4 / 4
麻薬の呪い
しおりを挟む
荒い息遣いは、艶っぽくもあり獣の様でもあった。時折、甘い吐息を吐きながらシルルは、押し倒した湊の首から鎖骨にかけてをゆっくりと舌を這わせた。
その表情は、以前の様な余裕のある表情ではなく、熱っぽく妖艶な表情であった。それは、まるで
「ねぇ、湊、あなたは私の事、好きかしら? ねぇ、好きよね? 好きよね?」
明らかに様子のおかしいシルルは、焦る様に繰り返しそう尋ねる。それは、お菓子をねだる子供の様に節操がない。
どちらにしろ、自分が死ぬ事には変わりない問いかけだ。と湊は思った。
湊は、自分自身の経験からこうなる事はわかっていた。自分が押し倒されこうして貞操どころか命すら奪われそうな状況で冷静でいられるのは、すでに経験があったからである。
本能とは、抗いがたい。理性的であろうとすればするほど、一度、枷が取れてしまえば、一瞬で決壊する。
吸血鬼の本能が人を食べる事ならば、いつか自分自身の本能に抗えずにこうなるだろうと分かっていた。
目の前にあるのは、どんな料理よりも美味しそうに見える垂涎の品、食べずに捨てるなら諦めもつくだろうが、毎日、つまみ食いをしていれば、もっと欲しくなるのは、明白であった。
それが、人を、否、人外すらも狂わす呪い
「ねぇ、私の事、好きって言って? 湊、ねぇ、湊・・・・・・」
「・・・・・・」
心を動かすまでは食べない。そう言っていたシルルの口元には涎が垂れていた。理性が暴走する欲望に勝てなくなっている。
ここで終わっても良いかもしれない。と湊は思った。
天涯孤独の身である湊は、ここから生き延びても帰る場所などない。帰ったところで待っているのは、今の日々と変わらない生活、力のない自分自身はより強いものに奪われ、貪られる。
普通の人間ですら狂わしてしまうこの呪いを持つ自分はいなくなった方が良いのかもしれない。
「ねぇ、湊、どうしたらあなたは私を愛してくれるの? こんなに愛おしくて愛おしくて苦しいのに、あなたは私を愛してくれないの? ねぇ、どうして?」
「殺すならさっさと殺してください。」
眠る様に死ねたならそれは幸せだと湊は、瞳を閉じた。
荒い息が余計に激しくなる。シルルは、「愛してるわ。湊」と呪詛の様にその言葉を繰り返しながら長く鋭い犬歯を湊の首筋に突き立てた。
ゴクリとシルルは、喉を鳴らす。一切の躊躇なく、シルルは、湊の血を飲んだ。
段々と湊は、意識が朦朧とする感覚に襲われ、思考が纏まらない。体は、凍った様に体温が抜けて生き、指先一つ動かすのですら億劫に感じる。
これが死ぬという事なのかと纏まらない思考の中で湊は思った。
あっさりと訪れた最期に思いのほか特別な感情は抱かなかった。
しかし、湊が終わりを覚悟したその時、どこかで何かが爆発する大きな音が聞こえてくる。明らかにこの家のどこかで爆発が起こった事は確かで爆発の衝撃で湊達のいる部屋も揺れる。
その衝撃にハッと理性を取り戻したシルルは、「ごめんなさい。湊、後でまたお話ししましょう。」とそう言って湊の頬を撫でると急ぎ足で部屋から出て行く。
ボーッとする意識の中で湊は、眠る様に意識を失った。
その表情は、以前の様な余裕のある表情ではなく、熱っぽく妖艶な表情であった。それは、まるで
「ねぇ、湊、あなたは私の事、好きかしら? ねぇ、好きよね? 好きよね?」
明らかに様子のおかしいシルルは、焦る様に繰り返しそう尋ねる。それは、お菓子をねだる子供の様に節操がない。
どちらにしろ、自分が死ぬ事には変わりない問いかけだ。と湊は思った。
湊は、自分自身の経験からこうなる事はわかっていた。自分が押し倒されこうして貞操どころか命すら奪われそうな状況で冷静でいられるのは、すでに経験があったからである。
本能とは、抗いがたい。理性的であろうとすればするほど、一度、枷が取れてしまえば、一瞬で決壊する。
吸血鬼の本能が人を食べる事ならば、いつか自分自身の本能に抗えずにこうなるだろうと分かっていた。
目の前にあるのは、どんな料理よりも美味しそうに見える垂涎の品、食べずに捨てるなら諦めもつくだろうが、毎日、つまみ食いをしていれば、もっと欲しくなるのは、明白であった。
それが、人を、否、人外すらも狂わす呪い
「ねぇ、私の事、好きって言って? 湊、ねぇ、湊・・・・・・」
「・・・・・・」
心を動かすまでは食べない。そう言っていたシルルの口元には涎が垂れていた。理性が暴走する欲望に勝てなくなっている。
ここで終わっても良いかもしれない。と湊は思った。
天涯孤独の身である湊は、ここから生き延びても帰る場所などない。帰ったところで待っているのは、今の日々と変わらない生活、力のない自分自身はより強いものに奪われ、貪られる。
普通の人間ですら狂わしてしまうこの呪いを持つ自分はいなくなった方が良いのかもしれない。
「ねぇ、湊、どうしたらあなたは私を愛してくれるの? こんなに愛おしくて愛おしくて苦しいのに、あなたは私を愛してくれないの? ねぇ、どうして?」
「殺すならさっさと殺してください。」
眠る様に死ねたならそれは幸せだと湊は、瞳を閉じた。
荒い息が余計に激しくなる。シルルは、「愛してるわ。湊」と呪詛の様にその言葉を繰り返しながら長く鋭い犬歯を湊の首筋に突き立てた。
ゴクリとシルルは、喉を鳴らす。一切の躊躇なく、シルルは、湊の血を飲んだ。
段々と湊は、意識が朦朧とする感覚に襲われ、思考が纏まらない。体は、凍った様に体温が抜けて生き、指先一つ動かすのですら億劫に感じる。
これが死ぬという事なのかと纏まらない思考の中で湊は思った。
あっさりと訪れた最期に思いのほか特別な感情は抱かなかった。
しかし、湊が終わりを覚悟したその時、どこかで何かが爆発する大きな音が聞こえてくる。明らかにこの家のどこかで爆発が起こった事は確かで爆発の衝撃で湊達のいる部屋も揺れる。
その衝撃にハッと理性を取り戻したシルルは、「ごめんなさい。湊、後でまたお話ししましょう。」とそう言って湊の頬を撫でると急ぎ足で部屋から出て行く。
ボーッとする意識の中で湊は、眠る様に意識を失った。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる