義手の探偵

御伽 白

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女装

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 女性の行動力というのは目を見張るものがある。
(いや、自分の周囲の女性の行動力が凄まじいのか。)
 道楽館の店の中で誠は香穂に化粧を施されながら、そんなことを考えていた。
 玲子が香穂に連絡を取った次の日には、全ての準備が終了していて、玲子に連れられて彼女の営業する喫茶店兼バーに来ていた。誠が翌日が定休日なのを分かっていて玲子は予定を組んだようだった。香穂の店の扉には臨時休業の掛け札がかかっていた。そんな自由な経営で良いのかと誠は思ったが、化粧を施している香穂がノリノリなので、本当に趣味でやっているのだな。と一人で納得していた。
 自分の顔にいくつもの化粧が塗りたくられていく。目の前の机には、いくつもの化粧品や道具が置かれ、素人目には、それが一体、何のための物なのか分からない物の方が多い。
 香穂に使われて始めてやっとそれらの使用法がわかる。もっともそれがどの様な効果をもたらすのかについては、誠は鏡がないせいで分からなかった。
「激変した方が面白いから鏡は見たらダメ」
 香穂にそう言われ、誠は自分自身がどのような状態になっているのか全くわからない。玲子はその様子を観察しながらメイクの方法について香穂と話している。
 ここまで二人が楽しそうにしているのを見ていると、やらないとは言い出しにくく、誰にも見せないという条件でなすがままにされていた。
「誠くん、小顔だし、眉毛も薄いから、ちょっと化粧をすればすぐに可愛くなれるよぉ~」
「・・・・・・そうですか」
 香穂の言葉に誠は複雑な表情を浮かべる。男らしいとか、かっこいいというものに憧れる男である誠としては、可愛くなるよ。と言われても反応に困ってしまう。
「どうせ化粧をするのなら、頼りがいのある雰囲気に化粧してほしいです」
「ライオンが鹿みたいにビクビクしてたら、違和感しかない」
「むしろ、そっちの方が技術がいるかなぁ」
 要するに適した振る舞いが出来ていないのに姿だけ取り繕っても意味がないという話だ。二人の反応に少しガッカリしながら、自分の顔や首に化粧が施されていく。
 色々なまつ毛を道具で挟まれたり、ペンの様な物で書き込まれたりと非常に手間がかかっている。
(女の子の準備に時間がかかるわけだなぁ)
 男が身だしなみを整えると言えば、大体はワックスを付けて髪を立てたり、髭を剃ったりする程度である。少なくとも誠自身は、その程度しかしていない。
「誠くん、服装はどうする? 私のメイド服貸そうか?」
「いや、流石に・・・・・・」
「胸がスカスカになる」
 玲子は香穂の胸元を見ながら呆れた様に呟く。香穂は、豊満な実に女性らしい体つきをしているため、出るところは出ている。誠が着れば、胸部だけ空間が空いて違和感が出ることは間違いない。
「パッドを入れればいくらでも誤魔化せるよ。男の子は胸が大きい方が好きでしょ? メカと胸は大きい方がロマンあるもんね」
「いや、別に自分に付ける胸はでかくても仕方ないですよ。ていうか、なんですかその歪んだイメージ」
「そうだぞ。香穂。誠はどちらかと言えば足フェチだと思う。足の細くて綺麗な子がタイプだ」
「玲子? 身に覚えが全然ないんだけど・・・・・・」
「大学で告白してた女の子、足が綺麗だって言ってた。」
「それは、まあ・・・・・・そうなんだけど」
 誠は顔が熱くなるのを感じていた。すぐに顔を背けたくなったが、化粧をされているので逃げられない。
 誠としては、女性が胸だのパッドだのの話をされるとどう反応すれば良いのか分からない。本人達は一切、気にしている様子はないので、誠も気にしない様に努めた。
「足かぁ。確かに足も良いわね。足を魅せるならやっぱり、ミニスカメイドかな。ニーソックスとの絶対領域が」
「服は普通のでお願いします!」
 自分のフェチの話題から話を逸らしたくなり、誠は話題を戻した。フェチなのはあくまで見る側で、自分にフェチを感じたいわけではない。
「背格好は私と同じぐらいだし、私の服着てみる? あ、古着とか気になる?」
「いえ、それはないんですけど」
「じゃあ、あとで用意するね」
(女性の着ていた服を男の自分が着るのは、問題があるんじゃないか?)
 香穂のファンの姿を思い出しながら、誠は背筋が寒くなる。もし、ファンにバレたら自分は殺されてしまうかもしれない。
「顔だけ女装じゃダメなんですか?」
「ダメだよ。やるなら完璧にやらないと」
「そうですか」
 誠は小さく溜息を吐いた。しかし、冷静に考えてみれば、こうしてメイクを施されている状況も十分、ファンからの反感を買いそうなので、今更だった。
「大丈夫大丈夫。絶対に似合うから!」
「その心配はしてないんですけど」
「お、自分の顔に自信があるんだね」
「そういう意味でもないんですけど・・・・・・」
 誠は盛り上がる二人を見ながらため息を吐いた。
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