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3章
Part 174『逆鱗はすぐそこに』
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「ああ、もう、鬱陶しいですね!」
少し、苛立ちの混じった声音で粉雪は呟いた。あれから随分と戦いは長引いている。
実力差は、圧倒的だった。正直、粉雪と戦っている美男美女の二人組は、それほどの実力はなかった。
個々の能力だけ見れば、はるかに劣っている。しかし、何故か攻めきれない。
二人の動きは、最初から二人で戦うことを想定されて考えられたものであった。
隙をついたと思っても、その隙をもう一人がカバーする。攻撃も防いだと思ったらもう一人が正確無比な攻撃を放ってくる。
しかし、それでも、粉雪の方が勝算はある。粉雪は、手に持っていた袋からいくつもの武器を取り出して使っては捨てる様な戦いをしていた。
槍、鎌、斧、刀、短刀、大剣、弓、金槌、手裏剣
おおよそ、一人で扱うとは思えない量の武器が辺りに散乱していた。
本来であれば、戦闘において武器を複数持つ事は多くない。精々、持っていても二種、三種類以上持てば変わり者である。
それは、全ての武器を持っていたとしてもその熟練度に差が出るからである。どれも中途半端に覚えた程度であれば、達人の域にまで到達したものには勝てない。
それならば、一つの武器を極める方が圧倒的に有意義である。
苦手なものをなくそうと努力したキズキでさえ、使う獲物は、三種類程度である。
それ以上は、明らかに質が落ちる。ゲームと違って武術というのは、一日の鍛錬を怠れば、取り戻すのに十日かかると言われるほどである。
つまるところ、身につけたとしても、鍛錬を続けなければ、技術は鈍っていく。
しかし、粉雪は、まるで長年使い続けた熟練の武道家の様にその数多の武器を使いこなしていた。
粉雪は、紛れもない天才である。粉雪自身、その自負があった。
圧倒的な先頭に関する才能は、並び立つものを許さないほどであった。大した修練を重ねる必要もなく、達人の域まで達してしまう。そんな破壊的な才能を粉雪は有していた。
粉雪にしてみれば、武器などをわざわざ一つに絞って戦う意味すら理解できない。
どの武器にも短所と長所があり、だからこそ、必要に応じて、使い分け、その性能を引き出してやれば良いのにと。
それは、天才である粉雪だからこそ許される発想であった。
全ての武器をすぐに極める事ができる。常識の埒外に存在する異能の様な才能。
才能だけならば、鬼島で一番の実力者だと皆、口を揃えていうだろう。
「化物 勝利 困難 生存 優先」
「うん。こりゃあ、想像以上だ。さすがは、鬼島」
美男美女二人組は、攻撃する事をやめていた。意味がない事はしない。明らかに実力差がある。
「攻める気がないならとっとと降伏する事をお勧めしますけど?」
「残念ながら、そう簡単に諦めるのを許してくれないのさ。私達の雇い主は」
「脅威 認定 防御 専念 無傷 確信」
「『あなたが強いのは認める。ただ、防御に専念すれば無傷でいられる。』と麗しの妹は言っているよ。同感だ。身体能力、技量確かに眼を見張るものがある。けれど、生き延びるというだけなら、僕達、二人なら造作もない。」
「圧倒的に身体能力で劣っていると分かってて戦うんですか? 愚かとしか言いようがありませんね。」
「負けるとは思わないね。何より兄である私が妹であるネネに傷をつけさせる訳がない。」
粉雪は、近くにあった斧を投げつけるがすぐにネネに弾かれる。
「・・・・・・イライラしますね。」
粉雪は、あからさまに不愉快そうな表情を浮かべて攻撃を続ける。ナイフ、薙刀、棍棒、鉤爪、節操なく様々な種類の武器が、粉雪の手によって最高級の凶器へと変わり、二人を狙う。
だというのに攻めきれない。霧を相手にしている様な捉えどころのない二人に粉雪の苛立ちは増すばかりであった。
「身体能力で勝てないのは事実だ。けれど、それ一つが勝敗を決めるという訳ではない。君は確かに数多の武器を使いこなす天才かもしれない。けれど、君の攻撃は、正しいだけだ。正確で読みやすい。駆け引きもほとんどない。守りに徹すれば、私達でも君を完封できる。まあ、攻めるにはリスクが高すぎるがね。実践経験不足だよ。君とはくぐってきた修羅場が違う。」
「身体能力の差は努力で埋められると?」
「? 君は、身体能力の差について異常に固執している様だけどね。それは、言い訳だよ。身体能力の差を埋めるのが技術であり、知恵だろう?」
そう言われ粉雪は、小さく苛立ちを込めた声音で呟いた。
「・・・・・・プッツンきました。ガチギレです。」
彼女の逆鱗に触れた事に男は気付かなかった。
少し、苛立ちの混じった声音で粉雪は呟いた。あれから随分と戦いは長引いている。
実力差は、圧倒的だった。正直、粉雪と戦っている美男美女の二人組は、それほどの実力はなかった。
個々の能力だけ見れば、はるかに劣っている。しかし、何故か攻めきれない。
二人の動きは、最初から二人で戦うことを想定されて考えられたものであった。
隙をついたと思っても、その隙をもう一人がカバーする。攻撃も防いだと思ったらもう一人が正確無比な攻撃を放ってくる。
しかし、それでも、粉雪の方が勝算はある。粉雪は、手に持っていた袋からいくつもの武器を取り出して使っては捨てる様な戦いをしていた。
槍、鎌、斧、刀、短刀、大剣、弓、金槌、手裏剣
おおよそ、一人で扱うとは思えない量の武器が辺りに散乱していた。
本来であれば、戦闘において武器を複数持つ事は多くない。精々、持っていても二種、三種類以上持てば変わり者である。
それは、全ての武器を持っていたとしてもその熟練度に差が出るからである。どれも中途半端に覚えた程度であれば、達人の域にまで到達したものには勝てない。
それならば、一つの武器を極める方が圧倒的に有意義である。
苦手なものをなくそうと努力したキズキでさえ、使う獲物は、三種類程度である。
それ以上は、明らかに質が落ちる。ゲームと違って武術というのは、一日の鍛錬を怠れば、取り戻すのに十日かかると言われるほどである。
つまるところ、身につけたとしても、鍛錬を続けなければ、技術は鈍っていく。
しかし、粉雪は、まるで長年使い続けた熟練の武道家の様にその数多の武器を使いこなしていた。
粉雪は、紛れもない天才である。粉雪自身、その自負があった。
圧倒的な先頭に関する才能は、並び立つものを許さないほどであった。大した修練を重ねる必要もなく、達人の域まで達してしまう。そんな破壊的な才能を粉雪は有していた。
粉雪にしてみれば、武器などをわざわざ一つに絞って戦う意味すら理解できない。
どの武器にも短所と長所があり、だからこそ、必要に応じて、使い分け、その性能を引き出してやれば良いのにと。
それは、天才である粉雪だからこそ許される発想であった。
全ての武器をすぐに極める事ができる。常識の埒外に存在する異能の様な才能。
才能だけならば、鬼島で一番の実力者だと皆、口を揃えていうだろう。
「化物 勝利 困難 生存 優先」
「うん。こりゃあ、想像以上だ。さすがは、鬼島」
美男美女二人組は、攻撃する事をやめていた。意味がない事はしない。明らかに実力差がある。
「攻める気がないならとっとと降伏する事をお勧めしますけど?」
「残念ながら、そう簡単に諦めるのを許してくれないのさ。私達の雇い主は」
「脅威 認定 防御 専念 無傷 確信」
「『あなたが強いのは認める。ただ、防御に専念すれば無傷でいられる。』と麗しの妹は言っているよ。同感だ。身体能力、技量確かに眼を見張るものがある。けれど、生き延びるというだけなら、僕達、二人なら造作もない。」
「圧倒的に身体能力で劣っていると分かってて戦うんですか? 愚かとしか言いようがありませんね。」
「負けるとは思わないね。何より兄である私が妹であるネネに傷をつけさせる訳がない。」
粉雪は、近くにあった斧を投げつけるがすぐにネネに弾かれる。
「・・・・・・イライラしますね。」
粉雪は、あからさまに不愉快そうな表情を浮かべて攻撃を続ける。ナイフ、薙刀、棍棒、鉤爪、節操なく様々な種類の武器が、粉雪の手によって最高級の凶器へと変わり、二人を狙う。
だというのに攻めきれない。霧を相手にしている様な捉えどころのない二人に粉雪の苛立ちは増すばかりであった。
「身体能力で勝てないのは事実だ。けれど、それ一つが勝敗を決めるという訳ではない。君は確かに数多の武器を使いこなす天才かもしれない。けれど、君の攻撃は、正しいだけだ。正確で読みやすい。駆け引きもほとんどない。守りに徹すれば、私達でも君を完封できる。まあ、攻めるにはリスクが高すぎるがね。実践経験不足だよ。君とはくぐってきた修羅場が違う。」
「身体能力の差は努力で埋められると?」
「? 君は、身体能力の差について異常に固執している様だけどね。それは、言い訳だよ。身体能力の差を埋めるのが技術であり、知恵だろう?」
そう言われ粉雪は、小さく苛立ちを込めた声音で呟いた。
「・・・・・・プッツンきました。ガチギレです。」
彼女の逆鱗に触れた事に男は気付かなかった。
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