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アクアマリンの勇者
アクアマリンの勇者(2)
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アメノとロシェのいる畳の部屋に通された勇者はとても利発そうな顔をしていた。
利発で・・・とても弱々しそうだった。
年の頃は11・・いや、12歳と言ったところだろうか?
眉毛に掛からないくらいに切り揃えられた黒髪、黒曜のように輝く目、幼いが引き締まった顔つきからは知性が滲み出ている。しかし、その知性に溢れた顔に反比例してその身体はあまりに頼りない。
頭や左胸、腕や足、腰と言った必要最低限の部位のみを防御するように造られた海色の鎧から覗く手足は驚くほどに細く、ロシェの手どころかポコの幼い手の方が太いのではと感じるほどで鎧下垂れを脱いだら肋骨が浮き出ているのではないかと感じた。
ロシェは、勇者と呼ぶにはあまりにも儚い印象の少年をじっと見てしまった。
そして彼の隣に座るあまりにも対照的な人物にも。
ポコが客人用の若草色の湯呑みを二つ、丸いお盆に乗せてやってくる。
「粗茶でございますが」
ポコが丁寧に2人の前に湯呑みを置く。
「あっありがとうございます」
少年は、緊張した面持ちで丁寧に頭を下げる。
「ありがとうっす!」
少年の隣に座る長衣を着た絶世と言う言葉を絵に描いたような美しい顔立ちのエルフの女性、リンツは軽快にお礼を述べる。
「リンツ様・・」
「昨日ぶりっすね!」
リンツは、にこやかに笑って右手を上げる。
「まさかこんなに早く再会出来るとは思わなかったっすよ」
「私もです」
ロシェは、小さく笑みを浮かべる。
その顔にリンツは少し驚き、笑う。
「少し落ち着いたみたいっすね。良かった」
落ち着いた・・と言えるのだろうか?
リンツのいる保護施設を出て半日と少ししか時間は経ってないはずなのに非常に濃密な出来ごとが沢山あった。
特に・・。
思い出して、ロシェはむすっと頬を膨らませてアメノを睨む。
リンツは、怪訝な表情を浮かべてアメノを見る。
「旦那・・まさかもう手を出したんすか?」
「んな訳ねえだろう」
アメノは、不機嫌そうに言う。
「ちょいと不可抗力が働いただけだ」
どんな不可抗力なのか非常に気になってリンツは問い詰めようとする。が、隣にいる少年にそれを阻まれる。
「リンツさん、今は・・」
少年は、固い面持ちのままリンツを静止する。
緊張の為か、声が上擦っている。
「ああっ申し訳ないっす」
リンツは、苦笑いを浮かべて手を合わせる。
少年は、まったくと言った感じに肩を竦めると改めてアメノに向き直る。
「聖剣様」
「アメノです」
アメノは、自分に用意された焙じ茶を啜りながら少年を一瞥する。
「誰が付けたか分からない渾名です。名前でお呼び下さい」
口調はとても丁寧なのにその仕草は他者を萎縮させるのに十分な迫力があった。
案の定、少年の身体は一瞬で固まる。
それに気づいたリンツは、緑色の目を細めてアメノを睨む。
「うちの勇者様をビビらせないで欲しいっす」
リンツの苦情にアメノは、猛禽類のような目を大きく開いて驚く。
アメノからすれば普通に会話をしていただけでそんなつもりは微塵もなかった。
「ほら、ヘーゼルもちゃんと話すっす」
リンツは、ヘーゼルと呼んだ少年の肩をぱんっと叩く。
へーゼルは、びっくりしてリンツを見る。
その様子はまるで姉弟のように微笑ましくてロシェは小さく笑う。
「大変失礼を」
ヘーゼルは、頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
アメノは、少し戸惑いながら答える。
「改めまして、私はギルドより派遣されました勇者へーゼルと申します。等級はアクアマリンです」
ロシェは、眉を顰める。
ギルド?
等級?
アクアマリン?
その様子に気づいたリンツがロシェに目を向ける。
「旦那から聞いてないっすか?勇者ギルドのこと?」
勇者ギルド?
ロシェは、首を傾げてアメノを見る。
それに気づいたアメノは頬を掻く。
「そういや、まだ説明してなかったか」
「里親なんだからちゃんと自分の事を説明するっす」
リンツは、呆れて肩を竦める。
そしてロシェの方を向く。
「勇者ギルドって言うのはその名の通り勇者を取りまとめる組合のことっすよ」
勇者を取りまとめる?
「勇者って言うのは称号じゃなく職業なんすよ」
唯一無二の最高の存在。
勇者。
しかし、それがただ1人の持つ称号であったのはそれこそ魔王が顕現した千年も前のこと。
現在にはその才能を受け継ぐ人間種が数多く存在し、勇者として名乗りを上げていた。
そんな勇者を取りまとめ、正義の名の下に派遣するのが勇者ギルドなのだと言う。
その結果、勇者は名誉ある称号ではなく、星の数ほどある職業の一つになったのだ。
「ちなみに等級ってのはその勇者の実力に合わせた位のことっす」
リンツの話では等級は全部で7段階に分かれる。
第1位 金剛石
第2位 紅玉
第3位 青玉
第4位 緑玉
第5位 黄玉
第6位 紫玉
第7位 アクアマリン。
「ちなみに金剛石の等級を持つ勇者は歴史上では魔王を倒した勇者のみなので実質、王国最強の勇者は紅玉ということになるっす。そして・・」
リンツは、両手をアメノに向けて思い切り手をヒラヒラさせる。
「旦那は、そんな最強の勇者と肩を並べて戦うことの出来る唯一の剣士であり戦士なんす!」
リンツの説明にロシェは目を丸くする。
父たる白竜の王から勇者という存在のことは聞いていたから知ってはいたがまさかそんなシステマチックな仕組みになっているとは思いもしなかった。
ロシェは、じっとアメノを見る。
アメノも見られていることに気づき、眉を顰める。
「どうした。やっぱ煎餅食いたくなったのか?」
アメノの言葉にロシェはムッと頬を膨らます。
「いえ・・アメノ様は凄い方だったんだなと改めて思っただけですけど・・」
ロシェは、ぷいっと首を横に向ける。
「やっぱり訂正します」
ロシェの反応の意味が分からずアメノは首を傾げる。
襖の向こうに座ったポコがその様子をみてくすりっと笑い、リンツはやはり何かあったのではないかと疑いの目を向ける。
「あの・・話しを戻してもよろしいでしょうか?」
へーゼルが恐る恐る聞いてくる。
その言葉にアメノとロシェ、そしてリンツも姿勢を正す。
へーゼルは、緊張を払うように咳払いして改めてアメノを見る。
「最下位のアクアマリンである私が紅玉の勇者様の一行であるアメノ様に前に出てお願いするような立場ではないことは十分に承知しているのですが・・」
ヘーゼルは、正座したまま体を後ろに下げ、頭を下げる。
「どうか私の一行の前衛として協力してきただけないでしょうか?」
利発で・・・とても弱々しそうだった。
年の頃は11・・いや、12歳と言ったところだろうか?
眉毛に掛からないくらいに切り揃えられた黒髪、黒曜のように輝く目、幼いが引き締まった顔つきからは知性が滲み出ている。しかし、その知性に溢れた顔に反比例してその身体はあまりに頼りない。
頭や左胸、腕や足、腰と言った必要最低限の部位のみを防御するように造られた海色の鎧から覗く手足は驚くほどに細く、ロシェの手どころかポコの幼い手の方が太いのではと感じるほどで鎧下垂れを脱いだら肋骨が浮き出ているのではないかと感じた。
ロシェは、勇者と呼ぶにはあまりにも儚い印象の少年をじっと見てしまった。
そして彼の隣に座るあまりにも対照的な人物にも。
ポコが客人用の若草色の湯呑みを二つ、丸いお盆に乗せてやってくる。
「粗茶でございますが」
ポコが丁寧に2人の前に湯呑みを置く。
「あっありがとうございます」
少年は、緊張した面持ちで丁寧に頭を下げる。
「ありがとうっす!」
少年の隣に座る長衣を着た絶世と言う言葉を絵に描いたような美しい顔立ちのエルフの女性、リンツは軽快にお礼を述べる。
「リンツ様・・」
「昨日ぶりっすね!」
リンツは、にこやかに笑って右手を上げる。
「まさかこんなに早く再会出来るとは思わなかったっすよ」
「私もです」
ロシェは、小さく笑みを浮かべる。
その顔にリンツは少し驚き、笑う。
「少し落ち着いたみたいっすね。良かった」
落ち着いた・・と言えるのだろうか?
リンツのいる保護施設を出て半日と少ししか時間は経ってないはずなのに非常に濃密な出来ごとが沢山あった。
特に・・。
思い出して、ロシェはむすっと頬を膨らませてアメノを睨む。
リンツは、怪訝な表情を浮かべてアメノを見る。
「旦那・・まさかもう手を出したんすか?」
「んな訳ねえだろう」
アメノは、不機嫌そうに言う。
「ちょいと不可抗力が働いただけだ」
どんな不可抗力なのか非常に気になってリンツは問い詰めようとする。が、隣にいる少年にそれを阻まれる。
「リンツさん、今は・・」
少年は、固い面持ちのままリンツを静止する。
緊張の為か、声が上擦っている。
「ああっ申し訳ないっす」
リンツは、苦笑いを浮かべて手を合わせる。
少年は、まったくと言った感じに肩を竦めると改めてアメノに向き直る。
「聖剣様」
「アメノです」
アメノは、自分に用意された焙じ茶を啜りながら少年を一瞥する。
「誰が付けたか分からない渾名です。名前でお呼び下さい」
口調はとても丁寧なのにその仕草は他者を萎縮させるのに十分な迫力があった。
案の定、少年の身体は一瞬で固まる。
それに気づいたリンツは、緑色の目を細めてアメノを睨む。
「うちの勇者様をビビらせないで欲しいっす」
リンツの苦情にアメノは、猛禽類のような目を大きく開いて驚く。
アメノからすれば普通に会話をしていただけでそんなつもりは微塵もなかった。
「ほら、ヘーゼルもちゃんと話すっす」
リンツは、ヘーゼルと呼んだ少年の肩をぱんっと叩く。
へーゼルは、びっくりしてリンツを見る。
その様子はまるで姉弟のように微笑ましくてロシェは小さく笑う。
「大変失礼を」
ヘーゼルは、頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
アメノは、少し戸惑いながら答える。
「改めまして、私はギルドより派遣されました勇者へーゼルと申します。等級はアクアマリンです」
ロシェは、眉を顰める。
ギルド?
等級?
アクアマリン?
その様子に気づいたリンツがロシェに目を向ける。
「旦那から聞いてないっすか?勇者ギルドのこと?」
勇者ギルド?
ロシェは、首を傾げてアメノを見る。
それに気づいたアメノは頬を掻く。
「そういや、まだ説明してなかったか」
「里親なんだからちゃんと自分の事を説明するっす」
リンツは、呆れて肩を竦める。
そしてロシェの方を向く。
「勇者ギルドって言うのはその名の通り勇者を取りまとめる組合のことっすよ」
勇者を取りまとめる?
「勇者って言うのは称号じゃなく職業なんすよ」
唯一無二の最高の存在。
勇者。
しかし、それがただ1人の持つ称号であったのはそれこそ魔王が顕現した千年も前のこと。
現在にはその才能を受け継ぐ人間種が数多く存在し、勇者として名乗りを上げていた。
そんな勇者を取りまとめ、正義の名の下に派遣するのが勇者ギルドなのだと言う。
その結果、勇者は名誉ある称号ではなく、星の数ほどある職業の一つになったのだ。
「ちなみに等級ってのはその勇者の実力に合わせた位のことっす」
リンツの話では等級は全部で7段階に分かれる。
第1位 金剛石
第2位 紅玉
第3位 青玉
第4位 緑玉
第5位 黄玉
第6位 紫玉
第7位 アクアマリン。
「ちなみに金剛石の等級を持つ勇者は歴史上では魔王を倒した勇者のみなので実質、王国最強の勇者は紅玉ということになるっす。そして・・」
リンツは、両手をアメノに向けて思い切り手をヒラヒラさせる。
「旦那は、そんな最強の勇者と肩を並べて戦うことの出来る唯一の剣士であり戦士なんす!」
リンツの説明にロシェは目を丸くする。
父たる白竜の王から勇者という存在のことは聞いていたから知ってはいたがまさかそんなシステマチックな仕組みになっているとは思いもしなかった。
ロシェは、じっとアメノを見る。
アメノも見られていることに気づき、眉を顰める。
「どうした。やっぱ煎餅食いたくなったのか?」
アメノの言葉にロシェはムッと頬を膨らます。
「いえ・・アメノ様は凄い方だったんだなと改めて思っただけですけど・・」
ロシェは、ぷいっと首を横に向ける。
「やっぱり訂正します」
ロシェの反応の意味が分からずアメノは首を傾げる。
襖の向こうに座ったポコがその様子をみてくすりっと笑い、リンツはやはり何かあったのではないかと疑いの目を向ける。
「あの・・話しを戻してもよろしいでしょうか?」
へーゼルが恐る恐る聞いてくる。
その言葉にアメノとロシェ、そしてリンツも姿勢を正す。
へーゼルは、緊張を払うように咳払いして改めてアメノを見る。
「最下位のアクアマリンである私が紅玉の勇者様の一行であるアメノ様に前に出てお願いするような立場ではないことは十分に承知しているのですが・・」
ヘーゼルは、正座したまま体を後ろに下げ、頭を下げる。
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