48 / 352
2章
Part 48 『会いたい・・・』
しおりを挟む
街に蠢く音が響く。ズルズルと何かを引きずる様な音は不安を一層掻き立てる。その化物は、形のない泥の塊の様だった。蠢くたびに姿を変え崩壊し、そして、また再構成される。
時々、人間の腕や足の形の突起が出来上がっては崩れていく、その様子は、街にいくつもいた妖怪などよりも醜穢で恐ろしい存在だった。
誰もが見れば卒倒するであろうはずの化物が駅の近くにいても誰一人悲鳴をあげることなく当たり前の日常を送っていた。妖怪は目に見えない。その事が人間を守っていた。
この世界は肉体を持つ者達の世界であり妖怪達は、人間の意識していないものにしか干渉できない。そういった不変のルールによって人間は守られている。
見えてない時点で化物達との次元が違う。だからこそ、お互いに干渉できない。
見えていない事が人間を守る最強の盾になっているのだ。
「あ・・・・・・あ・・・・・・あ」
泥の一部が人間の口を形作り、不器用に発声する。その声すら人間には届かない。
化物にもはや殆どの自我はなかった。溢れ出る魔力は、肉体を破壊し泥へと変わってしまった。もう、化物の元の姿がわかる要素はなくなってしまった。
しかし、ほとんどなくなった意識がふとした拍子に湧き上がってくる。それは意識というには、あまりにも断片的で一瞬のものだが確かにあった。
(嫌だ・・・嫌だ・・・)
何かに怯える様な意識は、化物の体をピクリと震わせる。
(・・・・・・会いたい・・・・・・会いたい・・・・・・あい・・・た・・・)
最後に残った意識で化物は、そんな事を考える。
しかし、化物は分からない。
いったい誰に会いたかったのかも、どうして会いたいのかも・・・
絶えず漏れ出す魔力が化物の記憶を徐々にけれど確かなスピードで奪い去っていく。断続的に失われていく記憶、その感覚は、死に迫っている事をはっきりと実感させる。
意識が、眠る様に、あるいは水底へ沈む様にゆっくりと消えていった。
醜穢は、モゾモゾと動き街の徘徊を再開する。何かを探す様に街を歩くのだった。
時々、人間の腕や足の形の突起が出来上がっては崩れていく、その様子は、街にいくつもいた妖怪などよりも醜穢で恐ろしい存在だった。
誰もが見れば卒倒するであろうはずの化物が駅の近くにいても誰一人悲鳴をあげることなく当たり前の日常を送っていた。妖怪は目に見えない。その事が人間を守っていた。
この世界は肉体を持つ者達の世界であり妖怪達は、人間の意識していないものにしか干渉できない。そういった不変のルールによって人間は守られている。
見えてない時点で化物達との次元が違う。だからこそ、お互いに干渉できない。
見えていない事が人間を守る最強の盾になっているのだ。
「あ・・・・・・あ・・・・・・あ」
泥の一部が人間の口を形作り、不器用に発声する。その声すら人間には届かない。
化物にもはや殆どの自我はなかった。溢れ出る魔力は、肉体を破壊し泥へと変わってしまった。もう、化物の元の姿がわかる要素はなくなってしまった。
しかし、ほとんどなくなった意識がふとした拍子に湧き上がってくる。それは意識というには、あまりにも断片的で一瞬のものだが確かにあった。
(嫌だ・・・嫌だ・・・)
何かに怯える様な意識は、化物の体をピクリと震わせる。
(・・・・・・会いたい・・・・・・会いたい・・・・・・あい・・・た・・・)
最後に残った意識で化物は、そんな事を考える。
しかし、化物は分からない。
いったい誰に会いたかったのかも、どうして会いたいのかも・・・
絶えず漏れ出す魔力が化物の記憶を徐々にけれど確かなスピードで奪い去っていく。断続的に失われていく記憶、その感覚は、死に迫っている事をはっきりと実感させる。
意識が、眠る様に、あるいは水底へ沈む様にゆっくりと消えていった。
醜穢は、モゾモゾと動き街の徘徊を再開する。何かを探す様に街を歩くのだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
ずっと君のこと ──妻の不倫
家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。
余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。
しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。
医師からの検査の結果が「性感染症」。
鷹也には全く身に覚えがなかった。
※1話は約1000文字と少なめです。
※111話、約10万文字で完結します。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる