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2章
Part 91 『信頼関係』
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額に向かって銃弾が飛んでくる。その直後、頭を鈍器で殴られたように衝撃が走った。体は制御を失いそのまま、地面に向かって落下する。
完全に裏を読まれた。僕が転移する事も計算していたのだ。そうでなければ、あのタイミングでの瞬間移動など不可能だ。
咄嗟に防御のための魔法を起動したがそれでも勢いを殺しきれなかった。
額からは血が湧き水のように勢いよく出ているのが分かる。
一瞬、本気で意識を持っていかれかけた。踏ん張れたのは奇跡だ。けれど、軽い脳震盪にでもなっているのか、思考が上手くまとまらない。
上手く動かない体でなんとか防御用の魔法の道具を起動する。
虎の子の道具、肉体に攻撃を受ければ人形がその傷を肩代わりしてくれる身代わり人形。痛みも衝撃も防いでくれないが傷にはならないという代物だ。効力は3分程度だが、それぐらい時間があれば、立て直せる・・・
道具を起動した次の瞬間、銃声と共に自分の体に衝撃が走る。肺を急激に圧迫され無理矢理に空気を吐きださせられる。
耐えきれずに咳き込みながら、痛みのするお腹を抑える。撃たれた・・・
「まさか、あれで死なないとは・・・けれど、チェックメイトです。今から貴方に攻撃し続けます。魔法なんて使わせません。」
銃撃が始まった。容赦のないその攻撃は、私の身体中に激痛を走らせた。傷はない。けれど、気を失いそうになるほどの痛みが継続的に襲ってくる。
「あの時、私を拘束ではなく殺しておくべきだった。そうすれば、あなたはこんな目にも合う事もなければ、仲間を死なせる事もなかった。」
絶え間なく発砲しながらユキは私にそう言ってくる。正直、答えるだけの余裕がある訳じゃない。私は、基本的に部の悪い勝負はしない主義だ。だから、こんな一方的に痛めつけられる状況なんてそもそもない。
痛いのも苦しいのも嫌いだ。
(そろそろ、寝てないで起きて僕を助けに来なよ・・・君は僕の剣で盾なんだから)
ユキは根本的に勘違いしている。銃弾10発を受けたぐらいで死ぬような奴なら僕は自分の身を守るのを任せたりしない。
あいつは、そんな簡単に死ぬほど弱くない。
「もう、そろそろ、諦めて死んでくれないかな・・・」
ユキが私にそう呟いた。しかし、すぐに背後に何かの気配があることに気が付き慌てて振り向く。すると、先ほどのまでの無表情が驚愕の表情に変わるのが見えていないのに分かった。
ユキの背後にいたのは、3mを超える巨大な真っ黒な狼だった。巨大な狼は、喉を鳴らしながら牙を剥き出しにする。初めて出会えば本能的に恐怖を覚えるような大きさの獣はすぐに移動して僕の前に現れる。
「リド・・・遅すぎ・・・」
「り・・・ど・・・?」
ユキが意味を理解できないと言う表情を浮かべる。
「だって、さっき確かに殺したはず・・・」
「あー頭痛い。ていうか・・・身体中痛い・・・ていうか、リド、君は、もう少し早く来れなかったの・・・」
(無茶を言うな。流石の俺でも十発撃たれれば、回復に時間がかかるってんだよ・・・)
リドの心を読みながら会話をする・・・だいぶ思考能力が戻ってきた。
リドは、昔に村一つを一夜で滅ぼしたという伝承をもつ恐ろしい狼の妖怪だ。
曰く、その怪物、雷のように速く、その牙は、岩すらも噛み砕き、その爪は、刀よりも鋭く強靭、100の矢を受けても倒れず、まるで死を忘れたかのようである。と。
「うちのボディガードを本気で殺す気なら爆弾でも持ってくるといいよ。」
(何を言ってんだ。あんた・・・)
不満そうな声を上げるリドを無視してユキを見る。
「もう一度、同じように・・・」
「無理だよ。この距離じゃ君は一発も撃てないよ。」
「何言って・・・」
ユキが言葉を終えるよりも速く、リドの爪が、銃を切り裂いた。スクラップになった破片がユキの周りに散らばる。
この間合いでは、銃を準備なんてさせない。この間合いでは思考しなけれならない魔女は防御に徹するしかない。
そうすれば、ユキが取る行動など一つしかない。
ユキは、僕たちの前から姿を消した。形勢を立て直すつもりだろうが、そうはさせない。
「リド、人間に戻って準備してて、決めるよ。」
僕も同じように瞬間移動する。上空に転移し、空中で浮遊する。もう、魔法を使わないのはやめだ。
「変な死に方しないでくれよ。」
僕は、魔法を使っていくつもの爆弾を生成し、適当に落とし爆撃を開始する。
轟音と共に爆煙がいくつも舞い上がる。リドや峰に被害が出ないようにしているから大丈夫だとは思うけれど、随分と悲惨な光景が広がっていた。
爆弾のせいで辺りにあった大きな岩の破片は粉々になっていた。しかし、燃え広がるものがないせいか、そこまで炎は出ていない。
遮蔽物がほとんどなくなったおかげで、すぐにユキの姿を確認することができた。
瞬間移動ですぐに移動する。ユキは憎らしげな表情を浮かべて僕を睨んでいた。
「どうしたんだい? 随分と感情豊かじゃないか・・・」
「・・・絶対に殺してやる・・・」
ユキは、銃を出現させると僕に向かって発砲する。けれど、その銃弾は、僕には届かない。
見えない空気の壁が弾丸の勢いを殺した。弾丸は、勢いを失い地面に落下する。
「もう油断はない。魔女ってのはイメージする力がそのまま強さになる。だから、長く生きた魔女っていうのはより素早くイメージできるように練習する。君が想像する以上に僕は、君よりも魔法のスピードが早いよ。」
「余裕あるじゃん・・・だったら、もう一度、弱い奴を狙って・・・」
僕は、銃を出現させて、銃口をユキに向ける。
「僕が攻撃に回った時点でもう君に勝ち目はないんだって・・・ちゃんと防御しなよ。当たると死ぬほど痛いぜ・・・あ、これ体験談だよ。」
毎秒十五発の鉛玉がユキに向かって襲いかかる。しかし、ユキの防御に阻まれて攻撃は通ることはない。
それでいい。こんな速度で連射していればすぐに弾切れが起こる事は分かっている。だから、相手もそれに合わせて攻撃してくるはずだ。
相手にこちらを攻撃しようという意識を持たせることが重要事項、そうすれば、必ず相手は・・・
打ち続けた銃は、残弾がなくなり、弾が出なくなる。それを好機と反撃の態勢に出たその瞬間に僕は、フラッシュバンを転移させる。ピンは転移させずにだ。
ユキがこちらに発砲しようとしたその目の前にフラッシュバンを出現させる。
「チェックメイトだ。ユキ」
耳が痛くなるような高い音と急激な明るい光に視界と耳がやられる。正直、この距離なら僕も同様のダメージを受けることは分かっている。けれど、それでも構わない。
数秒の隙ができれば、リドがやってくれるだろうからね。
僕は、安心してその場に座り込んだ。はぁ、疲れた・・・
完全に裏を読まれた。僕が転移する事も計算していたのだ。そうでなければ、あのタイミングでの瞬間移動など不可能だ。
咄嗟に防御のための魔法を起動したがそれでも勢いを殺しきれなかった。
額からは血が湧き水のように勢いよく出ているのが分かる。
一瞬、本気で意識を持っていかれかけた。踏ん張れたのは奇跡だ。けれど、軽い脳震盪にでもなっているのか、思考が上手くまとまらない。
上手く動かない体でなんとか防御用の魔法の道具を起動する。
虎の子の道具、肉体に攻撃を受ければ人形がその傷を肩代わりしてくれる身代わり人形。痛みも衝撃も防いでくれないが傷にはならないという代物だ。効力は3分程度だが、それぐらい時間があれば、立て直せる・・・
道具を起動した次の瞬間、銃声と共に自分の体に衝撃が走る。肺を急激に圧迫され無理矢理に空気を吐きださせられる。
耐えきれずに咳き込みながら、痛みのするお腹を抑える。撃たれた・・・
「まさか、あれで死なないとは・・・けれど、チェックメイトです。今から貴方に攻撃し続けます。魔法なんて使わせません。」
銃撃が始まった。容赦のないその攻撃は、私の身体中に激痛を走らせた。傷はない。けれど、気を失いそうになるほどの痛みが継続的に襲ってくる。
「あの時、私を拘束ではなく殺しておくべきだった。そうすれば、あなたはこんな目にも合う事もなければ、仲間を死なせる事もなかった。」
絶え間なく発砲しながらユキは私にそう言ってくる。正直、答えるだけの余裕がある訳じゃない。私は、基本的に部の悪い勝負はしない主義だ。だから、こんな一方的に痛めつけられる状況なんてそもそもない。
痛いのも苦しいのも嫌いだ。
(そろそろ、寝てないで起きて僕を助けに来なよ・・・君は僕の剣で盾なんだから)
ユキは根本的に勘違いしている。銃弾10発を受けたぐらいで死ぬような奴なら僕は自分の身を守るのを任せたりしない。
あいつは、そんな簡単に死ぬほど弱くない。
「もう、そろそろ、諦めて死んでくれないかな・・・」
ユキが私にそう呟いた。しかし、すぐに背後に何かの気配があることに気が付き慌てて振り向く。すると、先ほどのまでの無表情が驚愕の表情に変わるのが見えていないのに分かった。
ユキの背後にいたのは、3mを超える巨大な真っ黒な狼だった。巨大な狼は、喉を鳴らしながら牙を剥き出しにする。初めて出会えば本能的に恐怖を覚えるような大きさの獣はすぐに移動して僕の前に現れる。
「リド・・・遅すぎ・・・」
「り・・・ど・・・?」
ユキが意味を理解できないと言う表情を浮かべる。
「だって、さっき確かに殺したはず・・・」
「あー頭痛い。ていうか・・・身体中痛い・・・ていうか、リド、君は、もう少し早く来れなかったの・・・」
(無茶を言うな。流石の俺でも十発撃たれれば、回復に時間がかかるってんだよ・・・)
リドの心を読みながら会話をする・・・だいぶ思考能力が戻ってきた。
リドは、昔に村一つを一夜で滅ぼしたという伝承をもつ恐ろしい狼の妖怪だ。
曰く、その怪物、雷のように速く、その牙は、岩すらも噛み砕き、その爪は、刀よりも鋭く強靭、100の矢を受けても倒れず、まるで死を忘れたかのようである。と。
「うちのボディガードを本気で殺す気なら爆弾でも持ってくるといいよ。」
(何を言ってんだ。あんた・・・)
不満そうな声を上げるリドを無視してユキを見る。
「もう一度、同じように・・・」
「無理だよ。この距離じゃ君は一発も撃てないよ。」
「何言って・・・」
ユキが言葉を終えるよりも速く、リドの爪が、銃を切り裂いた。スクラップになった破片がユキの周りに散らばる。
この間合いでは、銃を準備なんてさせない。この間合いでは思考しなけれならない魔女は防御に徹するしかない。
そうすれば、ユキが取る行動など一つしかない。
ユキは、僕たちの前から姿を消した。形勢を立て直すつもりだろうが、そうはさせない。
「リド、人間に戻って準備してて、決めるよ。」
僕も同じように瞬間移動する。上空に転移し、空中で浮遊する。もう、魔法を使わないのはやめだ。
「変な死に方しないでくれよ。」
僕は、魔法を使っていくつもの爆弾を生成し、適当に落とし爆撃を開始する。
轟音と共に爆煙がいくつも舞い上がる。リドや峰に被害が出ないようにしているから大丈夫だとは思うけれど、随分と悲惨な光景が広がっていた。
爆弾のせいで辺りにあった大きな岩の破片は粉々になっていた。しかし、燃え広がるものがないせいか、そこまで炎は出ていない。
遮蔽物がほとんどなくなったおかげで、すぐにユキの姿を確認することができた。
瞬間移動ですぐに移動する。ユキは憎らしげな表情を浮かべて僕を睨んでいた。
「どうしたんだい? 随分と感情豊かじゃないか・・・」
「・・・絶対に殺してやる・・・」
ユキは、銃を出現させると僕に向かって発砲する。けれど、その銃弾は、僕には届かない。
見えない空気の壁が弾丸の勢いを殺した。弾丸は、勢いを失い地面に落下する。
「もう油断はない。魔女ってのはイメージする力がそのまま強さになる。だから、長く生きた魔女っていうのはより素早くイメージできるように練習する。君が想像する以上に僕は、君よりも魔法のスピードが早いよ。」
「余裕あるじゃん・・・だったら、もう一度、弱い奴を狙って・・・」
僕は、銃を出現させて、銃口をユキに向ける。
「僕が攻撃に回った時点でもう君に勝ち目はないんだって・・・ちゃんと防御しなよ。当たると死ぬほど痛いぜ・・・あ、これ体験談だよ。」
毎秒十五発の鉛玉がユキに向かって襲いかかる。しかし、ユキの防御に阻まれて攻撃は通ることはない。
それでいい。こんな速度で連射していればすぐに弾切れが起こる事は分かっている。だから、相手もそれに合わせて攻撃してくるはずだ。
相手にこちらを攻撃しようという意識を持たせることが重要事項、そうすれば、必ず相手は・・・
打ち続けた銃は、残弾がなくなり、弾が出なくなる。それを好機と反撃の態勢に出たその瞬間に僕は、フラッシュバンを転移させる。ピンは転移させずにだ。
ユキがこちらに発砲しようとしたその目の前にフラッシュバンを出現させる。
「チェックメイトだ。ユキ」
耳が痛くなるような高い音と急激な明るい光に視界と耳がやられる。正直、この距離なら僕も同様のダメージを受けることは分かっている。けれど、それでも構わない。
数秒の隙ができれば、リドがやってくれるだろうからね。
僕は、安心してその場に座り込んだ。はぁ、疲れた・・・
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