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シウマイ弁当に卵焼き
シウマイ弁当と卵焼き(15)
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ホスピスから連絡を受けてやってきた叔母さんに先輩を託して看取り人は施設を後にした。
旅立った母親の胸で泣きじゃくる先輩の背中を優しく撫でる叔母さんが看取り人の顔を見て酷く驚き、切長の目を下げて「大丈夫なの?」と声を掛けてきた。
看取り人は、何を言われているか分からなかったが「大丈夫です」と返した。
大丈夫という言葉は叔母さんだけでなくエンゼルケアを行うために入室してきた看護師や荷物をまとめにきたヘルパーからも発せられた。皆、看取り人の顔を見て心底、驚いていた。
本当に何を驚いているんだろう?
看取り人は、訳も分からないままホスピスを出るとそのままスマホをポケットから取り出して電話する。
電話の相手は直ぐに出た。
「はいっ。今、終わりました」
看取り人は、いつもと変わらない口調で淡々と話す。
「はいっ。それじゃいつものお店で」
そう言って電話を切ると看取り人はゆっくりと、迷うことなく歩みを進めた。
普段ならバスを使う距離を歩いて30分、着いたのはいつものファーストフード店であった。
看取り人は店に入る。
いつもの角席に二重の大きな目の女性・・アイが座っていた。
看取り人は、ゆっくりとした足取りでアイに近寄る。
アイは、看取り人の顔を見て大きな目をさらに大きく開いて・・・優しく微笑んだ。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
看取り人は、アイの向かいの椅子に商売道具の入った鞄を乱暴に置く。
アイは、目を細めてその様子を見る。
「何か頼んできます」
看取り人は、財布を持ってレジに向かおうとする。
「待ちなさい」
アイは、穏やかな声で看取り人を呼び止める。
看取り人は、怪訝そうに眉を顰める。
アイは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、看取り人と向かい合うと両手を大きく広げる。
「いらっしゃい」
看取り人は、三白眼を大きく見開く。
「その為に呼んだんでしょう?自分1人じゃ感情を処理しきれないから」
アイは、優しく笑う。
「早朝で誰もいないから今のうちよ。ほら、いらっしゃいな」
そう言ってぽんっと胸を叩く。
看取り人は、じっとアイを見る。
三白眼が小さく震える。
「・・・すいません」
看取り人は、身を屈めてアイの胸に顔を埋める。
「少し借ります」
その瞬間、看取り人の口から嗚咽が漏れた。
必死に声を抑え、喉を震わせ、アイの胸元を濡らす。
アイは、看取り人の背中に手を回す。
逞しいとは言えないが高校生の男の子らしい背中が酷く小さく感じられた。
「偉かったわね」
アイは、優しく優しく看取り人の背中を摩った。
看取り人は、声を殺し、顔を上げず、喉を震わせ嗚咽し続けた。
旅立った母親の胸で泣きじゃくる先輩の背中を優しく撫でる叔母さんが看取り人の顔を見て酷く驚き、切長の目を下げて「大丈夫なの?」と声を掛けてきた。
看取り人は、何を言われているか分からなかったが「大丈夫です」と返した。
大丈夫という言葉は叔母さんだけでなくエンゼルケアを行うために入室してきた看護師や荷物をまとめにきたヘルパーからも発せられた。皆、看取り人の顔を見て心底、驚いていた。
本当に何を驚いているんだろう?
看取り人は、訳も分からないままホスピスを出るとそのままスマホをポケットから取り出して電話する。
電話の相手は直ぐに出た。
「はいっ。今、終わりました」
看取り人は、いつもと変わらない口調で淡々と話す。
「はいっ。それじゃいつものお店で」
そう言って電話を切ると看取り人はゆっくりと、迷うことなく歩みを進めた。
普段ならバスを使う距離を歩いて30分、着いたのはいつものファーストフード店であった。
看取り人は店に入る。
いつもの角席に二重の大きな目の女性・・アイが座っていた。
看取り人は、ゆっくりとした足取りでアイに近寄る。
アイは、看取り人の顔を見て大きな目をさらに大きく開いて・・・優しく微笑んだ。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
看取り人は、アイの向かいの椅子に商売道具の入った鞄を乱暴に置く。
アイは、目を細めてその様子を見る。
「何か頼んできます」
看取り人は、財布を持ってレジに向かおうとする。
「待ちなさい」
アイは、穏やかな声で看取り人を呼び止める。
看取り人は、怪訝そうに眉を顰める。
アイは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、看取り人と向かい合うと両手を大きく広げる。
「いらっしゃい」
看取り人は、三白眼を大きく見開く。
「その為に呼んだんでしょう?自分1人じゃ感情を処理しきれないから」
アイは、優しく笑う。
「早朝で誰もいないから今のうちよ。ほら、いらっしゃいな」
そう言ってぽんっと胸を叩く。
看取り人は、じっとアイを見る。
三白眼が小さく震える。
「・・・すいません」
看取り人は、身を屈めてアイの胸に顔を埋める。
「少し借ります」
その瞬間、看取り人の口から嗚咽が漏れた。
必死に声を抑え、喉を震わせ、アイの胸元を濡らす。
アイは、看取り人の背中に手を回す。
逞しいとは言えないが高校生の男の子らしい背中が酷く小さく感じられた。
「偉かったわね」
アイは、優しく優しく看取り人の背中を摩った。
看取り人は、声を殺し、顔を上げず、喉を震わせ嗚咽し続けた。
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