はじめてのドキドキ

第1話: 「転校生との出会い」

「みなさん、今日は新しいお友達を紹介します。」

クラス担任の先生の声で、教室の中がしんと静まり返る。あかりは興味津々で前を向いた。5年生の2学期も半ばに差し掛かろうとしているのに、転校生なんてちょっと珍しい。

「こんにちは、遠藤ゆうすけです。よろしくお願いします。」

前に立った男の子は、背が高くて、少しだけ髪の毛がくしゃっとしている。なんとなく大人っぽくて、周りの男子とはちょっと違う感じがした。どことなく気まずそうに笑う顔も、あかりには少し新鮮で、つい見とれてしまう。

「遠藤くんは、東京から来たんだって。みんな仲良くしてね。」

先生の言葉に、教室の中から「東京？」「すごーい」といった声が上がる。あかりも、なんだかすごい人が来たんだなと思った。でも、ゆうすけは少し居心地が悪そうにしていて、目を合わせようとしない。

「遠藤くん、あかりの隣の席が空いてるから、そこに座ってね。」

先生が指さしたのは、あかりの隣の席。彼女は急に緊張して、心臓がドキドキし始めた。隣に男の子が座るなんて、ちょっと恥ずかしい。でも、ゆうすけが近づいてきたとき、自然に顔がにやけてしまう。

「よろしく。」

ゆうすけが席に座りながら小さく言った。あかりも「あ、うん、よろしくね」と返す。それだけで、なんだかとても特別なことが起こったように感じた。

授業が始まっても、あかりはゆうすけのことが気になって仕方がなかった。教科書を開いても、黒板を見ても、ちらっと隣を見てしまう。すると、ゆうすけも同じようにあかりを見ていて、二人の目が合ってしまった。

「あ、えっと…」

「ごめん！」

二人は同時に声を出して、すぐに目をそらす。周りの友達がクスクスと笑い声を上げるのが聞こえた。あかりの顔は一気に真っ赤になって、恥ずかしさでいっぱいだった。

放課後、友達のりなと一緒に帰りながら、あかりはゆうすけのことを話していた。

「ねえ、あの転校生のこと、どう思う？」

「え？あかり、もう気になるの？」

りながにやりと笑う。それがちょっと悔しくて、あかりはムキになって否定した。

「そんなんじゃないよ！ただ…ちょっと気になっただけ。」

でも、本当のことを言うと、あかりは自分でもびっくりしていた。こんなにドキドキするのは初めてで、どうしてこんな気持ちになるのか全然わからなかった。ただ、ゆうすけが少し不器用に微笑んだときの顔が、頭から離れなかった。

「あの子、クールだし、かっこいいよね。でも、あかりにばっかり話しかけてる気がする。」

りなが言うと、あかりはまた恥ずかしくなって顔を隠した。なんでこんなに簡単に見抜かれてしまうんだろう？

あかりはこの日、自分の中に生まれた新しい感情が、ちょっとだけ特別なものだということに気づき始めていた。