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アイが初めて宗介の姿を見たのはインターハイを終えた夏休み明けの練習試合だ。
「うちのバスケ部は男子も女子も強いんだよ」
実習担当になってくれた女性教師に誘われてアイは男子バスケ部の試合を見に行った。
確かにバスケ部は強かった。練習相手の他校のバスケ部も県大会に毎回、出場しているレベルの強豪校と聞いたが男子バスケ部は、レベルが違った。その中でも1人抜きん出ていたのが宗介だった。
宗介を見た瞬間、アイは、心の奥底に封印したはずの感情が湧き出てきたそうだ。
それほどまでにボールを持って縦横無尽にコートの中を走り回り、戦う宗介の姿は美しかったそうだ。
アイは、女性教師に「彼は誰ですか?」と聞いた。きっとバスケ部の若きエースなのだろう、アイは、女性教師が誇らしげに紹介してくれると思ったが反応はまったく予想外なものだった。女性教師は、少し困ったような、言い方を変えれば少し嫌そうな表情を浮かべ「彼は我が校で1番優秀な問題児よ」と告げた。
アイは、その言葉の意味が分からず、首を傾げながらも彼の試合から目を離せなかった。
女性教師の言葉の意味が分かったのは練習試合の直後であった。
「何でこんなことも出来ないんですか?」
それは練習試合に大勝し、顧問や応援試合から賞賛の言葉を浴びせられていた直後であった。
宗介が冷淡な目を向けて部員に詰め寄っていた。
詰め寄られている部員は、確か宗介と一緒に試合に出ていた2年のレギュラーで宗介にたくさんのパスを渡してサポートしていた。アイの見る限りでは注意されるようなことはなかったはずだが宗介からすると違うらしい。
「先輩がもっと角度を読んでパスをくれたら奴らに点数なんてくれてやる必要はなかったはずです」
宗介の侮蔑のこもった言葉に2年生部員は悔しそうに歯噛みするも気圧されているのか言い返せないでいる。
「まあまあ、勝てたんだからいいだろう」
もう1人の2年生部員が宗介の肩に手を置いて宥める。しかし、宗介は汚いものでも払うようにその手を退かす。
「その甘さがベスト8にも入れなかった要因ではないですか?」
宗介は、吐き捨てるように言うと2人に背中を向けて去っていく。
手を払われた部員は口元は笑いながらも宗介の背中を睨みつけ、詰め寄られていたら部員は悔しそうに唇を噛み締める。
「ねっ問題児でしょう」
宗介達の様子を見ていた女性教師が眉を顰めて言う。
「あの子の担任にだけは絶対なりたくないわあー」
教育実習生の前では絶対に言ってはいけない台詞を神様に願うように言う。しかし、アイ自身も次の実習に来た時に彼の教室に当たらないよう心の内で願っていた。
そんな彼のイメージが変わったのはその日の帰り道だ。
アイは、自宅に帰る近道として公園を横切ろうと足を踏み入れた時にベンチに座って猫に餌を上げる宗介を見つけたのだ。
アイは、思わず木の影に隠れてしまう。
猫に餌を上げる宗介の顔は、部活の時とは考えられないくらい優しかった。全ての憑き物が取れたような穏やかな表情・・。
アイは、その穏やかな表情に惹かれ、木の影から抜け出し、思わず声をかけてしまう。
「猫好きなの?」
「うちのバスケ部は男子も女子も強いんだよ」
実習担当になってくれた女性教師に誘われてアイは男子バスケ部の試合を見に行った。
確かにバスケ部は強かった。練習相手の他校のバスケ部も県大会に毎回、出場しているレベルの強豪校と聞いたが男子バスケ部は、レベルが違った。その中でも1人抜きん出ていたのが宗介だった。
宗介を見た瞬間、アイは、心の奥底に封印したはずの感情が湧き出てきたそうだ。
それほどまでにボールを持って縦横無尽にコートの中を走り回り、戦う宗介の姿は美しかったそうだ。
アイは、女性教師に「彼は誰ですか?」と聞いた。きっとバスケ部の若きエースなのだろう、アイは、女性教師が誇らしげに紹介してくれると思ったが反応はまったく予想外なものだった。女性教師は、少し困ったような、言い方を変えれば少し嫌そうな表情を浮かべ「彼は我が校で1番優秀な問題児よ」と告げた。
アイは、その言葉の意味が分からず、首を傾げながらも彼の試合から目を離せなかった。
女性教師の言葉の意味が分かったのは練習試合の直後であった。
「何でこんなことも出来ないんですか?」
それは練習試合に大勝し、顧問や応援試合から賞賛の言葉を浴びせられていた直後であった。
宗介が冷淡な目を向けて部員に詰め寄っていた。
詰め寄られている部員は、確か宗介と一緒に試合に出ていた2年のレギュラーで宗介にたくさんのパスを渡してサポートしていた。アイの見る限りでは注意されるようなことはなかったはずだが宗介からすると違うらしい。
「先輩がもっと角度を読んでパスをくれたら奴らに点数なんてくれてやる必要はなかったはずです」
宗介の侮蔑のこもった言葉に2年生部員は悔しそうに歯噛みするも気圧されているのか言い返せないでいる。
「まあまあ、勝てたんだからいいだろう」
もう1人の2年生部員が宗介の肩に手を置いて宥める。しかし、宗介は汚いものでも払うようにその手を退かす。
「その甘さがベスト8にも入れなかった要因ではないですか?」
宗介は、吐き捨てるように言うと2人に背中を向けて去っていく。
手を払われた部員は口元は笑いながらも宗介の背中を睨みつけ、詰め寄られていたら部員は悔しそうに唇を噛み締める。
「ねっ問題児でしょう」
宗介達の様子を見ていた女性教師が眉を顰めて言う。
「あの子の担任にだけは絶対なりたくないわあー」
教育実習生の前では絶対に言ってはいけない台詞を神様に願うように言う。しかし、アイ自身も次の実習に来た時に彼の教室に当たらないよう心の内で願っていた。
そんな彼のイメージが変わったのはその日の帰り道だ。
アイは、自宅に帰る近道として公園を横切ろうと足を踏み入れた時にベンチに座って猫に餌を上げる宗介を見つけたのだ。
アイは、思わず木の影に隠れてしまう。
猫に餌を上げる宗介の顔は、部活の時とは考えられないくらい優しかった。全ての憑き物が取れたような穏やかな表情・・。
アイは、その穏やかな表情に惹かれ、木の影から抜け出し、思わず声をかけてしまう。
「猫好きなの?」
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