義手の探偵

御伽 白

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お人好し

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「それで誠さんに何か用だったんですか?」
「大した用事じゃないから別に良い。どうせ、後で私の家にご飯を作りに来るだろうし」
 謝罪の意味を込めたプリンを買ってくるはずなので、今日は間違いなく家に来ると確信していた。催促の意味も兼ねて誠の店を訪れたので、いないなら、いないで特に問題はなかった。
「お二人は付き合ってるわけではないんですよね?」
 加賀としては、二人の関係は聞いているものの納得がいかなかった。お互いの距離は明らかに友人というよりは恋人のそれなのだが、色恋の関係は一切ないという。何でも色恋に結びつけたがるのは良くないが、家に訪ねてご飯を作りに行く関係は、ただの友人関係とは思えない。
「そうだけど?」
 玲子は特に動揺した様子も無く加賀の質問に答えた。その様子は何かを隠しているという様子でもない。この歪な関係に玲子は一切の違和感を感じていなかった。協力関係の延長線であり、お人好しの誠が私生活がおざなりな自分の面倒を見てくれている。それだけの関係である。尊敬も感謝の気持ちも持ってはいるが、恋愛感情を誠に対して意識はしていない。誰にでも優しい誠は結局、誰に対しても同じ様にしていただろう。玲子だから世話を焼いている訳ではない。それが誠の美点であり、欠点でもあった。
「あいつはお人好しだし、そう見えるのも分かるけど、誰に対してもあんな感じだ」
「はあ、そうなんですか」
 加賀は納得のいってない声で返事をしながらも、それ以上の詮索は失礼だと思い言葉を噤んだ。
(誠さんのお節介にしても、玲子さんへの介入は度が過ぎてると思うけど、まあ、他人がとやかくいうのも失礼か)
 他人の色恋に口を出せるほど、加賀も恋愛に精通している訳ではない。それに自分の余計な一言で二人の関係がこじれてしまうのは避けたかった。
 何も言わない加賀に玲子は、話は終わったと踵を返した。
 その時、玲子の視界に一人の女性が映り込んだ。覇気のない陰鬱とした表情を浮かべた女がトボトボとゆっくりと歩いていた。その表情は、明らかに正常ではなく、何かに憑かれている様にすら感じられた。
 玲子は、その人物を知っていた。香穂と春人の話題に上がった縁結びをして結婚が予定されている女性。香穂から写真を見せてもらっていたため、すぐに分かった。
(なんであんな暗い表情をしてるんだ?)
 これから結婚しようという女の表情とは思えなかった。玲子はその違和感が気になって彼女の後をつけることにした。
「じゃあ、私は帰るから、誠がもし帰ってきてたらプリン忘れないように伝えといて」
 加賀にそう伝えると玲子は足早に女を追いかけた。
「はい。お疲れ様です」
 加賀は玲子が去るのをお辞儀をして送り出し、不思議そうに呟いた。
「プリンってなんのことだ?」
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