上 下
316 / 454
8章 ダンジョンを守れ ~異種族間同盟~

いい雰囲気

しおりを挟む
「ごちそうさまー……………。私の分まで払ってくれてありがとう。シャワー代くらいの額しか払えないようなお金しか持ってきてなくて。あとで返すね。それにしても………………ここ、すっごくおいしいお店ばっかでいいね。また来ようかな」


 イルミは声を弾ませながらそう言った。満足してくれたようで何よりだ。ここの冒険者ギルドは他のところよりも設備が整っていると思う。


「気に入ってくれたようで良かったよ。お金の方は別に返さなくてもいいよ。大した額じゃないし」


 レクスはなんてことはないという風に言うレクス。実際、お金はバンクに預けてある分も含めて多くある。食事代くらいは些細な出費である。


「じゃあ、そろそろここら辺で解散にしよう。次はいつにする? 明日はちょっと用事があるから無理だけど」


「奇遇だね。私も明日は無理なんだよー…………。急に用事が出来ちゃったからさ。来週の今日ぐらいでどうかな?」


 イルミは残念そうにそう言った。実はイルミ、内心で何か企んでいるのだが、レクスには知る由もなかった。


 レクス達は、少したわいもない話をしたあと、それぞれの家路についたのだった。



◇◆◇◆◇


「レクス、お帰りー。遅かったね」


 屋敷に帰ると、フィアがレクスの帰りを迎えてくれた。


「うん。ちょっと最近知り合った冒険者の子と冒険に行っててね」


「最近知り合った冒険者と冒険に?」


「うん。運動不足だったし、ちょうどいいかなって思って」


 レクスはそう言って笑った。最近執務で忙しかったし、たまには運動しないと。


「じゃあ、お風呂は…………もう入ってきたんだっけ。エレナ達なら、レクスの部屋に集まってるよ。エレナ、少しむくれてるかもしれないから、機嫌が直るかはレクスの頑張り次第だね」


「ほ、ほんとにっ!? それはヤバイかも……………ありがとう、フィアさん」


「頑張ってね」


 レクスはフィアの言葉に頷くと、執務室とは違う自分の部屋へと向かうのだった。



◇◆◇◆◇


「……………レクス、お帰り…………」


 フィアの言った通り、エレナはむくれていた。その姿も実に可愛らしいのだが、機嫌を直して欲しい。そして、この部屋にはなぜかエレナしかいなかったが、そこは気にするまい。


「その、エレナ、今日はごめんね?」


「…………他の子と冒険に、行ってたんでしょ…………私も、一緒に冒険に行きたかった…………」


 いつもなら、エレナはこんなにむくれないはずなのに……………今日はどうしてこんなに機嫌が悪いのか。一緒に行きたかった以外にも何か理由があるはずだが…………レクスには見当もつかなかった。誰かと冒険に行ったくらいで、ここまで……………


「…………私、見たの………今日、レクスが女の子と、冒険に行くところ…………。今日、たまたま武器屋に行った時に…………」


 
(そう言えば、集合場所この辺にしたんだっけ……………イルミの家も近くにあるからって事で。そこを見られたのかな…………?)


 レクスはエレナの言葉を聞き、そんなことを思うと同時に、むくれていた理由をなんとなく察した。


「……………エレナ。僕はエレナ一筋だからさ。その…………ね。なんというか…………今日はごめんっ」


 言葉が思うように出ず、気恥ずかしくなるレクス。そして、レクスは思いきったのか、顔を真っ赤にしながら、エレナに抱きつく。エレナはレクスの突然の抱擁に驚き、同じく顔を真っ赤にしていた。


「……うん…………。レクス………今日は一緒に寝て欲しい………」


「…………分かったよ」


 両者とも、顔がゆでダコのように真っ赤になっていた。─────と、そこに。


「お兄ちゃん! 帰ってるんでしょ、お帰り───────」


 勢いよくレクスの部屋の扉を開けたミアは、レクス達が抱き合っている様子を見て、硬直してしまった。レクス達も、抱き合っているところを見られてしまい、同様に固まってしまった。あとからミーシャ達も来て、エレナ達の様子を目にしてにやけていた。


「あら~…………お熱いことで」


 この後からかわれるのは明白であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。