看取り人

織部

文字の大きさ
9 / 56
最愛

最愛(9)

しおりを挟む
 一通り話し終えると宗介は、大きく短い息を吐いた。
 もっと酸素が欲しいと思ったが鼻チューブからマスクに変えると話すのが難しくなる。
 話したい。
 身体が痺れ、腹が腹水で圧迫され、酸素が行き渡らず目がチカチカしていても宗介は、話しを続けたかった。
「それで・・・」
 真正面を向いたまま静かに話しを聞いていた看取り人が口を開く。まともな高校生には刺激的な話しをしたはずなのに相変わらず表情をまるで変えない。
「それでアイさんの宿題はクリアすることが出来たんですか?」
 看取り人は、視線だけを左右に動かす。
「見たところ赤点だったとしか思えないんですが・・」
「本当に辛辣だな」
 宗介は、喉を震わせて笑う。もう声を上げて笑うのは難しそうだ。
「彼女が学校に来なくなってから俺は宿題をこなすことを意識した。放課後に茶トラ猫にご飯をあげに行った。飼った方が早いのではないかと思って親に相談したけど結果はNOだった。そして人の心を理解しようとクラスメイトに懸命に話しかけた」
「どうでした?」
 看取り人は、興味深げに目を大きく開く。
 宗介は、ぼやけて節目の見えなくなった天井を見上げる。
「まあ、落第点は免れる程度かな?」
 アイが学校から去った翌日から宗介は、積極的にクラスメイトに話しかけた。
 皆、気味悪がった。
 なにせ傲慢と不遜を絵に描いたような男が急ににこやかに声をかけ始めたのだ。不思議を通り越して恐怖を感じても不思議ではない。部活でもスタンドプレーが目立っていたのに急に協調性を意識し始めたことに部員達は何か企んでいるのではないかと本気で疑っていた。
 宗介も自分にこれだけ人望がなかったとは思わずひどくショックを受けた。
 正直、自分のことだから直ぐ人気者になれると思っていたがそれは傲慢で儚すぎる夢のようであった。正直、難関大学の入試問題を解く方がはるかに楽だと思った。
 しかし、それでも宗介は勤勉に宿題をこなした。トライアンドエラーを繰り返しながら何度も何度も挑戦した。
 その結果として1年生の最後にはクラスメイトから分からない課題についての質問されるぐらいの関係になり、バスケ部員達からは作戦や練習課題について相談されるくらいの関係にはなった。
「スモールステップ」
 看取り人がぼそりっと呟く。
「うるせえや」
 宗介は、拗ねるように唇を尖らす。
「まあ、友達って訳にはいかなかったが、人から頼られる存在にはなれた。そのお陰で会社も順調に回せたしな」
「奇しくも帝王学を学んだといったところですか?,興味深い」
 宗介は、膝に乗せたパソコンのキーボードを打ち付ける。
 その仕草を見て電源が入っていたのか、と驚く。
「シーのその後は?恋事を邪魔されて復讐とかされなかったんですか?」
 宗介の表情が固くなる。
「彼女とは学校では何の関わりもなかったよ。噂では希望通りの難関大学の医学部に問題なく入学したと聞いた程度だった」
「・・・何もなかったんですか?」
「ああっ何もない。平穏そのものだった」
 しかし、思えばあの時、俺はアクションを起こすべきだったのかもしれない。何をしたら良かったのかは最後の時を迎える今になっても分からないが、それでも何んらかの行動を起こしていたら、それが未来のバタフライエフェクトとなってあんな結末を迎えなかったのかもしれない。
 しかし、どんなに考えたってもう遅いのだ。
 自分が後数時間で死ぬのを変えられないように起きてしまったことを変えることもまた出来ないのだ。
 それよりも今は話したい。
 自分の心の中を全て晒して死にたい。
「・・・話しを続けても・・?」
 宗介は、ゆっくりと声を絞り出す。
 まだ声を奪わない神様に感謝した。
「どうぞ」
 看取り人は、しっかりと目を宗介に向けた。
 宗介は、話し始める。
 高校2年生になってからのこと。
 アイと再会した時のことを。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

処理中です...