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3章
Part 220『あっさりとした事件の終わり』
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寂しい。苦しい。いくつもの感情が俺の中を巡った。けれど、確かに皆に幸せでいてほしいという願いは、本物だった。
俺は、頭痛を感じながらも目を覚ます。そこには誰もいなかった。レンジは、誰もいないその場所で「待たせたな。」と驚く様子もなく、ただその場で夢でサツキが最期に着ていた着物を抱いた。
もしかして、レンジは・・・・・・
「知っていたのですか? サツキ姉さんが死んでいると」
俺達に追いついたムゲツがレンジの様子を見て尋ねた。待たせたな。とレンジは、言っていた。サツキが死んでいる事をあっさりと受け入れていた。
「知っていたというより、可能性は高いと思ってた。狐月の当主の強さは俺も知っていたしな。サツキが禍神を使った可能性はあると思ってた。だけど、もしかしたら、生きてるかもしれないとも思ってた。俺の予想は的外れで、封印を解いたら元気なサツキが出てきて、昔みたいにみんなで過ごす可能性もあるなんてな。」
だからこそ、この作戦には意味があった。生きていれば、餓狼衆の妖怪達の悲願を達成できる。
「餓狼衆は、解散する。今後、殺しも窃盗もしない。餓鬼ばっかりだからな。俺の命で勘弁してくれ」
そう言ってレンジは、ムゲツの前に座り込む。そして、瞳を閉じた。
「それがあなたの選択ですか?」
「ああ、死ぬならここがいい。それに餓鬼どもは、自分達がどういう金で生きてるのかもよく分かってない。実行犯は、全部、俺達、大人達だ。それも今回の鬼島との戦闘で壊滅、もう、ほとんど力はない。俺もいなくなれば、悪事なんて出来ねぇ。だから、俺の命で手を引いてくれ」
「わかりました。冬夜、お願いします。」
ムゲツは、そう言うとそばに何も言わずに立っていた冬夜は、刀を抜いた。薄い白の混ざった鉛の刃の切っ先は、レンジに向けられる。
レンジが死んで丸く収まる。・・・・・・訳がない。誰も幸せにならない。
「そこをどけ」
気がつけば、俺は、冬夜の目の前に立ち塞がっていた。刀の切っ先が俺の前で止まっている。
「死ぬのは違う。だって誰も求めてない。罪は償わないといけない。けど、死んだからって誰も幸せにならない。」
多くの妖怪の幸せを願った彼女がこんな結末を望む訳がない。
「命がけで願った幸せをこんな形で終わらせるのなんて間違ってる。」
「日向、良いんだ。」
「何が良いんだよ! あんたの帰りを待ってる家族がいるだろ! あんたの大切なものは、サツキさんだけか? それ以外は全部どうでも良いものなのか? 自分の首を差し出して事を納める? ご立派だな。サツキさんはそんな事を言ったのか? 言う訳ないよな。あの妖怪は、お前らに生きろと言ったはずだ。苦しくても辛くても生きろと」
「なんでお前がそれを」
「見たんだよ。全部、サツキさんの思い出を。だから分かるんだよ。あの人は、誰も死んで欲しくないから最期に封印されるなんて面倒な手段を取ったんだ。お前は大切な奴の最期の願いも叶えないのかよ!」
「・・・・・・」
「命を賭けて仲間を助ける。そりゃあ、誰にでもできる事じゃないよ。だけど、死ぬことが最善だと思ってるなら、間違ってる。レンジがサツキのことが大切なら、生きるべきだ。仲間が大切だと思うなら生きるべきだ。あんたらは、サツキの家族なんだろ! だったら、他の誰より生きる事に執着しろよ!」
でなければ、報われない。だって、そのために彼女は努力したのに、その気持ちを汲んであげられないなんてそんなのは悲しすぎる。
それにレンジには、彼のことを大切に思っている家族がいるのだ。残されるものの寂しさを俺は知っている。
どうしようもない寂しさは、心をえぐる。もう会えないと分かっているから余計にその寂しさは、埋まりにくい。
「大切な人がいなくなる寂しさをレンジは知ってるだろ。子供達にもその寂しさを背負わせるのかよ・・・・・・」
「・・・・・・そうだな。その通りだ。ああ、あいつは生きろと言ったんだった。」
「つまり、生きたいんですか?」
レンジのその言葉に確認するようにムゲツはそう尋ねた。レンジはその言葉に頷いた。
「いいですよ。」
「虫のいい話だとは分かってる。俺に出来る事ならなんでもする。だから・・・・・・は?」
「良いですよ。と言っています。罪の償い方については、別に死ねなんて私は言ってないでしょう。だいたい、殺すつもりなら、冬夜に手加減させる訳ないでしょう。」
「でも、さっき殺そうと」
レンジは、理解できないと言う顔を浮かべる。実際、自分に剣先が向けられていた。
「ええ、あなたが死にたいと言うのでしたら殺してあげるのも手かなと思っていました。生きる気のないものなんて利用価値ないですし・・・・・・」
確かにムゲツは死ねなんて一言も言っていない。
「さて、では、あなたには、私に仕えてもらいましょうか。餓狼衆の残党は全てうちが保護しましょう。住処は貸してあげます。後はあなた方の働きによります。後、あなたは、こき使いますからそのつもりでいてください。」
「それじゃあ、無罪放免と一緒じゃ・・・・・・」
「観察処分、いえ、執行猶予というやつです。もし、あなた方がこれから先、餓狼衆の誰かが悪事をした瞬間、家族全てを殺します。女子供問わずです。それがあなたに対して与える罰です。」
一見、無慈悲な事を言っているようだが、悪事さえ犯さなければ、家族と一緒にいれると言っているのだ。
「知りませんでしたか? 私、身内に甘いんですよ。姉の最期の遺産ですから、多少の情が湧くものですよ。ただ、一度だけです。二度はありません。そこは頭に入れておいてください。」
レンジは、その言葉を聞いて、「感謝する。」と深く頭を下げた。
実にあっさりと俺達の事件は、終わりを告げた。これからバタバタしそうだが良かった。
「ええ、感謝してください。あ、そうだ。人間さん。」
思い出したようにムゲツは、俺に向かってこう続けた。
「鬼島の真冬さんという方が『非常に怒っているので帰ってきたら覚悟しておいてください。』と伝えてくれと言っていましたよ。
ご丁寧に声音まで真似て伝えられた言葉に背筋が寒くなる。
ああ、そうだよなぁ。怒ってない訳ないよなぁ・・・・・・
俺は、頭痛を感じながらも目を覚ます。そこには誰もいなかった。レンジは、誰もいないその場所で「待たせたな。」と驚く様子もなく、ただその場で夢でサツキが最期に着ていた着物を抱いた。
もしかして、レンジは・・・・・・
「知っていたのですか? サツキ姉さんが死んでいると」
俺達に追いついたムゲツがレンジの様子を見て尋ねた。待たせたな。とレンジは、言っていた。サツキが死んでいる事をあっさりと受け入れていた。
「知っていたというより、可能性は高いと思ってた。狐月の当主の強さは俺も知っていたしな。サツキが禍神を使った可能性はあると思ってた。だけど、もしかしたら、生きてるかもしれないとも思ってた。俺の予想は的外れで、封印を解いたら元気なサツキが出てきて、昔みたいにみんなで過ごす可能性もあるなんてな。」
だからこそ、この作戦には意味があった。生きていれば、餓狼衆の妖怪達の悲願を達成できる。
「餓狼衆は、解散する。今後、殺しも窃盗もしない。餓鬼ばっかりだからな。俺の命で勘弁してくれ」
そう言ってレンジは、ムゲツの前に座り込む。そして、瞳を閉じた。
「それがあなたの選択ですか?」
「ああ、死ぬならここがいい。それに餓鬼どもは、自分達がどういう金で生きてるのかもよく分かってない。実行犯は、全部、俺達、大人達だ。それも今回の鬼島との戦闘で壊滅、もう、ほとんど力はない。俺もいなくなれば、悪事なんて出来ねぇ。だから、俺の命で手を引いてくれ」
「わかりました。冬夜、お願いします。」
ムゲツは、そう言うとそばに何も言わずに立っていた冬夜は、刀を抜いた。薄い白の混ざった鉛の刃の切っ先は、レンジに向けられる。
レンジが死んで丸く収まる。・・・・・・訳がない。誰も幸せにならない。
「そこをどけ」
気がつけば、俺は、冬夜の目の前に立ち塞がっていた。刀の切っ先が俺の前で止まっている。
「死ぬのは違う。だって誰も求めてない。罪は償わないといけない。けど、死んだからって誰も幸せにならない。」
多くの妖怪の幸せを願った彼女がこんな結末を望む訳がない。
「命がけで願った幸せをこんな形で終わらせるのなんて間違ってる。」
「日向、良いんだ。」
「何が良いんだよ! あんたの帰りを待ってる家族がいるだろ! あんたの大切なものは、サツキさんだけか? それ以外は全部どうでも良いものなのか? 自分の首を差し出して事を納める? ご立派だな。サツキさんはそんな事を言ったのか? 言う訳ないよな。あの妖怪は、お前らに生きろと言ったはずだ。苦しくても辛くても生きろと」
「なんでお前がそれを」
「見たんだよ。全部、サツキさんの思い出を。だから分かるんだよ。あの人は、誰も死んで欲しくないから最期に封印されるなんて面倒な手段を取ったんだ。お前は大切な奴の最期の願いも叶えないのかよ!」
「・・・・・・」
「命を賭けて仲間を助ける。そりゃあ、誰にでもできる事じゃないよ。だけど、死ぬことが最善だと思ってるなら、間違ってる。レンジがサツキのことが大切なら、生きるべきだ。仲間が大切だと思うなら生きるべきだ。あんたらは、サツキの家族なんだろ! だったら、他の誰より生きる事に執着しろよ!」
でなければ、報われない。だって、そのために彼女は努力したのに、その気持ちを汲んであげられないなんてそんなのは悲しすぎる。
それにレンジには、彼のことを大切に思っている家族がいるのだ。残されるものの寂しさを俺は知っている。
どうしようもない寂しさは、心をえぐる。もう会えないと分かっているから余計にその寂しさは、埋まりにくい。
「大切な人がいなくなる寂しさをレンジは知ってるだろ。子供達にもその寂しさを背負わせるのかよ・・・・・・」
「・・・・・・そうだな。その通りだ。ああ、あいつは生きろと言ったんだった。」
「つまり、生きたいんですか?」
レンジのその言葉に確認するようにムゲツはそう尋ねた。レンジはその言葉に頷いた。
「いいですよ。」
「虫のいい話だとは分かってる。俺に出来る事ならなんでもする。だから・・・・・・は?」
「良いですよ。と言っています。罪の償い方については、別に死ねなんて私は言ってないでしょう。だいたい、殺すつもりなら、冬夜に手加減させる訳ないでしょう。」
「でも、さっき殺そうと」
レンジは、理解できないと言う顔を浮かべる。実際、自分に剣先が向けられていた。
「ええ、あなたが死にたいと言うのでしたら殺してあげるのも手かなと思っていました。生きる気のないものなんて利用価値ないですし・・・・・・」
確かにムゲツは死ねなんて一言も言っていない。
「さて、では、あなたには、私に仕えてもらいましょうか。餓狼衆の残党は全てうちが保護しましょう。住処は貸してあげます。後はあなた方の働きによります。後、あなたは、こき使いますからそのつもりでいてください。」
「それじゃあ、無罪放免と一緒じゃ・・・・・・」
「観察処分、いえ、執行猶予というやつです。もし、あなた方がこれから先、餓狼衆の誰かが悪事をした瞬間、家族全てを殺します。女子供問わずです。それがあなたに対して与える罰です。」
一見、無慈悲な事を言っているようだが、悪事さえ犯さなければ、家族と一緒にいれると言っているのだ。
「知りませんでしたか? 私、身内に甘いんですよ。姉の最期の遺産ですから、多少の情が湧くものですよ。ただ、一度だけです。二度はありません。そこは頭に入れておいてください。」
レンジは、その言葉を聞いて、「感謝する。」と深く頭を下げた。
実にあっさりと俺達の事件は、終わりを告げた。これからバタバタしそうだが良かった。
「ええ、感謝してください。あ、そうだ。人間さん。」
思い出したようにムゲツは、俺に向かってこう続けた。
「鬼島の真冬さんという方が『非常に怒っているので帰ってきたら覚悟しておいてください。』と伝えてくれと言っていましたよ。
ご丁寧に声音まで真似て伝えられた言葉に背筋が寒くなる。
ああ、そうだよなぁ。怒ってない訳ないよなぁ・・・・・・
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