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2章
Part 90 『キリング・ウィッチ』
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僕とリドは、雪を挟むように二手に分かれた。僕は、囮役という訳だ。実際、一番警戒されているのは僕だから奇襲には向かない。
しかし、剣と盾の仕事をするはずのリドを僕が守るなんてアベコベだ。
けれど、身体能力が高く、日本刀を扱えるという点において、奇襲をするならどう考えても僕よりもリドの方がそういう仕事は向いているのも事実なので諦めて囮役に専念する。
魔法を使って一つ道具を出現させる。小さな筒状の道具にピンがつけられた爆弾だ。しかし、殺傷目的ではないフラッシュバンと呼ばれる非殺傷兵器の一つで爆発後、周囲10mに強烈な閃光と一時的に聴覚を麻痺させるような爆音を響かせ対象の視覚と聴覚を一時的に奪う兵器である。
このレベルの代物なら大した魔力消費ではない。精々、数日前に食べたご飯が思い出せない程度だ。
本当は電撃銃でも使って相手を拘束するのが良いのだが、相手は魔女で意識があれば体の自由は聞かなくても最悪反撃されてしまう。
それに一瞬の不意を付ければリドがなんとかしてくれる。リドもただ、気まぐれで僕の護衛なんてものをやっている訳じゃない。真冬程ではないが、人間以上の筋力と本気の真冬を上回る程のスピードがある。つまり、無防備な瞬間が一瞬でもあれば、勝負はすぐに決まる。
さて、そろそろ、こっちの位置がバレている頃だろう。
「見つけました。」
淡白な感情のない業務的な声が聞こえてくる。空中を漂う銃器はまるで翼のようにユキの周りを浮遊する。
「そんなに湯水のごとく魔法を使っていいのかい? 大盤振る舞いだね・・・。それと、君の喋り方そっちが素なのかい?」
「・・・・・・」
僕の言葉にユキは答えない。あくまで機械的であろうとするのなら、仕方ない。少し挑発してみるか。
「おいおい、無視しないでくれよ。もう、意識が戻ってるんだろう? 魔女のユキちゃん」
そう言うとユキの表情が一瞬動く、どうやら予想通りだ。意識がない状態で言葉を発するのには多少の違和感があった。
呪いは自我を持つようなものじゃない。ユキの思考を邪魔者を排除してでも目的を果たすという行動をさせるためのただの首輪だ。
相変わらず、呪いがキツすぎて思考を読むことは出来ないけれど、それぐらいは予想できている。
しかし、邪魔者は全て殺すという目的に縛られている以上、説得は不可能だ。結局することは何一つ変わらない。
「・・・・・・」
「でも、随分と優しいじゃないか。邪魔者を殺すなら、僕なら真っ先に峰を殺しに行くけど、君は峰でもリドでもなく、一番面倒な僕を殺しにくる。あれかい? デザートは最後に食べるタイプかな?」
「・・・・・・一つ勘違いをしている。」
今まで黙っていたユキがポツリと口を開いだ。
「勘違い?」
「あなたと一緒にいたリドという男は、ここには来ない。挟み撃ちして倒しにくるのは予想出来ていた。だから対処している。」
次の瞬間、少し離れた場所で弾けるような銃声がいくつも響いた。
そして、その中にリドの声が混じっていたのも聞こえてきた。そして、ドサリというリドの巨体が崩れる音。
そして、音の方から赤い、赤い血がゆっくりと流れていた。
「右足に三発、右腕に四発、胴体に三発、計十発が命中、もう、長くない。」
どうやら、魔法で確認したようで正確な数を伝えてくる。全く、魔法の無駄遣いをする。
しかし、リドがやられるとは・・・完全に予定が狂ってしまった。
撃たれたことに関して動揺はない。そういう危険性を考えた上での作戦だった。だが、つまりは、方針を少し変えなければいけない。
「はは、容赦がないじゃないか・・・。」僕はそう言って笑って誤魔化す。
呪いのせいで殺人に関して抵抗がなくなったか・・・
呪いが発動する前のユキは確かに殺すつもりで行動していた。しかし、何処か潜在意識のレベルで殺人に対する抵抗のようなものがあった。
今はそんなものが一切感じられない。敵に対してなんの情もわかないとも言いたげな眼は暗殺者のそれだ。
「で、僕に対してなんで発砲してこないんだい? いつでも撃てる準備をしているんだろう?」
「いつでも撃てるけれど、それでも確実に殺すことは出来ないことは知っている。」
「知らないのかい? 魔女同士の戦いは持久戦だ。相手の魔力が尽きるまで、とことんやり合うのが定石だよ。」
「それだと不利なのは変わらない。なので違う手段にした。」
そういうとユキは銃の翼の片翼の銃口を私から逸らした。その先にいるのは峰だ。
「選ぶといい。仲間か自分か・・・魔法を同時に使うのは出来ない。何故なら、魔女はイメージを具現化する。複数のイメージをする事は不可能」
ユキが淡々とそう告げる。実際、その言葉は的を得ている。魔女に複数の魔法を同時に使うというのは難しい。浮く事などは一度発動してしまえば、制御し続けられるが、防御のための魔法などは、複数同時に行うのは酷く難しい。
「僕は、我が身が一番大事だよ。自分の命か依頼人の命かなんて天秤にかけるまでもない。」
「自己保身優先?」
「ああ、我が身が大事さ。」
「あなたの愚策に付き合わされて死んだ仲間が可哀想だ。」
「おいおい、殺したのは君だよ? 僕の責任よりも君の責任の方が重いだろ。」
「それもそうだ。さて、じゃあ、人質にもならないなら、あれはいらない。」
ユキは、全ての銃器を発砲した。一方は僕に。もう一方は、峰にだ。
僕は、その寸前で魔法を起動し峰との射線上に瞬間移動した。その直後、魔法の道具を使用した。今回は銃弾を逸らすようなものではなく盾の役割をする道具だ。
強度は、折り紙つきだ。対人を想定して作られた銃器程度で破れる強度ではない。
銃弾は、見えざる壁によって阻まれ峰のところどころか僕のを通過することすら出来ない。
「まあ、天秤にかけるまでもなく、僕の実力なら両方守れるんだけどね。」
「知っている。その行動もある程度、想定してた。」
背後から聞こえるユキの声に慌てて後ろを振り向く。そこにあったのは、小さな拳銃を僕の額の前に向けて、相変わらずの機械のように顔のない魔女の姿だった。
そして、躊躇など微塵もなく、あっさりと僕に向かって引き金が引かれた。
しかし、剣と盾の仕事をするはずのリドを僕が守るなんてアベコベだ。
けれど、身体能力が高く、日本刀を扱えるという点において、奇襲をするならどう考えても僕よりもリドの方がそういう仕事は向いているのも事実なので諦めて囮役に専念する。
魔法を使って一つ道具を出現させる。小さな筒状の道具にピンがつけられた爆弾だ。しかし、殺傷目的ではないフラッシュバンと呼ばれる非殺傷兵器の一つで爆発後、周囲10mに強烈な閃光と一時的に聴覚を麻痺させるような爆音を響かせ対象の視覚と聴覚を一時的に奪う兵器である。
このレベルの代物なら大した魔力消費ではない。精々、数日前に食べたご飯が思い出せない程度だ。
本当は電撃銃でも使って相手を拘束するのが良いのだが、相手は魔女で意識があれば体の自由は聞かなくても最悪反撃されてしまう。
それに一瞬の不意を付ければリドがなんとかしてくれる。リドもただ、気まぐれで僕の護衛なんてものをやっている訳じゃない。真冬程ではないが、人間以上の筋力と本気の真冬を上回る程のスピードがある。つまり、無防備な瞬間が一瞬でもあれば、勝負はすぐに決まる。
さて、そろそろ、こっちの位置がバレている頃だろう。
「見つけました。」
淡白な感情のない業務的な声が聞こえてくる。空中を漂う銃器はまるで翼のようにユキの周りを浮遊する。
「そんなに湯水のごとく魔法を使っていいのかい? 大盤振る舞いだね・・・。それと、君の喋り方そっちが素なのかい?」
「・・・・・・」
僕の言葉にユキは答えない。あくまで機械的であろうとするのなら、仕方ない。少し挑発してみるか。
「おいおい、無視しないでくれよ。もう、意識が戻ってるんだろう? 魔女のユキちゃん」
そう言うとユキの表情が一瞬動く、どうやら予想通りだ。意識がない状態で言葉を発するのには多少の違和感があった。
呪いは自我を持つようなものじゃない。ユキの思考を邪魔者を排除してでも目的を果たすという行動をさせるためのただの首輪だ。
相変わらず、呪いがキツすぎて思考を読むことは出来ないけれど、それぐらいは予想できている。
しかし、邪魔者は全て殺すという目的に縛られている以上、説得は不可能だ。結局することは何一つ変わらない。
「・・・・・・」
「でも、随分と優しいじゃないか。邪魔者を殺すなら、僕なら真っ先に峰を殺しに行くけど、君は峰でもリドでもなく、一番面倒な僕を殺しにくる。あれかい? デザートは最後に食べるタイプかな?」
「・・・・・・一つ勘違いをしている。」
今まで黙っていたユキがポツリと口を開いだ。
「勘違い?」
「あなたと一緒にいたリドという男は、ここには来ない。挟み撃ちして倒しにくるのは予想出来ていた。だから対処している。」
次の瞬間、少し離れた場所で弾けるような銃声がいくつも響いた。
そして、その中にリドの声が混じっていたのも聞こえてきた。そして、ドサリというリドの巨体が崩れる音。
そして、音の方から赤い、赤い血がゆっくりと流れていた。
「右足に三発、右腕に四発、胴体に三発、計十発が命中、もう、長くない。」
どうやら、魔法で確認したようで正確な数を伝えてくる。全く、魔法の無駄遣いをする。
しかし、リドがやられるとは・・・完全に予定が狂ってしまった。
撃たれたことに関して動揺はない。そういう危険性を考えた上での作戦だった。だが、つまりは、方針を少し変えなければいけない。
「はは、容赦がないじゃないか・・・。」僕はそう言って笑って誤魔化す。
呪いのせいで殺人に関して抵抗がなくなったか・・・
呪いが発動する前のユキは確かに殺すつもりで行動していた。しかし、何処か潜在意識のレベルで殺人に対する抵抗のようなものがあった。
今はそんなものが一切感じられない。敵に対してなんの情もわかないとも言いたげな眼は暗殺者のそれだ。
「で、僕に対してなんで発砲してこないんだい? いつでも撃てる準備をしているんだろう?」
「いつでも撃てるけれど、それでも確実に殺すことは出来ないことは知っている。」
「知らないのかい? 魔女同士の戦いは持久戦だ。相手の魔力が尽きるまで、とことんやり合うのが定石だよ。」
「それだと不利なのは変わらない。なので違う手段にした。」
そういうとユキは銃の翼の片翼の銃口を私から逸らした。その先にいるのは峰だ。
「選ぶといい。仲間か自分か・・・魔法を同時に使うのは出来ない。何故なら、魔女はイメージを具現化する。複数のイメージをする事は不可能」
ユキが淡々とそう告げる。実際、その言葉は的を得ている。魔女に複数の魔法を同時に使うというのは難しい。浮く事などは一度発動してしまえば、制御し続けられるが、防御のための魔法などは、複数同時に行うのは酷く難しい。
「僕は、我が身が一番大事だよ。自分の命か依頼人の命かなんて天秤にかけるまでもない。」
「自己保身優先?」
「ああ、我が身が大事さ。」
「あなたの愚策に付き合わされて死んだ仲間が可哀想だ。」
「おいおい、殺したのは君だよ? 僕の責任よりも君の責任の方が重いだろ。」
「それもそうだ。さて、じゃあ、人質にもならないなら、あれはいらない。」
ユキは、全ての銃器を発砲した。一方は僕に。もう一方は、峰にだ。
僕は、その寸前で魔法を起動し峰との射線上に瞬間移動した。その直後、魔法の道具を使用した。今回は銃弾を逸らすようなものではなく盾の役割をする道具だ。
強度は、折り紙つきだ。対人を想定して作られた銃器程度で破れる強度ではない。
銃弾は、見えざる壁によって阻まれ峰のところどころか僕のを通過することすら出来ない。
「まあ、天秤にかけるまでもなく、僕の実力なら両方守れるんだけどね。」
「知っている。その行動もある程度、想定してた。」
背後から聞こえるユキの声に慌てて後ろを振り向く。そこにあったのは、小さな拳銃を僕の額の前に向けて、相変わらずの機械のように顔のない魔女の姿だった。
そして、躊躇など微塵もなく、あっさりと僕に向かって引き金が引かれた。
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