咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
上 下
341 / 352
4章

Part 338『変わらない』

しおりを挟む
 計画自体は非常に良いものだったのだが、よくよく考えてみれば現在の状況を加味していなかった。

 「あ、あのどうしましょう。」

 そこには無残に破壊されたピンがレーンの上に転がっていた。

 サクヤは慌てた様子で俺に尋ねてくる。

 誤算だったのは、サクヤが開花した状態だと言う事実である。初めてボーリングをするサクヤにやり方を説明したのだが、説明の仕方が悪かった。

 「力入れてないとボールに体が持っていかれるからな。投げるギリギリまで力は抜いちゃダメだぞ。」

 なんてことを言ってしまったんだろうか。

 その結果、ボーリングの球はプロの投手の野球ボールの様な勢いで床に触れることなくピンに激突し、粉砕した。

 周囲がどよめく。これはまずい。

 しかし一番混乱しているのは間違いなくサクヤだった。

 「峰さん、どうしましょう!? 私お金なんてありません。弁償ですかね? あ、そうだ。お金を想像すれば・・・・・・」

 「犯罪だから!」

 「じゃあ、私はどうすれば良いんですか!? 噂の臓器売買ですか!?」

 「いや、魔法で直すだけで良いんだよ!」

 「臓器をですか?」

 「ピンをだよ!!」

 なんで臓器売って解決する前提なんだ。怖いよ。

 しかし、俺の言葉にサクヤは納得してすぐに魔法を使ってピンを修理していく。

 ほんの一瞬でよく注目している人間でもなければ、突然のことのように思えるだろう。

 「あ、周囲の人の記憶も隠蔽しないと」

 そういうとサクヤはレーンの近くにいる人たちに向かってお辞儀をすると指を振るった。

 すると先程までどよめいていた人達が何事もなかったかのようにボーリングを再開した。

 「これで良しですね。本当でした。今なら大体のことが出来るのを忘れていました。」

 突然のトラブルに弱いのは相変わらずだ。

 「精霊って凄いんですね。」

 「ユキ、精霊はこれが普通じゃないからね。かなり、今のサクヤは規格外だから」

 長い間貯め続けた魔力を消費して得られる境地だ。

 普通の妖精と比較されたら、妖精がかわいそうだ。

 「でも良かった。これで心置きなく壊せる。」

 「凛!? 直せるからって壊し続けて良い理由にはならないからね!?」

 さらりと恐ろしいことを口走る凛に慌てて注意すると「冗談」と笑った。

 「まあ、とりあえず、続きをしようか。」

 俺はボーリング玉を持ってレーンに立つ。レーンの先にあるピンはいくつもの宝石があしらわれライトに照らされていくつもの光を放っていた。

 「・・・・・・サクヤ?」

 震えた声で指摘するとサクヤも頭を掻いて小さく笑った。

 「あはは・・・・・・申し訳なくて装飾を多めにしたんですけど・・・・・・」

 「直してきなさい。」

 「はい・・・・・・」

 少し落ち込んだ様子でサクヤはピンを元の状態に戻していく。

 凄い力があってもサクヤはサクヤだな。

 なんだかとてもそう思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

思い出を売った女

志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。 それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。 浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。 浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。 全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。 ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。 あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。 R15は保険です 他サイトでも公開しています 表紙は写真ACより引用しました

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

三度目の結婚

hana
恋愛
「お前とは離婚させてもらう」そう言ったのは夫のレイモンド。彼は使用人のサラのことが好きなようで、彼女を選ぶらしい。離婚に承諾をした私は彼の家を去り実家に帰るが……

処理中です...