看取り人

織部

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 看取り人の目が剣呑に光る。
「復讐?」
「ああっ復讐だ。彼女の人生に俺と同じ傷を与えたいと思った」
 宗介は、その時に得た黒い感情を思い出し、ほくそ笑む。心なしか少し呼吸がしづらくなってきた気がするが気にしない。とにかく話したい。彼の反応をみたい。
 案の定、看取り人は、異質な何かを見るような引いた目で宗介を見ていた。
「彼女に何をしたんです?」
「犯罪行為はしてないから安心しな」
 宗介は、喉を抑えるように笑う。
 そう犯罪行為なんてしてない。
 むしろ犯罪行為をしてしまった方がこんな痛みを死ぬ最後の最後まで持ち続ける事もなかったかもしれない。
 こんな感情の吐露をすることもなかったはずだ。
「俺の復讐。それは彼女の大切なモノを奪うことだった」

 宗介は、彼女のことを調べ始めた。
 調べ始めたと言っても実際に調べたのは宗介ではない。宗介に寄ってくる女子生徒達やバスケ部員達に彼女のことを聞き、探ってもらったのだ。
 女子生徒たちは、自分と一緒にいる時に他の女の話をされるのを面白くなさそうにしながらも宗介の頼みならと渋々答え、調べてくれた。バスケ部員達も宗介の方から頼み込んでくることに驚きながらも異性への質問だったので「こいつも人間だったんだな」とほっとした様子を見せて嬉々として答え、調べてくれた。
 今にして思えばこの時から人を扱う才覚に宗介は恵まれていたのかもしれない。
 女子生徒も部員もたくさんの情報を宗介のもとに集めてくれた。個人情報保護が叫ばれる昨今でこれだけのプライバシーを他者に伝えるのは道徳的に違反のはずだが当時はそんなことは関係なかった。ただ、知りたい、面白い情報を垂れ込んでくれた。
 大抵は、彼女の趣味であったり、家族構成であったり、成績であったりとバラバラであったが、宗介の卓越した頭脳がその点と点を線で結んだ。
 その結果として分かったことがある。
 彼女が4人兄妹の末っ子であること。
 他県出身で大学に通っている兄と2人暮らしであること。
 成績は上の中。難関大学の医学部受験を視野に入れ、充分に合格できるだけの学力があること。
 宗介とは比べものにならないくらいに品行方正で正義感が強く、人望に溢れ、生徒だけでなく教師陣からも好感触を持たれていること。
 そして・・・そして・・・。
 宗介は、その話しを聞いた瞬間に亀裂のような笑みを浮かべて笑った。
 これは女子生徒や部員たちが掴んできた情報の中で最も自身なさげに伝えてきたもの。ゴシップだろうと誰もが口にしたもの。
 しかし、一つ二つならゴシップだろうが、全員から集まればそれはゴシップではない。
 真実だ。
 その話しの内容はこうだ。
 彼女は、レズビアンで1ヶ月前から教育実施生としてきている女子大学生に恋をしている、と。
「そうか・・・それなら・・・」
 宗介は、薄暗く笑う。
 それならその実習生を俺のものにしてやろう。
 シーの悔しがる、妬みに狂う姿を想像するだけで楽しかった。
 しかし、このことが自分の運命を大きく揺り動かすだなんてこの時は考えもしなかった。

 宗介は、その情報を整理した次の日から自分の立てた仮説が真実であるかを確かめる為に動き出した。ほとんど真実だと確信しているものの1%でも違う可能性がある以上、慎重に動かなければならない。その少しの油断が全ての失敗を招く可能性があるのだから。
 そして入念に調べた結果、仮説は真実だった。
 その実習生は、2年生の担任の元で実習を受け、部活は茶道部や吹奏楽部といった文化系に参加していた。そしてその全ての部活にシーは、顔を出していた。
 名目は受験勉強の息抜き。
 自分の所属していたバスケ部だと助っ人として試合に駆り出される可能性があるから心が落ち着けるところがいいと言って顔を出しているらしい。
 苦しい言い訳だな、と宗介はせせら笑う。
 確かに人望の厚いシーには文化系の友達も多く、茶道部にも吹奏楽部にも友達が多い。だからと言って短期間に何度も何度も足を運ぶ、しかも教育実習生がいるところばかりに顔を出していたら怪しまれるに決まっている。
 そんな事も分からないくらいにその教育実習生にのめり込んでいるのだ。シーは。
 そんな教育実習生を自分が奪ったら彼女は果たしてどんな顔をするのだろう、そう考えるだけで宗介は笑いが込み上げてきた。

「本当に性格が悪いですね」
 看取り人が呆れる。
「俺もそう思うよ」
 宗介は、乱れそうになる呼吸を何とか整えようとしながら話す。
「でも・・あの時は性格が悪くて正解だったんだ。じゃなきゃ・・・」
 彼女に会えなかった。

 宗介は、教育実習生とどうやって接触しようかと考えていた。正直言って自分はシーと違って人望がない。だから彼女のように茶道部や吹奏楽部に顔を出すなんて違和感以外の何者でもない。それに2年生とだって親しいわけではない。
 こんなことならバスケ部の先輩たちと少しでも仲良くしておくべきだったな、と後悔していた矢先、教育実習生の方から自分に接触してきたのだ。
 まったく予期していない形で。
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