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8章 ダンジョンを守れ ~異種族間同盟~

イルミの特訓

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「いや、無理無理無理、無理だって!!」


「コボルトだよ? Eランクに分類されてる魔物」


「知ってるわよ、見ればわかるわっ! そうじゃなくて、倒せないって言ってるの!」


 ……………よくこれで冒険者ギルドに登録できたな、などと内心呆れていた。コボルトくらい倒してもらわないと、なんの魔物も倒せないことになる。それではレクスとしても困る。ずっと、他人の心配ができるほどレクスも余裕がない(精神的に)。


「はぁ……………じゃあ、せめてCランクくらいの魔物は倒せるようになってもらうよ。じゃないと、不安だからね。一応とは言え、名前を知ってる仲だし、君に死なれると寝覚めが悪いからね」


「一応って何よ、一応って!! 友達でしょ、私達!」


「………………え?」


「………………………え?」


 レクスがイルミの言葉に驚いたような表情に。それを見たイルミも呆然とした表情になっていた。というか、このまま放置したら泣きそうな雰囲気すら漂って─────


「あ、うん、そうだね、友達だよ!」


 レクスはとっさにそう言った。ユビネス大森林帯で泣かれでもしたら、魔物がもっと寄ってくる。それは避けたい。なぜなら、面倒だからだ。


「そうよねっ!」


「うん、だから、目の前のコボルト倒してみてよ」


「だから無理よ!」


「……………僕が教えてあげるから」


 レクスはそう言うと、イルミの肩に触れる。


「………………イルミ。今から魔力を動かすから、感覚をつかんで」


「そうしてる間に、コボルトが襲って来るんじゃ──────」


「大丈夫、コボルトならさっき魔法で固定したから」


「ほんとだ……………いつの間に」


 レクスは先程、詠唱して無属性の魔法で鎖を生成し、コボルトを固定したのだ。コボルトがこの鎖を切れるはずがない。なので、安全に訓練ができる。


「じゃあ、いくよ…………」


 レクスはそう言うと、イルミの体内の魔力を感じ取り、それを身体全体に巡らせていく。


「あ、なんか動いてる……………!」


「それが魔力だよ。魔法は別に、魔法師メイジじゃなくても使えるから、身に付けておいて損はないよ」


「へー…………」


「ところで、イルミ。職業って本当に手品師なの? あ、言いたくなかったら言わなくていいよ。職業ってほら、個人情報だし。それに、むやみに他人に言いふらすようなものじゃないからね」


 そう、どの本にも手品師は載っていない。昔の本にも、今の本にも。娯楽として、手品師は確かに存在するが、ステータス上、そんな職業はないのだ。かといって、レクスは無理に聞き出すつもりはないので、強要はしなかった。


「………………私、実は『封印師』っていう職なんだ」


 封印師といえば、世界規模で見ても稀にしか見られないような職業だ。封印師というのは、対象に印を結ぶ事で、それを封印することができるのだ。それが、たとえ何であっても。例外はない。ただ、永遠に封印できるわけではなく、封印できても三日程度。しかも、魔力を膨大に使うのだ。非常に燃費が悪い。


「……………ただ、私の場合は、印を結ばなくても封印がはたらいちゃうの。私の手に触れたものを全部」


 イルミはレクスに自身の手の平を見せながらそう言った。


「それが怖くて、手品師を始めたんだ。手品師なら、人に手で触れた瞬間、封印を発動しちゃうの。普段はこういう風に手袋したりして、対策してるんだ」


「そうなんだ……………」


「だから……………私は、人の手の温もりを知らないんだ」


 悲しそうにイルミはそう言った。
 
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