上 下
298 / 454
8章 ダンジョンを守れ ~異種族間同盟~

きな臭い噂と浴衣

しおりを挟む
「まさか東門の警備だなんて…………予想外だったよ、本当に─────」


 レクスは、はぁ…………とため息をつきながらそう言った。何が空しくて祭りをやってる中、警備しなければならないのか。まあ、東門が一番危険だって言うし、気を引き締めて警備に当たらなければ。


「ため息ついてると、幸せが逃げてっちゃうよ? レクス」


 レクスが後ろを振り向くと、そこには─────フィアがいた。ディベルティメント騎士団の鎧を身にまとい、鎧の腕には団長の証であるフェニックスにも似た紋章が刻まれていた。


「フィアさんもここだったんですね」


「うん、まさかレクスもここにいるとは思わなかったけど」


「僕も会議で初めて知ったんだよ。それまで、全然知らなかったんだよ…………領主が街の警備に当たるなんて」


「ああ、そういえばそうだったね。領主は確か毎年警備に当たってるんだったね。私は騎士団として活動してたから、すっかり忘れてた」


 思い出したようにそう言うフィア。それはそうと─────


「所で、フィアさん、その…………抱きつくの、や、やめてくれない?」


 そう。レクスはフィアに後ろから抱き締められているのだ。それも声をかけられた時には既に抱きつかれていたのだ。


「だーめ、これでも結構我慢してるんだから。本当は一日に五回以上は必須なくらいなんだから」


「せめて一日一回でお願いします…………」


 レクスは諦めたようにそう言い、ため息をついた。


「ん~♪ やっぱりレクスは可愛い♪」


 フィアは頬をスリスリしだした。レクスは当然、慌てる。


「フィ、フィアさん、公衆の面前でそれは…………!」


 騎士団団長としてもまずいし、レクスとしても恥ずかしいのでやめて欲しい。そして、レクスが気になっている公衆の反応は。


「フィア様、本当レクス君好きだよね」


「本当だよ。そのまま結婚しちゃえーとか思うくらいだし」


 レクスにはエレナという立派な婚約者がいるので、それは出来ないと思う。


「見てて微笑ましいな」


「和むよねー…………」


 周囲の人々がディベルティメント騎士団の面々だったり、優しい冒険者達だったりとそんな人達ばかりだったので、そこまで気にされてはいなかった。


「フィアさん、そういえばなんだけど。独裁派のきな臭い噂ってどんな感じなの?」


「うーん…………噂によると、ここに大量の軍勢を率いて攻めてくるらしいんだけど…………正直微妙なんだよね。五分五分って感じ」


 フィアは苦笑しながらそう言った。─────と。


「レクス~!」


「あ、フィアもいる」


 向こうから声がした。こちらに駆け寄ってきているのは──────


「ミーシャ! それにみんなも! どうしてここに?」


(わざわざ東門まで、何しに来たんだろう? こっちの方に特に何かあるわけでもないし)


 東門の方には、厳重な警戒体制が敷かれているため、屋台などは一切置いていない。


「っていうか、みんな…………色々手に持ってるけど……………魔法袋マジックバックは?」


「みんな屋敷に忘れてきちゃったのよ」


 あっけらかんとした表情でそう言うミーシャ。大して気にしていないようだ。


「それよりも、レクス。見て、エレナの浴衣姿! どう?」


 ミーシャはエレナをレクスの前に出して、そう言った。エレナは白い生地をベースとした、所々幻想的なモチーフが入った浴衣に身を包んでいた。それが、エレナと絶妙にマッチしていた。これは、控えめに言っても─────



「か、可愛い、と思うよ…………。その、とてもよく、似合ってる…………」


「……………………!!」


 レクスの顔もエレナの顔も、それはもう恥ずかしさのあまり、真っ赤に染まっていた。そんな様子をミーシャ達は微笑ましそうに見ていたのだった。
しおりを挟む
感想 490

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~

イノセス
ファンタジー
手から炎を出すパイロキネシス。一瞬で長距離を移動するテレポート。人や物の記憶を読むサイコメトリー。 そんな超能力と呼ばれる能力を、誰しも1つだけ授かった現代。その日本の片田舎に、主人公は転生しました。 転生してすぐに、この世界の異常さに驚きます。それは、女性ばかりが強力な超能力を授かり、男性は性能も威力も弱かったからです。 男の子として生まれた主人公も、授かった超能力は最低最弱と呼ばれる物でした。 しかし、彼は諦めません。最弱の能力と呼ばれようと、何とか使いこなそうと努力します。努力して工夫して、時に負けて、彼は己の能力をひたすら磨き続けます。 全ては、この世界の異常を直すため。 彼は己の限界すら突破して、この世界の壁を貫くため、今日も盾を回し続けます。 ※小説家になろう にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。