咲かない桜

2章

Part 60『たとえ有っても、無くても同じなら』

　「何をしてるんでしょうか。私は・・・」

　空を漂いながら胸に疼くモヤモヤとした気持ちにどうしようもなくなっている自分がいます。

　「一人でいる事には慣れていたはずなのに・・・」

　最近は、二人でいる事に慣れてしまっていました。だから、柏木さんが来て、峰さんと話せる時間がなくなっていた事に少し寂しさを感じていました。

　峰さんが柏木さんに魔女探しを諦めるように言った時、内心、喜んでいる自分がいた事に驚きました。そして、それがとても自分勝手なものから来るものでとても醜く映りました。

　柏木さんという方はどうやら、良い人のようでした。

　峰さんが妖怪が見えると話した時も素直に信用してくれたのは、私も驚きました。

　そして、柏木さんは、どうして魔女を探すのかを峰さんに伝えたのでした。柏木さんにも目的があって、峰さんが納得した表情を浮かべるのを見て分かりました。今後も私達は行動を共にするのだと・・・

　汚い感情が湧いて来ます。この感情は知っています。映画とかでよくみる嫉妬というものでしょう。

　私の方が先に一緒にいたのに・・・そう思うと柏木さんの事が恨めしい。

　友達が取られてしまって私は、柏木さんに嫉妬しているのです。

　けれど、それ以上にはっきりと自覚してしまったのは、私は、妖怪で峰さんは人間という事でした。

　私達は、住んでいる世界が違う。峰さんには、人間の世界で生きていく必要があって人間達には本来私達は見えないのです。どちらを優先するべきなんて最初から分かっていたはずなのに・・・

　だから、峰さんに明日から別行動にしましょうと伝えました。ほんの少し、峰さんが私を引き止めてくれるかもと淡い期待を抱いていたのは、本当に浅はかで愚かしい・・・


　山にたどり着くと私は辺りを見渡しました。綺麗なピンク色だった桜はもう葉桜になってしまっていました。

　葉桜の周りで小さな子供達が楽しそうに遊んでいるのが見えます。黒い髪の子供達も妖精ですから普通の人には見えないので騒ぎになることもありません。

　本来、妖怪の存在は、人間にとっていてもいなくても同じものなのです。

　「私は、深く関わりすぎたのかもしれませんね・・・」

　小さくそんな事を考えてしまいます。今、距離を置けば、お互い気が楽に過ごせるんじゃ無いでしょうか。

　そんな考えが頭に浮かびますが、けれど、今はもう何も考えたくありません。だから、考えるのは明日にしようと私は、桜の木で眠るのでした。