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9章 祝福

フィアの母、訪れる

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「ただいまー」


「おかえり、レクス………………」


 屋敷に着くとエレナが玄関で待っていた。


「あれ、他のみんなは?」


「ああ……………なんか、用事があるみたいで…………しばらく、戻ってこない、かも……………」


 用事……………まあ、内容まで言うほどの事でもないってことはそれほど重要ってわけでもないのだろう。


「ところで、エレナ…………………その、髪型変えた?」


 以前のエレナは髪を結い上げていなかった。だが、今日のエレナは髪を後ろで一つに束ねていた。いわゆる、ポニーテールというやつだ。


「………………どう、かな………?」


「す、すごくよく似合ってると思うよ…………」


 レクスの言葉にエレナははにかみながら喜びを露にする。ポニーテールにしたことで、うなじが妙に艶かしく感じられた。


「………………んんっ!」


 フィアの咳払いにビクッ! とする二人。そういえば、フィアさんのお母さんも一緒に連れて来てるんだった。すっかり忘れかけていた。


「あーっと、今日はフィアさんのお母さんも屋敷に泊まってくから」


「………………リンリット=ネスラです。一日だけど、お世話になるわ」


 フィアの母──────リンリットはそう言って軽く頭を下げる。その顔は少し赤かった。恐らく、レクス達の初々しい様子を見てあてられたのだろう。そういえば、フィアの母の名前を初めて聞いた気がする。この間は本当にほんの少しだけ、しかもフィアにお見合いの話をしに来ただけだったので、名前を聞いてすらいなかった。


「……………レクス、疲れてるでしょ? …………お風呂に入って安らぐといい……………」


 エレナはそう言うが、その実レクスを風呂場の方へ押すようにして案内していた。レクスはその違和感? に首を傾げたが、疲れているのも事実だったので、お風呂に入ることにする。


「………………フィアと、リンリットはこっちに来て……………」


 レクスが風呂場に行ったのを見計らって、そう言うエレナ。


「オッケー」


「え、ええ………………」


 フィアはまるで何が起ころうとしているのか、分かっているかのように返事をし、リンリットは、年下の子に呼び捨てにされることに妙なものを感じた。フィアのお母さん、みたいな呼び方ばかりされていたからかもしれない。


 エレナ達は、そのままある準備をするために食堂へと向かうのだった。



◇◆◇◆◇


「ふぅー……………」


 チャポン、という音ともにレクスは一気にお湯に浸かる。お湯に浸かると不思議なことにこれまでの疲れが嘘のように飛んでいった。


「はぁ……………」


 今日は本当に疲れた。お見合いの場ではひたすら気を遣わなければならなかったし、剣豪? に戦いを挑まれたり。まあ、それほど強くなかったから、良かったけど。


「……………っと、いけない。つい寝そうになっちゃった」


 ここで寝たら、翌日風をひいた、なんてことになれば、みんなにも手間をかけさせてしまう。レクスもそんなことはさせたくない。


「……………もう少し浸かったら、出るか」


 寝ないように早めに出ないと。レクスはそんなことを考えた。
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