30 / 45
シロノは恋焦がれ、後悔している。
しおりを挟む
シロノは、蔵の奥に行くと隠していた布袋を持って帰ってきた。そこから取り出したのは、縫い付けられたハンカチと簪だった。
「ナユタと初めて会った日に私は、ここで彼女との縁を結んだんです」
シロノが持つ一番古い記憶。彼女との出会い。自分の過ちの始まりの日だった。
叶川の河川敷にシロノはいた。自分が記憶喪失だということは、すぐに分かった。過去の記憶もなく、
持っていたのは、小さな鞄が一つ。身嗜みは、出かけに行く様にちゃんとしていた。髪はちゃんと簪で留められており、服装も新品の様に綺麗なままだった。
自分の正体が分かるものが一切なく、意図的にそうした様にも感じられた。
鞄の中には、小さな財布と裁縫セットが入っていた。財布にはお金しかなく、身分を示す物も何もなかった。裁縫セットの袋の中には、『縁結び』が入っており、その使い方をシロノは何故か理解していた。そして、それが自分には必要になる代物だと。自分が他とは違う存在であることも何となく感じていた。縁でも結ばなければ、自分は受け入れてもらえないのだという確信もあった。しかし、一人だと分かると焦がれる様に誰かの暖かさを求めてしまうのも、シロノ自身の弱さだった。
シロノは、自分の手がかりを探しに辺りを散策した。そして、縁あって辿り着いたのが千里橋神社だった。自然がうまく調和した神社は優しく自分を迎え入れていくれている様に感じられ、手がかりなどないと思いながらも、神社に足が向かっていた。そして、神社の中を散策しているうちに古い蔵を見つけた。そこのドアが開いていることに気付いて、中に入るとそこには、祭具の数々が片付けられていて、シロノの好奇心を誘った。悪いとは思いつつも吸い込まれる様に中に入った時、声をかけられた。
「あの、そこは関係者以外立ち入り禁止なんです」
突然の声にびっくりして、シロノは祭具の置かれた棚にぶつかってしまった。シロノに向かって一つの祭具が降ってきて、ぶつかりシロノの手に痛みが走った。ヒリヒリと痛む手からは血が滲んでいた。
「大丈夫ですか!?」
そう言って駆け寄って来たのが、ナユタだった。
シロノはすぐに謝りながら蔵を出て行こうとしたが、引き止められ、ナユタからハンカチを渡されて、手当てまでされてしまった。
少し関わっただけで、ナユタが良い人なのはすぐに分かった。この子なら一緒に居させてくれるかもしれない。何も持たないシロノは、人の関わりに飢えていた。自分の居場所を探していた。自分がいてもいい場所が欲しいと狂おしいほどに思っていた。気が付けば、シロノはナユタから貰ったハンカチに自分の簪を結んでいた。そこから先は、予定調和に話が進んだ。記憶喪失で行き場のないことをナユタに話をして、住み込みで働かせて欲しいと頼み込み、ナユタは、それを快く受け入れてくれた。ナユタの父もナユタにお願いされ、シロノを受け入れた。
ナユタとシロノは、とても気が合う友人になり、家族の様に思ってくれていた。しかし、ナユタと仲良くなればなる程にシロノは、自分のしたことが後ろめたくなっていった。
ナユタは、私が縁を結んだから、仲良くなった。
そう思うたびにシロノは自分の心が締め付けられる様な感覚に陥っていた。ズルをしたのは自分だ。後悔するなら、縁を切ってしまえば良い。そう思いながらもシロノは、縁を断ち切ることは出来ず、ただただ、罪悪感を募らせていた。
そして、その罪悪感を薄めるためにシロノは、縁結びを始めた。ズルをしているのが、自分だけでなくなれば、この罪悪感も薄まるのではないか。実際に多くの人の縁を結ぶと心が休まる気がした。
誰も不幸になっていないなら良いじゃないですか。お互いが次第に好きになるのなら、仕組まれた縁でも良いじゃないか。そう思っていた。
「ナユタと初めて会った日に私は、ここで彼女との縁を結んだんです」
シロノが持つ一番古い記憶。彼女との出会い。自分の過ちの始まりの日だった。
叶川の河川敷にシロノはいた。自分が記憶喪失だということは、すぐに分かった。過去の記憶もなく、
持っていたのは、小さな鞄が一つ。身嗜みは、出かけに行く様にちゃんとしていた。髪はちゃんと簪で留められており、服装も新品の様に綺麗なままだった。
自分の正体が分かるものが一切なく、意図的にそうした様にも感じられた。
鞄の中には、小さな財布と裁縫セットが入っていた。財布にはお金しかなく、身分を示す物も何もなかった。裁縫セットの袋の中には、『縁結び』が入っており、その使い方をシロノは何故か理解していた。そして、それが自分には必要になる代物だと。自分が他とは違う存在であることも何となく感じていた。縁でも結ばなければ、自分は受け入れてもらえないのだという確信もあった。しかし、一人だと分かると焦がれる様に誰かの暖かさを求めてしまうのも、シロノ自身の弱さだった。
シロノは、自分の手がかりを探しに辺りを散策した。そして、縁あって辿り着いたのが千里橋神社だった。自然がうまく調和した神社は優しく自分を迎え入れていくれている様に感じられ、手がかりなどないと思いながらも、神社に足が向かっていた。そして、神社の中を散策しているうちに古い蔵を見つけた。そこのドアが開いていることに気付いて、中に入るとそこには、祭具の数々が片付けられていて、シロノの好奇心を誘った。悪いとは思いつつも吸い込まれる様に中に入った時、声をかけられた。
「あの、そこは関係者以外立ち入り禁止なんです」
突然の声にびっくりして、シロノは祭具の置かれた棚にぶつかってしまった。シロノに向かって一つの祭具が降ってきて、ぶつかりシロノの手に痛みが走った。ヒリヒリと痛む手からは血が滲んでいた。
「大丈夫ですか!?」
そう言って駆け寄って来たのが、ナユタだった。
シロノはすぐに謝りながら蔵を出て行こうとしたが、引き止められ、ナユタからハンカチを渡されて、手当てまでされてしまった。
少し関わっただけで、ナユタが良い人なのはすぐに分かった。この子なら一緒に居させてくれるかもしれない。何も持たないシロノは、人の関わりに飢えていた。自分の居場所を探していた。自分がいてもいい場所が欲しいと狂おしいほどに思っていた。気が付けば、シロノはナユタから貰ったハンカチに自分の簪を結んでいた。そこから先は、予定調和に話が進んだ。記憶喪失で行き場のないことをナユタに話をして、住み込みで働かせて欲しいと頼み込み、ナユタは、それを快く受け入れてくれた。ナユタの父もナユタにお願いされ、シロノを受け入れた。
ナユタとシロノは、とても気が合う友人になり、家族の様に思ってくれていた。しかし、ナユタと仲良くなればなる程にシロノは、自分のしたことが後ろめたくなっていった。
ナユタは、私が縁を結んだから、仲良くなった。
そう思うたびにシロノは自分の心が締め付けられる様な感覚に陥っていた。ズルをしたのは自分だ。後悔するなら、縁を切ってしまえば良い。そう思いながらもシロノは、縁を断ち切ることは出来ず、ただただ、罪悪感を募らせていた。
そして、その罪悪感を薄めるためにシロノは、縁結びを始めた。ズルをしているのが、自分だけでなくなれば、この罪悪感も薄まるのではないか。実際に多くの人の縁を結ぶと心が休まる気がした。
誰も不幸になっていないなら良いじゃないですか。お互いが次第に好きになるのなら、仕組まれた縁でも良いじゃないか。そう思っていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる