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9章 祝福

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「ふぅ………………この店の初めて飲むけど、結構美味しいね」


「でしょ? 最近見つけた穴場でね。たまに来たりしてるんだ」


「へぇー……………って、ナタリア、その薬指の指輪は?」


 レクスはナタリアの左手の薬指の指輪がふと目に入った。その指輪は銀色の輝きを放っており、かなりの一品であることがうかがえる。


「あー…………これ? えっとね、実は………………」


 ナタリアは急にもじもじし始めた。心なしか頬も少し赤くなっているような気がする。


「……………僕達、実は、結婚したんだ……………」


 アーティがそう言った。その瞬間、レクスは……………ほぇ? と固まる。そして、漸くアーティの言葉が咀嚼できたのか、


「えええええぇぇぇぇぇ─────!?」


 驚いたように声を出した。


「ちょっ、声大きいよっ!」


 レクスはナタリアに言われてハッとする。周りの席にいた客のほとんどがレクスの方を驚いたように見ていた。レクスはす、すみません……………と恥ずかしそうに、席に座り直した。


「そ、そっかぁ……………それならそうと、早く言ってくれれば良かったのに」


 なんなら、結婚式のお祝いもしてあげたかったまである。


「いやー……………だって、レクス、領主なんでしょ? 忙しいだろうと思ってね」


 ナタリアが苦笑しながらそんなことを言う。


「………………ちょっと、気になるんだけどさ。お互いを意識しだしたのっていつなの? ぶしつけな質問だけど」


「そ、そうね……………」


「………………二年の時、かな」


 二人とも照れくさそうに話す。見てるこっちが微笑ましくなってくる。というか、もう既に微笑ましい。このまま見守ってるのもありかもしれない。………………と。


「そういえば、エマはどうしてるの?」


 アーティの通訳を担当していた彼女はどうしているのか、少しばかり気になるところ。ああ見えて、自由奔放なところもあったエマである。


「エマなら、今日はクオン区の方に行ってるよ。普段はアーティの補佐。あ、因みにアーティはロロット区の財政をやりくりしてるんだ」


 驚きの事実だった。アーティが財政に携わっているのもそうだが、エマがその補佐だったとは。やっぱり、アーティの通訳? 補佐? はエマなのだろうか。


「へぇー…………っていうか、領主よりそっちの方が凄い気がするんだけど……………」


(基本、書類確認して印押す仕事が大半だし。たまに修正とかするけど……………その前にセレスさんがだいたい直しちゃってから持ってくるからなぁ……………)


「………………いや、領主の方が凄いと思う」


 アーティはそう言った。レクスからしたら、やはりアーティの方が凄いと思う。だけど、このままだとそのやり取りが延々と続いていくだろうと思ったので、話題を変える。


「ところでナタリア。話があるって書いてあったけど………………」


「ええ、そうなの。実は頼みたい事があって」


 コホン、と一息置いて再び話し出すナタリア。


「───────教師をやってくれないかしら」


「………………教師?」


 レクスはナタリアの言葉に首を傾げた。
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