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麻薬の呪い

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 荒い息遣いは、艶っぽくもあり獣の様でもあった。時折、甘い吐息を吐きながらシルルは、押し倒した湊の首から鎖骨にかけてをゆっくりと舌を這わせた。

 その表情は、以前の様な余裕のある表情ではなく、熱っぽく妖艶な表情であった。それは、まるで

 「ねぇ、湊、あなたは私の事、好きかしら? ねぇ、好きよね? 好きよね?」

 明らかに様子のおかしいシルルは、焦る様に繰り返しそう尋ねる。それは、お菓子をねだる子供の様に節操がない。

 どちらにしろ、自分が死ぬ事には変わりない問いかけだ。と湊は思った。

 湊は、自分自身の経験からこうなる事はわかっていた。自分が押し倒されこうして貞操どころか命すら奪われそうな状況で冷静でいられるのは、すでに経験があったからである。

 本能とは、抗いがたい。理性的であろうとすればするほど、一度、枷が取れてしまえば、一瞬で決壊する。

 吸血鬼の本能が人を食べる事ならば、いつか自分自身の本能に抗えずにこうなるだろうと分かっていた。

 目の前にあるのは、どんな料理よりも美味しそうに見える垂涎の品、食べずに捨てるなら諦めもつくだろうが、毎日、つまみ食いをしていれば、もっと欲しくなるのは、明白であった。

 それが、人を、否、人外すらも狂わす呪い

 「ねぇ、私の事、好きって言って? 湊、ねぇ、湊・・・・・・」

 「・・・・・・」

 心を動かすまでは食べない。そう言っていたシルルの口元には涎が垂れていた。理性が暴走する欲望に勝てなくなっている。

 ここで終わっても良いかもしれない。と湊は思った。

 天涯孤独の身である湊は、ここから生き延びても帰る場所などない。帰ったところで待っているのは、今の日々と変わらない生活、力のない自分自身はより強いものに奪われ、貪られる。

 普通の人間ですら狂わしてしまうこの呪いを持つ自分はいなくなった方が良いのかもしれない。

 「ねぇ、湊、どうしたらあなたは私を愛してくれるの? こんなに愛おしくて愛おしくて苦しいのに、あなたは私を愛してくれないの? ねぇ、どうして?」

 「殺すならさっさと殺してください。」

 眠る様に死ねたならそれは幸せだと湊は、瞳を閉じた。

 荒い息が余計に激しくなる。シルルは、「愛してるわ。湊」と呪詛の様にその言葉を繰り返しながら長く鋭い犬歯を湊の首筋に突き立てた。

 ゴクリとシルルは、喉を鳴らす。一切の躊躇なく、シルルは、湊の血を飲んだ。

 段々と湊は、意識が朦朧とする感覚に襲われ、思考が纏まらない。体は、凍った様に体温が抜けて生き、指先一つ動かすのですら億劫に感じる。

 これが死ぬという事なのかと纏まらない思考の中で湊は思った。

 あっさりと訪れた最期に思いのほか特別な感情は抱かなかった。

 しかし、湊が終わりを覚悟したその時、どこかで何かが爆発する大きな音が聞こえてくる。明らかにこの家のどこかで爆発が起こった事は確かで爆発の衝撃で湊達のいる部屋も揺れる。

 その衝撃にハッと理性を取り戻したシルルは、「ごめんなさい。湊、後でまたお話ししましょう。」とそう言って湊の頬を撫でると急ぎ足で部屋から出て行く。

 ボーッとする意識の中で湊は、眠る様に意識を失った。
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