276 / 352
4章
Part 275『形見』
しおりを挟む
「そういえば、峰さんに渡したいものがあったんっすよ。ちょっと、待っててくださいっす。」
俺が焦りを感じている中で、コンは、思い出したように工房の方へと駆けていく。
何のことだろうかと、俺もゆっくりと工房の方へと向かう。
すぐにコンが工房から出てきて、俺に布に包まれた何かを差し出してくる。俺は、それを受け取ると布をめくる。
「刀?」
刀というには随分と小さなそれは、コンが作っていた妖刀もどきよりも更に短い刀だった。
素人が作ったようなもので、所々が刃こぼれしていて荒く、市販で売っている包丁の方が出来がいいとすら思うような品だ。
「そうっす。まあ、小さくて果物ナイフと変わらないっすけど、刃渡りも本当に短く削ってるっす。」
「何で俺にこれを?」
「それは師匠が最初に使った刀っす。工房の奥深くに隠してたみたいなんっすけど、掃除してたら見つけたんすよ。」
「これが、ウチガネさんの・・・・・・」
刀を見るとやはり拙さが際立っている。ウチガネさんも最初から、あれだけの技術があった訳ではないのだ。
確実に実力を積んであれだけの境地に辿り着いたのだ。
「でも、こんな大事なもの俺がもらって良いのか? 形見だろ?」
ウチガネさんが最初に作った刀なんて大事なものだ。数日だけあっただけの俺がもらって良いのか、もっと持つべき人がいるのではないかと思う。
それこそ、コンや真冬さんなどが持っているべきなのではないだろうか。
「俺は、この通り工房をもらったっす。それにその刀、分かりにくいとこに隠してたんっすよ? 多分、絶対に見せたくなかったんすよ。」
まあ、弟子に自分の拙い作品を見られたくはないのかもしれない。
「師匠は、カッコつけっすからね。弟子の俺が持ってたら怒るっすよ。真冬さんには、もっと見せたくないっすよ。それなら、これからウチガネさんが気に入ってた峰さんにもらって欲しいんっすよ。」
「・・・・・・そういう事なら、ありがたく貰うよ。これも妖刀なのか?」
ウチガネさんは、打つ刀が全て妖刀になるという特異体質だ。つまりは、この短い刀も妖刀であるはずだ。
しかし、コンは悩ましそうな表情を浮かべて言葉を詰まらせる。
「そのはず・・・・・・なんっすけどね。どういう効果があるのか分かんないんっすよね。ウチガネさんも居ないっすしね。」
そう言われて納得する。どう使うかもわからない代物である以上は、試して見るわけにもいかない。
「まあ、切れ味が悪すぎてまともに物も切れないんっすけどね。物に対しては特に変化がないんっすよね。」
ウチガネさんの最後の刀はただ『斬る』事に関して特化した妖刀だった。物体や概念的なものであっても断つ事の出来るとんでもない妖刀であった。
しかし、確かにこの刀は、野菜すら斬るのが大変そうだ。
「お守りとして大事にするよ。」
持っているだけでなんだか、頑張れとウチガネさんに言われているような気がする。
俺はここから始めたんだ。お前もそれぐらいやれ。と言うような感じだ。
「頑張るよ。ウチガネさんに見せても恥ずかしくないぐらいに」
俺がそう言うとコンは、「師匠は厳しいっすから、中々、ハードル高いっすよ?」と冗談めかしながら笑った。
俺が焦りを感じている中で、コンは、思い出したように工房の方へと駆けていく。
何のことだろうかと、俺もゆっくりと工房の方へと向かう。
すぐにコンが工房から出てきて、俺に布に包まれた何かを差し出してくる。俺は、それを受け取ると布をめくる。
「刀?」
刀というには随分と小さなそれは、コンが作っていた妖刀もどきよりも更に短い刀だった。
素人が作ったようなもので、所々が刃こぼれしていて荒く、市販で売っている包丁の方が出来がいいとすら思うような品だ。
「そうっす。まあ、小さくて果物ナイフと変わらないっすけど、刃渡りも本当に短く削ってるっす。」
「何で俺にこれを?」
「それは師匠が最初に使った刀っす。工房の奥深くに隠してたみたいなんっすけど、掃除してたら見つけたんすよ。」
「これが、ウチガネさんの・・・・・・」
刀を見るとやはり拙さが際立っている。ウチガネさんも最初から、あれだけの技術があった訳ではないのだ。
確実に実力を積んであれだけの境地に辿り着いたのだ。
「でも、こんな大事なもの俺がもらって良いのか? 形見だろ?」
ウチガネさんが最初に作った刀なんて大事なものだ。数日だけあっただけの俺がもらって良いのか、もっと持つべき人がいるのではないかと思う。
それこそ、コンや真冬さんなどが持っているべきなのではないだろうか。
「俺は、この通り工房をもらったっす。それにその刀、分かりにくいとこに隠してたんっすよ? 多分、絶対に見せたくなかったんすよ。」
まあ、弟子に自分の拙い作品を見られたくはないのかもしれない。
「師匠は、カッコつけっすからね。弟子の俺が持ってたら怒るっすよ。真冬さんには、もっと見せたくないっすよ。それなら、これからウチガネさんが気に入ってた峰さんにもらって欲しいんっすよ。」
「・・・・・・そういう事なら、ありがたく貰うよ。これも妖刀なのか?」
ウチガネさんは、打つ刀が全て妖刀になるという特異体質だ。つまりは、この短い刀も妖刀であるはずだ。
しかし、コンは悩ましそうな表情を浮かべて言葉を詰まらせる。
「そのはず・・・・・・なんっすけどね。どういう効果があるのか分かんないんっすよね。ウチガネさんも居ないっすしね。」
そう言われて納得する。どう使うかもわからない代物である以上は、試して見るわけにもいかない。
「まあ、切れ味が悪すぎてまともに物も切れないんっすけどね。物に対しては特に変化がないんっすよね。」
ウチガネさんの最後の刀はただ『斬る』事に関して特化した妖刀だった。物体や概念的なものであっても断つ事の出来るとんでもない妖刀であった。
しかし、確かにこの刀は、野菜すら斬るのが大変そうだ。
「お守りとして大事にするよ。」
持っているだけでなんだか、頑張れとウチガネさんに言われているような気がする。
俺はここから始めたんだ。お前もそれぐらいやれ。と言うような感じだ。
「頑張るよ。ウチガネさんに見せても恥ずかしくないぐらいに」
俺がそう言うとコンは、「師匠は厳しいっすから、中々、ハードル高いっすよ?」と冗談めかしながら笑った。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
ずっと君のこと ──妻の不倫
家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。
余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。
しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。
医師からの検査の結果が「性感染症」。
鷹也には全く身に覚えがなかった。
※1話は約1000文字と少なめです。
※111話、約10万文字で完結します。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる