした男。
カゲロウ・・・!
カゲロウの胸から腹にかけて大きな赤い筋が走っている。
なんで⁉︎
なんでカゲロウがここにいるの⁉︎
私の頭は混乱する。
そんな私にカゲロウは、優しく笑いかける。
いつもと変わらない、穏やかで優しい笑みを。
カゲロウの身体が力なく石畳の上に落ちる。
私の身体も石畳の上に落ちる。
身体が震える。
笑顔のないエガオが小さくなって心の奥に引っ込む。
私は私に戻る。
大鉈に赤い鮮血がこびりついている。
彼の血が。
そして彼は力なく石畳の上に横たわる。
「いや・・・」
私は、大鉈を落とし、髪を掻きむしる。
「いや、いや、いやぁぁぁぁ!」
私の泣き叫ぶように絶叫した。
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