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2巻

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    第一章 入学と新たな出会い


 ここはセレニア王国の王都に立つお屋敷。
 ネスラ家という貴族の屋敷であるこの家に居候いそうろうしている少年――レクスは、王都の教育機関の一つシルリス学園への入学準備を進めていた。
 レクスはふと、これまでのことを振り返る。
 十二歳になった時に受ける適性検査で、『見る』や『取る』といった日常的な動作が能力になるという謎のスキル『日常動作』が判明したレクス。意味のわからないスキルだと馬鹿にされ、故郷のクジャ村から追放されることになった。
 居場所を求め向かった王都への道中で、魔物に襲われていたサラサラの銀髪に黒い瞳の奴隷どれいの少女エレナを助けたり、冒険者登録して早々他の冒険者に襲われ、王国最強の騎士団、ディベルティメント騎士団の団長――フィア・ネスラに助けられ、ネスラ家へ迎えられたり。

「本当に色々ありましたね……」

 レクスはしみじみとつぶやく。
 その後も、冒険中に助けた強力な魔物――レインと共に冒険者ギルドで受けた依頼をこなしつつ着実に資金を貯め、シルリス学園の入学試験を受け、無事合格した。

「学園生活……楽しくなるといいね」

 隣でレクスの準備を手伝っていたエレナが言った。

「そうですね。不安ですが、友達を作れるよう頑張ります」

 レクスはそう呟くと、むんと少し気合いを入れた。

「私も一緒に行きたかった」
「まあ、入学試験受けてないから仕方ないですよね……」

 レクスは苦笑した。

「むぅ……」

 エレナがほおふくらまるのが印象的に感じたレクスだった。


     ***


 翌日――今日は待ちに待ったシルリス学園の入学式だ。

「ふう、なんだか緊張しますね……」

 シルリス学園の制服に身を包みかばんを持ったレクスは、学園の門を見上げながらそう呟いた。入学試験で一度来たことはあるものの、制服を着て改めて足を踏み入れたことで、彼は緊張していた。

「入学式が終わったら早く帰りますか」

 今日は入学式とクラス発表で終わる予定だ。本格的な授業は明日から。レクスは、帰ったらエレナと冒険者ギルドに行こうと思っていた。

「さて、第一ホールに行きましょう」

 レクスはそう呟くと、入学式が行われる第一ホールへ向かった。


「ここが第一ホールですね……」

 入学式の会場に着き、辺りを見回すレクス。第一ホールの中では入学式前とあって、あちらこちらで新入生らしき人達がしゃべっている。レクスは適当な席に座り、入学式が始まるのを待った。

「皆様、お静かに」

 しばらく待っていると、男性の声が会場に響き渡った。すると、騒がしかった新入生が静かになる。

「では、これよりシルリス学園の入学式を行います。はじめに、ウルハ理事長からお話がございます。ウルハ理事長、よろしくお願いします」

 男性がそう言うと、一人の女性が壇上に姿を現した。その女性は入学試験の時に、レクスに魔法の原理について教えてくれた人物――ウルハだった。

「私がこの学園の理事長、ウルハ・オルドバートだ」

 ウルハは話し始めた。

「我が校は昨年からより良い生徒を育てるために、入学試験を取り入れた。魔法・剣術などの基礎ができている者をこの学園に入れることで、優れた環境を作れ、生徒達は発展的な技術を学べると考えたからだ……」

 ウルハの話は二十分ほど続いた。シルリス学園の特色、シルリス学園で学べること、教師陣の紹介等々。

「それと――今年も六つの学園が競い合う祭典、六学園対抗祭が行われる。一から三年生の中から各部三人ずつ代表が選ばれるので、ぜひとも頑張ってほしい。最後になるが、我が学園で多くのことを学んでいってくれ」

 以上だ、とウルハは一礼し、壇上から下りた。その時、レクスはウルハと目が合ったような気がした。
 そう考えていると、レクスの前の仲の良さそうな男子二人がひそひそと話し出す。

「いつ見てもかっこいいよな~、あの人は」
「そうですね。凛々りりしいですよね、ウルハ様は」

 その後も、入学式はしばらく続いた。


「――以上で、入学式を終わります。皆様、学園玄関口前に掲示されております、クラス表をご覧になり、それぞれのクラスに移動してください」

 司会の男性がそう言うと、新入生達は一斉に席を立ち、学園玄関口前に向かった。

「さて、どのクラスになるんでしょうか……」

 同じクラスの人達と仲良くできるのか。レクスはそんな不安を抱えながらも、一足遅れて学園玄関口前に向かった。

「おわっ、結構人がいますね」

 レクスが学園玄関口前に着くと、人だかりができていた。これは少し待ってからクラス表を見た方が良さそうだ。

「お、俺、Aクラスだぁ……!」
「ぼ、僕はCクラス……」
「やったーー! Sクラスよーー!」

 自分のクラスを見て、歓喜の声を上げる者や落胆する者達。
 しばらくして、ようやく人が減ってきた。レクスは人込みをうように進み、クラス表の前に出る。

「僕の名前は……あった」

 上のSクラスから順に探していくと、すぐに見つかった。

「Sクラスですか」

 Sクラスとは、シルリス学園の入学試験でトップクラスの成績を収めた者が集まるクラスだ。しかし、レクスはそんなことなど知らない。それ以前に、彼の頭はクラスにきちんと馴染なじめるかで一杯だった。
 レクスは緊張した足取りでSクラスの教室へ向かった。


「ふぅ……」

 レクスは教室の前に着くと、胸に手を当て深呼吸した。だが、不安な気持ちは一向に変わらない。
 レクスはしばらくして覚悟を決め、Sクラスの教室のドアを開けて中に入った。

「お、おい。あいつが入学試験の時に喧嘩けんかを売ったラードを倒したっていう……」
「あの子が⁉ なんか可愛い……」

 レクスが教室に入った瞬間、ひそひそと話し声が聞こえてきた。しかし、レクスは内容までは聞き取れない。そのことが余計にレクスを不安にさせる。

いてる席は……」

 レクスは周囲を見回し、空席を探す。すると、奥にそれを見つけた。隣にも人がいないしちょうどいい。
 レクスは机の横についているフックに鞄をかけ、椅子に座った。ちなみに、鞄の中にはいつも持ち歩いている魔法でなんでも収納できる袋、魔法袋マジックバッグが入っている。

「ふぅ……」

 ため息をつくレクス。

(やっと落ち着けます。っていうか、僕、今日ため息ばかりついている気が……)

 レクスがそんなことを考えていると、教室のドアが開く音がした。

「おお! あのお方は!」
「フィオナ様よ!」
「今日もお美しい……」

 Sクラスの新入生達は、教室に入ってきた人物――フィオナ・セレニアを見るなり、騒ぎ出した。
 フィオナはここセレニア王国の女王、ヴァンナ・セレニアの娘で、次期女王とも言われている人物だ。新入生達が騒ぐのも無理はない。フィオナは皆に向かって軽く手を振った。
 レクスはそんな騒々そうぞうしさの中、フィオナの方を見もせず、頬杖ほおづえをついてボーッとしていた。

「あなた、ちょっといいかしら?」

 いつの間にかレクスの席まで来ていたフィオナが、彼にそう声をかけた。

「……へっ? ぼ、僕ですか?」

 レクスは驚いた表情でフィオナを見る。

「あなたの名前は?」
「レ、レクスです」
「ふぅん……レクス、ね。覚えておくわ」

 フィオナはレクスを見定めるような目つきでそう言うと、近くの空いている席に座った。

「くそっ……うらやましい……!」
「なんであいつが……!」

 レクスは嫉妬しっとの目線を浴び、冷や汗をかいた。
 それからしばらくして、教室の前の方のドアが開き、教師とおぼしき人物が入ってきた。

「皆、静かに。これからホームルームを始めるぞ」

 教室に入ってきたのはこの学園の理事長、ウルハだった。

「お、おい、まさかウルハ様が担任⁉」
「ウルハ様って確か公爵家こうしゃくけの……⁉」

 公爵は国の中でもトップクラスの地位と権力を持っている。だがレクスはそれを知らず、教室のざわめきにも〝公爵家?〟と首をかしげるばかりだった。

「静かにと言っているだろう」

 ウルハがそう言うと、騒がしかった教室内が静かになった。それからウルハはふぅとため息をついた。

「では、早速ホームルームを始めたい」

 と話し始めたもののすぐに〝だが〟と言葉を切った。

「その前に、皆に自己紹介をしてもらおう。まだ皆、お互いのことをよく知らないだろうからな。じゃあ、そこの男子から順に」

 ウルハが示したのは、彼女から見て一番左側の列――レクスの席と対極の位置にある席だった。ということは、最後に自己紹介するのはレクスだ。
 レクスはいきなり自己紹介をしろと言われ、混乱し出した。

(自分の名前と、後は何を言えばいいんでしょうか? う~ん……あ、そうだ! 他の人がどういう風に自己紹介するのかを聞いて参考にしましょう)

 そう考えついた時には、自己紹介は二列目まで進んでいた。レクスの席は四列目だ。まだまだ余裕はある。

「わ、私は、ヴィヴィ・リーエルです……よろしくお願いします……」
(あんな感じでいいんですね! 自分の名前とよろしくお願いしますと言うだけ。よし、なんとかなりそうです!)

 そうこうしている内に、どんどん順番が近づいてくる。

「私は、フィオナ・セレニアです。皆様、どうぞよろしく」

 先ほどレクスに話しかけてきたフィオナは制服のスカートをわずかにつまみ、優雅ゆうがに一礼した。その姿にSクラスの新入生達は見とれていた。


 自己紹介は進んでいき、ついに四列目。レクスのいるところまで来た。ちゃんとまずに自己紹介できるか、クラスにきちんと馴染めるか……レクスは不安で仕方ない。

「次」

 ついにレクスの番だ。レクスは立ち上がる。

「……レクスです。よろしくお願いします」

 レクスは一礼し、席に座った。

(できました……なんとかできました! 良かったです……)

 レクスはふぅと深く息をついた。自己紹介の際、ウルハがレクスをジーッと見つめていたが、レクスは緊張のあまりその視線に気付かなかった。

「……よし、これで全員終わったな。このクラスで三年間過ごしていくことになるから、皆仲良くな」
(三年間同じクラス⁉ ってことは、ここでクラスに上手く馴染めないと大変じゃないですか⁉)

 レクスの不安はより一層大きくなった。
 その後もウルハからの諸連絡など、ホームルームは続くのだった。


「さて、帰りますか」

 ホームルームが終わると、新入生達はぞろぞろとフィオナの席に集まった。一国の王女とお近づきになれる機会などそうそうないので、当然の光景だろう。しかしレクスはそんなことは気にも留めず、フックにかけてあった鞄を取って教室を後にする。

「フィオナ様の得意魔法はなんですか⁉」
「フィオナ様って現在お付き合いされてる方とかいらっしゃるんですか⁉」

 教室を出る際、そんな声が聞こえてきたが、レクスは気にしない。というより、あの輪の中に入っていく勇気はレクスにはない。それに、エレナが屋敷でレクスの帰りを待っているのだ。レクスは少しでも早く屋敷に帰りたかった。

(エレナ、今頃何をしてるんでしょうか?)

 レクスはエレナのことを思いながら、ネスラ家への家路を急ぐのだった。


「ただいまー」
「「「「「「お帰りなさい、レクス君」」」」」」

 ネスラ家の屋敷に戻ると、六人のメイドがレクスを迎えた。ネスラ家に仕えているメイド長シュレムを含めたこの六人は、誰かが帰るたびにいつも全員で迎える。

「今日の入学式はどうでしたか?」

 シュレムが一歩前に進み出て尋ねた。

「そうですね、知らない人だらけですごく緊張しました」

 レクスはしばし考えて答えた。

「そうですか。その内慣れるといいですね」

 微笑みながらシュレムがそう言った時――

「レクス……! お帰りなさい……!」

 メイド達の隙間すきまからエレナが走り出るのが、レクスの目に映った。メイド達があわてて道を開ける。

「ただいま、エレナ」

 エレナはそのままの勢いでレクスに抱きついた。

「わ、ちょっ、エレナ⁉」

 レクスは慌ててしまい、頬が赤くなった。

さびしい思いをさせちゃったんですね……エレナ、ごめんなさい)

 レクスは照れつつも、エレナの頭をでる。シュレム達は、二人の様子を後ろから見てニマニマと笑っていた。
 その後しばらくしてレクスはエレナを離し、彼女に尋ねる。

「エレナ、この後冒険者ギルドに行って依頼を受けませんか?」

 エレナは彼の手を握りながら答える。

「うん、いいよ……」
「じゃあ、着替えてきます」

 レクスはそう言って、自室に向かった。


 着替えたレクスが玄関のドアを開けると、エレナが立っていた。どうやらここで待っていたようだ。

「すみません、お待たせしてしまって」

 ちなみに、レクスの服装はクジャ村で生活していた時のと同じ質素なシャツとズボンだ。結局この服装が一番落ち着くのだ。

「ううん、大丈夫」

 エレナは首をふるふると横に振った。

「行こ……?」

 エレナはそう言って、レクスに手を差し出した。

「ええ、行きましょうか!」

 レクスはその手を取り、エレナと共に歩き始めた。


「どの依頼を受けますか?」

 冒険者ギルドに着いたレクスは、依頼書がり出された掲示板とエレナの顔を交互に見ながら尋ねた。

「これ、受けたい」

 エレナが一枚の依頼書をがした。レクスも横からそれを見る。


【推奨冒険者ランク】Eランク以上
【依頼内容】回復薬五十本の配達
【報酬】五万四千セルク
【獲得ポイント】二十一ポイント
【場所】王都 バダルス地区の薬店〝ムゥーマ〟


 獲得ポイントとは、依頼達成でもらえる点数のようなもの。これを溜めると冒険者ランクを上げることができる。

討伐とうばつ系の依頼じゃなくていいんですか?」

 いつもならエレナは、いろいろな魔法を使いたいと言って魔物を討伐する依頼を受けたがるので、レクスは疑問を感じた。

「いいの。試してみたいことができたから……」
「そうですか。わかりました、受付に持っていきましょう」

 レクスはそう言うと、エレナの手を引いて受付へ。受付に並んで順番を待っている間、目の前の冒険者の装備が、レクスは気になった。

(そういえば、装備を買ってませんでしたね。依頼を受けるついでに、装備も整えておきましょうか。どんなことがあるかわかりませんし、できるだけ安全を確保したいところです)

 そうこう考えている内に、レクス達の順番が回ってきた。

「この依頼を受けたいのですが」

 レクスは先ほどエレナが剥がした依頼書を受付嬢に渡す。受付嬢はそれにサインすると、レクスに返し、受付の奥に消えた。しばらくして、五十本の回復薬が入った箱を持って戻ってきた。

「ではこちら、よろしくお願いします」

 受付嬢は微笑みながらそう言った。

「あ、すみません。お尋ねしたいのですが、装備を売ってるお店と〝ムゥーマ〟という店の場所を教えてもらえませんでしょうか?」
「ああ、装備でしたら、ここのすぐ隣に〝ファジール〟っていう店がありますよ。〝ムゥーマ〟の場所は……ちょっと待っててください」

 受付嬢は白紙に羽根ペンで何かを書き始めた。

「簡単なものですが地図を書きましたので、この通りに行けば〝ムゥーマ〟に着くと思います」

 そう言って、受付嬢はレクスにその紙を渡した。

「ありがとうございます! すみません、手間を取らせてしまい……」

 レクスは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえいえ、他にも何かわからないことがありましたら、遠慮なく聞いてください」

 受付嬢は微笑んだ。

「はい。エレナ、行きましょうか」

 レクスは魔法袋に回復薬の入った箱を入れて、エレナを見る。

「うん……」

 小さく頷いたエレナの手を引いて、レクスは冒険者ギルドを後にした。


「ここですね……」

 冒険者ギルドの隣にある、〝ファジール〟という看板が出ている建物を見て、レクスは呟いた。

「レクス? ここに寄るの?」

 エレナは首を傾げながら尋ねた。

「ええ、装備を整えたいですからね」

 レクスは頷いて答えると、建物のドアを開ける。

「……いらっしゃい」

 レクスが中に入ると、カウンターの方から男性の声が聞こえた。その男性は、高い身長に黒髪のショートカット、切れ長の目が印象的だった。
 レクスはその男性を見るなり、身体が震えてしまった。エレナも怖いのか、レクスの後ろに隠れてしまう。

(この人……妙に威圧感があるというか、少し怖いです)

 レクスはそう思いながら、男性のいるカウンターへ向かう。どうしてもゆっくりになるが。

「あのー……すみません。軽くて丈夫な装備が欲しいのですが……」
「……少し待ってろ」

 男性はそう言うと、いろいろな装備が並んでいる棚に行き、にらむように装備を見つめる。それから彼は装備を手に取って首を傾げてみたり、静かにうなったりと、真剣に選び始めた。

「エレナも欲しい装備とかありますか?」
「私はいい……」

 レクスが尋ねると、エレナは首を横にふるふると振りながら答えた。遠慮しているのだろう。

「エレナ、遠慮せずに言ってください」

 レクスは優しい声音で言った。

「いいの……?」
「いいんですよ。エレナの身を守るためですから」

 エレナの不安げな声に、レクスはしっかりと答えた。

「じゃあ……ローブと杖が欲しい」

 エレナはうつむきながら呟くように言った。
 その時、店員の男性が戻ってくる。

「待たせたな。これでいいか?」

 彼が持っていたのは、茶色のブーツと胸の部分をおおうプレート、そして上からはおる青いコートだった。

「このブーツは素早さの補正がついている。このコートは斬撃ざんげきに少し耐性がある。どうだ?」

 男性は茶色いブーツと青いコートのそれぞれをレクスに見せながら簡単に説明した。レクスはそれらを受け取ると、早速試着してみることにした。

(うん、サイズもちょうどいいですし、なんだか足が軽くなった気がします。コートも良さそうですし、これにしますかね)

 レクスは店員の男性に言う。

「あ、ありがとうございます。これをいただきます。それと大変申し訳ないのですが、こちらのエレナの装備も選んでもらえないでしょうか? ローブと杖が欲しいそうです」
「……わかった。少し待ってろ」

 男性はそう言って、魔術師系の装備がそろっている棚まで行き、再び真剣な顔つきでエレナに合う装備を選び始めた。
 なお、エレナの職業は魔導師ソーサラー。魔術師系の最高ランクの職業である。

(それにしてもこの店員さん……見た目は怖いですが、優しいんですね)

 レクスは装備を真剣に選ぶ店員の男性を見て、そんなことを思った。しばらくすると男性は、先端に緑がかった透明の玉がついた杖と、赤いローブを持ってきた。

「こっちの杖は、魔法の威力を少しばかり底上げしてくれる。こっちのローブは魔法に対する耐性を少し上げてくれる。どうだ?」

 エレナは赤いローブを着て、杖を手にして魔力を通してみる。使い心地を確かめているのだ。

「んっ……いい」

 エレナはほんの少しだけ笑みを浮かべてそう言った。
 レクスは男性に尋ねる。

「この装備、全部でいくらになります?」
「全部で三十万セルクくらいだが……今回は二十万セルクにまけてやろう」
(二十万セルクですか……出費は大きいですが、命には代えられませんね)

 レクスは二十万セルクを魔法袋から取り出し、カウンターに置いた。

「エレナ、行きましょうか」

 レクスとエレナはそれぞれの魔法袋に買ったばかりの装備を入れた。

「……また来るといい」

 男性の言葉を背に受け、レクス達はファジールを後にした。


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