咲かない桜

御伽 白

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4章

Part 238『呪術師』

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 私有地の山の奥、多くの木が立ち並ぶ自然豊かな場所にその家はあった。

 電気も届いているのか分からない、そんな場所にある家は、歴史を感じさせる古びた木造の平屋で、ボロボロになった屋根や壁は、補強のために所々が、真新しい木がいくつも貼りつけられ、奇妙な色居合になっている。

 現代人が住むには随分と古い建物である。それこそ、先ほど乱丸がいた小屋の方が電気が通っている分、生活しやすそうですらあった。

 辺りには、電柱などはなく家の裏側には水車が付いていてそばを流れる小さな川によって、ゆっくりと回転している。

 限りなく俗世とは切り離されたような空間に俺は言葉を失った。

 まるで昔話に出て来る山姥の家のようだ。まあ、真冬さんは、もっといい所に住んでいたが・・・・・・。

 乱丸は、そのまま、家に近ずいて引き戸の扉をガタガタと鳴らしながら中へと入って行く。

 俺もなんとなく、置いて行かれるのが嫌で、急ぎ足で家の中に入って行く。

 家の中は、薄暗く窓から漏れる光だけで室内は照らされている。薄暗い部屋の奥からゴリゴリと何かを削る音が響いている。

 足元を確かめながらゆっくりと音の方向へと向かうと小さなランプの明かりが見えてくる。

 その明かりの近くで一人の初老の男性が胡座をかいて座っていた。

 その手には、手のひらサイズの石が握られており、もう一方の手には、長い棒状のアイスピックのようなものが握られている。

 こちらに気づいた様子もなく何度も何度も削り続ける。この緊張感は、身に覚えがある。職人の緊張感だ。長い修練の結果やっと辿り着ける集中力の極地。周囲の人間すらその集中力に呑まれ、言葉を発することどころか、身動きすら出来なくなるほどの、緊張感はウチガネさんの作業風景を彷彿とさせる。

 ゆっくりと丁寧に削られた作品は、遠目からでは細かすぎて何をしているのか全く分からない。

 しかし、寸分の狂いも許されない精密さで削り続けている。そして、次の瞬間、男は削っていた石を窓の向こうに投げ捨てた。

 「・・・・・・え?」

 思わず、呆然としてしまった。先ほどまであれほど丁寧に神経を注いでいた代物を投げ捨てた事が俺には理解出来なかった。

 「お、終わったみたいだな。おやっさん、どうよ。調子は?」

 乱丸は、特に気にした様子もなく陽気な口調で声をかけた。

 「調子が良いように見えるんだったら、テメェの眼球を石細工に変えてやるよ。そしたら、ちっとはよく見えらぁ・・・・・・」

 初老の男は、苛立った口調で乱丸に視線を向け、そして、ゆっくりと俺の方を見た。

 「誰だ? そいつは?」

 「客だよ。リューから話は来てるだろ?」

 俺は、乱丸の紹介の流れで「峰 日向です。よろしくお願いします。」と頭を下げた。

 初老の男性は少し考えるそぶりを見せ、「・・・・・・リュー? 誰だそいつは?」とそう言った。
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