義手の探偵

御伽 白

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誘拐

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 シロノは、計画がうまく進むだろうかと思いながら、下校していた。

 脅迫がお世辞にも良いこととは思えないが、それでも、人の命には変えられない。

 騙して脅迫するという後ろめたさがあるものの、それを躊躇して人が死んでしまうのは、許されない。

 シロノとしては、なんとか自分も計画に協力したかった。

 しかし、脅迫の内容から、誠に頼むしかなく、悠美さんの誘導に関しても自分は面識がないことと学校などがあり、対応出来ないため、結果的に二人にほとんどお願いする形になってしまっていた。

「まともな説得でどうにかなるなら、話しが早かったんですけどね」

 自分が真摯に説得して解決出来るのなら楽だった。しかし、相手がここまで恋人に執着している以上、自分だけの力ではどうすることも出来ない。

 シロノは妖怪であるため、妖術を使うことが出来るが、それも自分自身の姿を部分的に変更出来る変身能力のみで、それ以外の力は使えない。

 最悪の場合、魔法を使う可能性もあったが、出来れば、シロノは魔法を使いたくはない。

 魔法は、言ってみれば、現実を改変する力であり、妖怪であれば本能的に使うことの出来る特殊な技術である。

 魔法とは現実を偽装する力であり、魔力が尽きなければ、雨を降らせたり、木を燃やしたり、氷の刃で敵を貫いたりが可能である。

 考えることの出来る事象は全て魔法で再現出来ると言えるほどに万能な力である。しかし、その力は、おいそれと使えるほど便利なものではない。

 魔法に使用される魔力は、記憶を燃料とする。つまり、魔法を使えば使うほどに自分の記憶を失ってしまう。

 記憶喪失であるシロノにとって、自分の記憶を燃料にする行為は、ある種、恐怖であった。

 また、全てを失ってしまうかもしれない。そう思うと満足に動くことができない。

 ナユタとの思い出も消えてしまうかもしれない。それは、シロノにとって自分自身が消滅することに等しかった。

 一度や二度、魔法を使った程度では、大した量の記憶が消える訳ではない。しかし、一度、失ったことのある経験が、シロノに魔法を使うことを躊躇させる。

 だからこそ、シロノは、記憶喪失になってから妖術を使うことはあっても、魔法を一度も使ったことはなかった。

「もし、今回の件でもうまくいかなかった場合は、私が魔法を使ってでも」

 この一件は、なんとしても解決する。それがシロノの責任であり、義務である。

 そう決意しながら、帰路に向かう。そんな時である。

「ちょっと待ってくれ!」

 後ろから、男性に声をかけられた。シロノが振り返るとそこには、桐生 真斗がいた。

「あなたは桐生さん? どうしてここに」

 息を切らして走ってきた真斗にシロノは困惑した表情を浮かべてそう尋ねた。

 誠が今、家を訪ねているはずだったため、彼がこの場にいるのが想定外だった。

「悠美を助けてくれ! このままだと、悠美が死んでしまう!」

「どういうことですか?」

 只事ではない様子の真斗にシロノは尋ねた。

 もしかしたら、幻想遺物の暴走が起こってしまったのだろうか。

 そんな不安がシロノの脳裏をよぎった。

「悠美が突然、様子がおかしくなって、まともに会話も出来なくなって・・・・・・」

「そんな・・・・・・悠美さんは、今どこに?」

「そこに停めている車の中に」

 真斗が指を指す方向には、一台のバンが停まっている。

 シロノは慌てて、車に駆け寄り、ドアを開ける。そこには、毛布を被った人がいた。体全体を毛布で覆っているため、姿が見えない。シロノは、車内に入ると毛布を捲る。

「え?」

 思わず、声が漏れた。そこにいたのは、悠美ではなかった。

 毛布をかけられた、ただのマネキンだった。「どういうことで、むぐっ⁉︎」

 真斗に尋ねようとしたその時、口と鼻を布で塞がれ、息が出来なくなる。

 必死に逃れようと暴れるが、抵抗することができない。

 目に涙が浮かぶ、その潤んだ瞳に映るのは、真斗の姿だった。
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みんなの感想(1件)

園村マリノ
2020.02.04 園村マリノ

はじめまして。
まだ全て読んでいないため、途中までの感想となる事をご容赦ください。
クールな玲子に甘党という一面のギャップが素敵で微笑ましいです。誠との掛け合いも良く、幻想遺物の設定も魅力的で、今後の展開が楽しみです。
また後日続きを読ませていただきたいと思っております。

御伽 白
2020.02.04 御伽 白

園村マリノさん、コメントありがとうございます!
私自身がギャップ萌えなので、魅力を伝えられたらと思っていました!とても嬉しいです!
玲子と誠の掛け合いは個人的にも書いてて楽しいシーンなので、楽しく読んでいただけるととても意欲が出ます!
本当にありがとうございます!

解除

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