咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 149 『ハチ』

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 目を覚ました時、随分、先ほどとは違う光景になっていた。

 先ほどいた場所よりも明らかに温度が低く、肌寒いと感じる。半袖で行動するのは少し辛いような温度である。

 気絶した俺は、自動車(こいつの正式名称をそういえば知らない)の席に座って伸びていた。乗り物自体は完全に停止しており、車の中には誰もいない。

 起き上がろうとすると首が重い。どことなく張っているような感覚すらある。

 五体満足という事は、あの超距離ジャンプに成功したようである。確かに車にはあの立体的な動きは不可能である。

 この身体中に巻きついているシートベルトにもしっかりと意味はあったのだ。今度から車の後部座席でもちゃんと付けようと思った。

 「ていうか、真冬さんとサクヤは・・・・・・?」

 置いていかれたのかと一瞬不安になるが、どうやら杞憂だったようで外から声が聞こえる。

 シートベルトを外して屋根の上から這い出るとそこには、真冬さんとサクヤの他に一人の妖怪がいた。

 体は、薄い青の体毛に覆われている。しかし、顔の辺りには毛がなく肌が見えており、人間の様な顔つきである。頭にはうさぎのように長い耳がピクピクと周囲の音に反応して動いている。

 そして、お尻の辺りからはフサフサの尻尾が生えている。

 「あ、目覚めたみたいでございますか?」

 なんとも不思議な言葉遣いをしながらクリクリっとした可愛らしい瞳をこちらに向けてその妖怪は肉球のついた腕を上げて手を振っている。

 なんとなく、返さないのも悪いので手を振り返す。

 「あ、峰さん、起きたんですね。気絶しちゃってたのでどうしようかと思いました。」

 「峰さん、運転中振動でヘドバンしてたんですけど、大丈夫ですか?」

 何故か首が重いのはそのせいか・・・・・・

 「まあ、大丈夫、帰りは安全運転でお願いします。真冬さん。それで、こちらの方は・・・・・・」

 俺が乗り物から降りるとケモノの妖怪は一礼した。

 「初めましてでございます。私、ハチでございます。」

 「殺された店主の店で働いてた従業員だったみたいです。」

 サクヤが俺に近づいてきて小さな声で話しかける。

 「初めまして、峰 日向です。この度は、その・・・・・・御愁傷様でした」

 身内が死んでしまった人にかける言葉が思い浮かばず当たり障りのない言葉を使ってしまう。

 「いえ、気にしないでほしいです。最初からわかってた事でございます。職業柄、人に恨まれやすいでございますから、いつかは、そうなるとわかっていたのでございます。」

 「ちなみにどういう仕事をしていたんですか?」

 「願いを叶える店でございます。ただ、非常にあこぎな商売でございます。」

 ハチは、それだけ言うと「立ち話もなんですし、店に案内するでございます。」と話を切り上げて俺達を店まで案内する。

 俺もこの肌寒い場所で長話をするのは少し嫌だったのでそれに続いた。
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