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4章
Part 246『作品』
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篝さんは、相変わらず黙々と作業をしている。アイスピックを思わせる木製の取手に先端の尖った細長い棒が付いた道具を使っている。
特別な道具なのだろうか、まるで粘土の様にあっさりと石は棒の先端で削れていく。電気的な機器ではないので恐らくは、魔法か呪いで何かしらの効果を付けているのだと思う。
石は繊細な模様を描いており、息を呑むほどのクオリティだ。
強く深く削ることもあれば、ゆっくりと撫でる様に優しく削る事もある。場所によって強弱を付けているのだ。
そして、一工程が終わると篝さんは、ゆっくりと一瞬、手を止めて、まるで先程まで息を忘れていた様に大きく息を吐く。
そして、再び大きく深呼吸をしてから作業を再開する。
まるで画家の絵を描く様に作られていく模様は、複雑で芸術的な様に感じた。
「どうぞ。お茶です。」
俺が篝さんの仕事に見入っていると椿は俺にお茶を持ってきてくれた。
俺はお礼を言ってお茶を受け取る。自覚はしてなかったのだが、喉が渇いていた様で少しぬるい麦茶を一気に飲み干す。
「まだ、時間がかかると思いますよ。長いですから」
椿は、篝さんの様子を見ながら俺にそう話してくれる。このまま、一時間ぐらいは、続きそうなのは確かだ。
「そうみたいだな。あ、そういえば、なんで川を流れていたんだ?」
「川の先に滝があるんです。それで、気付いたら川を流れていました。」
「ごめん。途中から端折り過ぎて全然、意味がわからない。」
端折るというか説明をしていないだろう。今のは・・・・・・
「私も何がどうなったのか。滝を見ながら歩いていると」
「歩いていると?」
「急に地面がなくなって、気付いたら川を流れてたんです。」
「それ普通に落ちてるだけだよな!?」
高いものを見上げたりしている時にそのまま、階段があるのに気づかずにつまずくみたいな事だ。俺自身も経験がある。
「アンドロイドは、落ちたりしません。」
「・・・・・・いや、でも・・・・・・」
「仮に落ちていたとしてもそれは、人間らしさを演出するためのアンドロイドジョークです。」
「誰に対しての!?」
意地でも自分のミスを認めようとしないので、俺は素直に引き下がることにした。
「・・・・・・分かったよ。まあ、それで川を流れていたのか、でも、別に泳げない訳じゃないんだろ?」
「はい。私はアンドロイドですが特殊な設計で作られているので、水に浮きます。」
「うん。もうなんか、言動に慣れてきた自分がいるよ。」
アンドロイド設定が万能すぎて正直、もうすでに何を言っても許される感じがある。
「ただ、作品に詰まってたので、このまま川を流れるのも一興かと思っていました。」
「作品って? 椿も呪術師なの?」
「いえ、そちらの関係にはほとんど触らせて貰えません。私は、小説を書いているのです。」
「え? 凄いじゃん! 小説家なの?」
俺がそう言って褒めると椿は、少し照れた様に「いえ、そんな大層なものではないです。」と謙遜する。
「なるほど、つまりそのアンドロイド設定もキャラ作りの一環って事か!」
それなら、その言動にも少しは納得出来る。
「設定? 何を言ってるんですか? 私は正真正銘アンドロイドです。」
「あ、そこは、貫くんだ・・・・・・」
中々、難しい人物である。
特別な道具なのだろうか、まるで粘土の様にあっさりと石は棒の先端で削れていく。電気的な機器ではないので恐らくは、魔法か呪いで何かしらの効果を付けているのだと思う。
石は繊細な模様を描いており、息を呑むほどのクオリティだ。
強く深く削ることもあれば、ゆっくりと撫でる様に優しく削る事もある。場所によって強弱を付けているのだ。
そして、一工程が終わると篝さんは、ゆっくりと一瞬、手を止めて、まるで先程まで息を忘れていた様に大きく息を吐く。
そして、再び大きく深呼吸をしてから作業を再開する。
まるで画家の絵を描く様に作られていく模様は、複雑で芸術的な様に感じた。
「どうぞ。お茶です。」
俺が篝さんの仕事に見入っていると椿は俺にお茶を持ってきてくれた。
俺はお礼を言ってお茶を受け取る。自覚はしてなかったのだが、喉が渇いていた様で少しぬるい麦茶を一気に飲み干す。
「まだ、時間がかかると思いますよ。長いですから」
椿は、篝さんの様子を見ながら俺にそう話してくれる。このまま、一時間ぐらいは、続きそうなのは確かだ。
「そうみたいだな。あ、そういえば、なんで川を流れていたんだ?」
「川の先に滝があるんです。それで、気付いたら川を流れていました。」
「ごめん。途中から端折り過ぎて全然、意味がわからない。」
端折るというか説明をしていないだろう。今のは・・・・・・
「私も何がどうなったのか。滝を見ながら歩いていると」
「歩いていると?」
「急に地面がなくなって、気付いたら川を流れてたんです。」
「それ普通に落ちてるだけだよな!?」
高いものを見上げたりしている時にそのまま、階段があるのに気づかずにつまずくみたいな事だ。俺自身も経験がある。
「アンドロイドは、落ちたりしません。」
「・・・・・・いや、でも・・・・・・」
「仮に落ちていたとしてもそれは、人間らしさを演出するためのアンドロイドジョークです。」
「誰に対しての!?」
意地でも自分のミスを認めようとしないので、俺は素直に引き下がることにした。
「・・・・・・分かったよ。まあ、それで川を流れていたのか、でも、別に泳げない訳じゃないんだろ?」
「はい。私はアンドロイドですが特殊な設計で作られているので、水に浮きます。」
「うん。もうなんか、言動に慣れてきた自分がいるよ。」
アンドロイド設定が万能すぎて正直、もうすでに何を言っても許される感じがある。
「ただ、作品に詰まってたので、このまま川を流れるのも一興かと思っていました。」
「作品って? 椿も呪術師なの?」
「いえ、そちらの関係にはほとんど触らせて貰えません。私は、小説を書いているのです。」
「え? 凄いじゃん! 小説家なの?」
俺がそう言って褒めると椿は、少し照れた様に「いえ、そんな大層なものではないです。」と謙遜する。
「なるほど、つまりそのアンドロイド設定もキャラ作りの一環って事か!」
それなら、その言動にも少しは納得出来る。
「設定? 何を言ってるんですか? 私は正真正銘アンドロイドです。」
「あ、そこは、貫くんだ・・・・・・」
中々、難しい人物である。
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