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一通り話し終えると宗介は、大きく短い息を吐いた。
もっと酸素が欲しいと思ったが鼻チューブからマスクに変えると話すのが難しくなる。
話したい。
身体が痺れ、腹が腹水で圧迫され、酸素が行き渡らず目がチカチカしていても宗介は、話しを続けたかった。
「それで・・・」
真正面を向いたまま静かに話しを聞いていた看取り人が口を開く。まともな高校生には刺激的な話しをしたはずなのに相変わらず表情をまるで変えない。
「それでアイさんの宿題はクリアすることが出来たんですか?」
看取り人は、視線だけを左右に動かす。
「見たところ赤点だったとしか思えないんですが・・」
「本当に辛辣だな」
宗介は、喉を震わせて笑う。もう声を上げて笑うのは難しそうだ。
「彼女が学校に来なくなってから俺は宿題をこなすことを意識した。放課後に茶トラ猫にご飯をあげに行った。飼った方が早いのではないかと思って親に相談したけど結果はNOだった。そして人の心を理解しようとクラスメイトに懸命に話しかけた」
「どうでした?」
看取り人は、興味深げに目を大きく開く。
宗介は、ぼやけて節目の見えなくなった天井を見上げる。
「まあ、落第点は免れる程度かな?」
アイが学校から去った翌日から宗介は、積極的にクラスメイトに話しかけた。
皆、気味悪がった。
なにせ傲慢と不遜を絵に描いたような男が急ににこやかに声をかけ始めたのだ。不思議を通り越して恐怖を感じても不思議ではない。部活でもスタンドプレーが目立っていたのに急に協調性を意識し始めたことに部員達は何か企んでいるのではないかと本気で疑っていた。
宗介も自分にこれだけ人望がなかったとは思わずひどくショックを受けた。
正直、自分のことだから直ぐ人気者になれると思っていたがそれは傲慢で儚すぎる夢のようであった。正直、難関大学の入試問題を解く方がはるかに楽だと思った。
しかし、それでも宗介は勤勉に宿題をこなした。トライアンドエラーを繰り返しながら何度も何度も挑戦した。
その結果として1年生の最後にはクラスメイトから分からない課題についての質問されるぐらいの関係になり、バスケ部員達からは作戦や練習課題について相談されるくらいの関係にはなった。
「スモールステップ」
看取り人がぼそりっと呟く。
「うるせえや」
宗介は、拗ねるように唇を尖らす。
「まあ、友達って訳にはいかなかったが、人から頼られる存在にはなれた。そのお陰で会社も順調に回せたしな」
「奇しくも帝王学を学んだといったところですか?,興味深い」
宗介は、膝に乗せたパソコンのキーボードを打ち付ける。
その仕草を見て電源が入っていたのか、と驚く。
「シーのその後は?恋事を邪魔されて復讐とかされなかったんですか?」
宗介の表情が固くなる。
「彼女とは学校では何の関わりもなかったよ。噂では希望通りの難関大学の医学部に問題なく入学したと聞いた程度だった」
「・・・何もなかったんですか?」
「ああっ何もない。平穏そのものだった」
しかし、思えばあの時、俺はアクションを起こすべきだったのかもしれない。何をしたら良かったのかは最後の時を迎える今になっても分からないが、それでも何んらかの行動を起こしていたら、それが未来のバタフライエフェクトとなってあんな結末を迎えなかったのかもしれない。
しかし、どんなに考えたってもう遅いのだ。
自分が後数時間で死ぬのを変えられないように起きてしまったことを変えることもまた出来ないのだ。
それよりも今は話したい。
自分の心の中を全て晒して死にたい。
「・・・話しを続けても・・?」
宗介は、ゆっくりと声を絞り出す。
まだ声を奪わない神様に感謝した。
「どうぞ」
看取り人は、しっかりと目を宗介に向けた。
宗介は、話し始める。
高校2年生になってからのこと。
アイと再会した時のことを。
もっと酸素が欲しいと思ったが鼻チューブからマスクに変えると話すのが難しくなる。
話したい。
身体が痺れ、腹が腹水で圧迫され、酸素が行き渡らず目がチカチカしていても宗介は、話しを続けたかった。
「それで・・・」
真正面を向いたまま静かに話しを聞いていた看取り人が口を開く。まともな高校生には刺激的な話しをしたはずなのに相変わらず表情をまるで変えない。
「それでアイさんの宿題はクリアすることが出来たんですか?」
看取り人は、視線だけを左右に動かす。
「見たところ赤点だったとしか思えないんですが・・」
「本当に辛辣だな」
宗介は、喉を震わせて笑う。もう声を上げて笑うのは難しそうだ。
「彼女が学校に来なくなってから俺は宿題をこなすことを意識した。放課後に茶トラ猫にご飯をあげに行った。飼った方が早いのではないかと思って親に相談したけど結果はNOだった。そして人の心を理解しようとクラスメイトに懸命に話しかけた」
「どうでした?」
看取り人は、興味深げに目を大きく開く。
宗介は、ぼやけて節目の見えなくなった天井を見上げる。
「まあ、落第点は免れる程度かな?」
アイが学校から去った翌日から宗介は、積極的にクラスメイトに話しかけた。
皆、気味悪がった。
なにせ傲慢と不遜を絵に描いたような男が急ににこやかに声をかけ始めたのだ。不思議を通り越して恐怖を感じても不思議ではない。部活でもスタンドプレーが目立っていたのに急に協調性を意識し始めたことに部員達は何か企んでいるのではないかと本気で疑っていた。
宗介も自分にこれだけ人望がなかったとは思わずひどくショックを受けた。
正直、自分のことだから直ぐ人気者になれると思っていたがそれは傲慢で儚すぎる夢のようであった。正直、難関大学の入試問題を解く方がはるかに楽だと思った。
しかし、それでも宗介は勤勉に宿題をこなした。トライアンドエラーを繰り返しながら何度も何度も挑戦した。
その結果として1年生の最後にはクラスメイトから分からない課題についての質問されるぐらいの関係になり、バスケ部員達からは作戦や練習課題について相談されるくらいの関係にはなった。
「スモールステップ」
看取り人がぼそりっと呟く。
「うるせえや」
宗介は、拗ねるように唇を尖らす。
「まあ、友達って訳にはいかなかったが、人から頼られる存在にはなれた。そのお陰で会社も順調に回せたしな」
「奇しくも帝王学を学んだといったところですか?,興味深い」
宗介は、膝に乗せたパソコンのキーボードを打ち付ける。
その仕草を見て電源が入っていたのか、と驚く。
「シーのその後は?恋事を邪魔されて復讐とかされなかったんですか?」
宗介の表情が固くなる。
「彼女とは学校では何の関わりもなかったよ。噂では希望通りの難関大学の医学部に問題なく入学したと聞いた程度だった」
「・・・何もなかったんですか?」
「ああっ何もない。平穏そのものだった」
しかし、思えばあの時、俺はアクションを起こすべきだったのかもしれない。何をしたら良かったのかは最後の時を迎える今になっても分からないが、それでも何んらかの行動を起こしていたら、それが未来のバタフライエフェクトとなってあんな結末を迎えなかったのかもしれない。
しかし、どんなに考えたってもう遅いのだ。
自分が後数時間で死ぬのを変えられないように起きてしまったことを変えることもまた出来ないのだ。
それよりも今は話したい。
自分の心の中を全て晒して死にたい。
「・・・話しを続けても・・?」
宗介は、ゆっくりと声を絞り出す。
まだ声を奪わない神様に感謝した。
「どうぞ」
看取り人は、しっかりと目を宗介に向けた。
宗介は、話し始める。
高校2年生になってからのこと。
アイと再会した時のことを。
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